心のあり方改革
少し過保護過ぎるだろうか。舗装もされていない道を踏みしめながらミニエルは考えていた。
しかしシャルは本当に危なっかしい奴だ。というよりアイツの心は、と言った方がいいかもしれない。オレの今まで扱ってきた、出会ってきた心とは違い過ぎてどう対処すればいいのか分からない。
逆に罪人の心は簡単だ。奴らは自分の罪を後悔するか開き直るかの二つしかない。罰の影響もあってか、自分の事を考えるのに手一杯になっている。オレは奴らに贖罪か赦免を言い渡すだけでいい。
まあそっちはどうでもいい。今はシャルだ。アイツが来てから少し心が揺れ動くようになった気がする。別にこれは好意を抱いているとかそんなものではなく、今までは上辺だけの気持ちだったのが『心の底』から感じられるよう思える。アイツがリーゼロッテに喧嘩を売った時の笑いがまさしくそれだった。
マルクとメルクの二人もずいぶん変わった。元々あまり人懐こい奴らでは無かったのにシャルとはすぐに打ち解け、今までより毎日が楽しそうだ。残念ながらイタズラ好きのクソガキ共な点は変わっていないが。その点においてはむしろエスカレートした気がしないでもない。
ジグザグとした道を登り、オレは丘の頂上に辿り着いた。甘味処で団子でも食べながら一息つけようと思っていたのだがすでに先客がいたようだ。
「こんにちはボス。珍しいね、考え事?」
「まあ、ちょっとな。シノブのところは静かで考え事にピッタリだからな」
「ふふっ、少し遠くになるとむしろ騒がしいくらいだけどね」
第三階層の番人、シノブは黒装束から唯一覗かせている目を細めて微笑んだ。オレは団子を注文し、彼の隣に腰掛けた。
「で、考え事って何?詳しく聞かせてくれるかな?」
「新人のことで、ちょっとな」
「ああ!シャルちゃんだよね?最近分身たちが彼女の話で持ちきりだよ」
コイツの分身はその言葉通り身体の一部で、本体から直接指示を出したり分身から得た情報を定期的にキャッチしている。またいくつもの作業を同時に並行出来るようで、オレたちにとっては喉から手が出るほど欲しい。
「で、彼女がどうしたって?」
オレはシノブに自分の悩みを打ち明けた。彼女が来てからいろいろと変わっていくこと、果たしてそれが自分たちにとって良いことなのか不安であること。
「なーるほどね。確かにこんなに悩んでるボスの姿初めて見たなあ」
「うっせー。笑うな」
コイツもコイツでシャルと同じ扱いにくい部類なのだが、だからこそどうすれば良いか分かるかもしれない。そんな淡い期待をしてオレはここにやって来たのだ。
「でも良いのかどうかなんて本人にしか分からないと思うよ」
「……そうだな」
オレはそんな在り来たりな答えを求めに来たんじゃねえんだよ、と心の中で毒づいた。
「まあまあそんな不機嫌な顔にならないで。せっかくだから似たような体験をしたらしい友人のことでも話すよ。メムノンのことは知ってるよね?」
「アイツか」
一時ここで働いていた結構古株の神。見た目としては童女の姿をしているのに年寄り臭い口調をする変な奴だ。一部地域ではこういう女に熱狂的な奴らがいるらしいがオレには到底理解できない。
「彼女、一時スランプに陥っていたんだけど人間の少女たちのおかげで立ち直ることが出来たらしいよ。この前来た時には感情も前よりいっそう豊かになってたね」
「ふーん。人間のおかげで、ねえ」
前々から少し気になっていたことがある。アルケビュースの奴が何故オレのところにシャルを誘導したのか、ということについてだ。アイツはのんきな奴だが意外にも効率主義で、基本的に意味のないことはしない。つまりシャルがここに来たのには意味があるのだ。
これがシャルのためなのかオレのためなのかは実際に奴に問いただしてみなければ分からないだろう。もしくはもう少ししたら自然と分かることだろう。
「要するにアルクのはかりごとって訳ね……」
考えれば考えるほどイライラしてきた。どうせ奴とは五日後のパーティーで会うはずだ。この怒りはその時までとっておこう。
ようやく出てきた団子に噛り付きながらオレは風景を眺めて気を落ち着かせることにした。目の前に広がる草原では罪人たちがビガーエレファントを狩っている。また少し遠くに見える海ゾーンでは巨大な軟体動物に絡まれもがいている罪人たちが見える。
「風情の欠片もねえな」
「今日、明日は狩猟祭だからね。みんな楽しそうだなー」
そうだな。死を目前にすると幸せな気分になると聞くしな。特に海の絡まれてる連中はもう駄目だろうな。
「……真面目な話、海のやつヤバくないか?」
「じゃあそろそろ助けに行こうか。……そうだ!せっかくの祭だし久々に勝負しない?」
こちとら穏やかに過ごしたかっただけなのに何故こうなってしまうのか。既にエモノに手をかけてウズウズしているオレが言う立場ではないが。
「んじゃ、あいつの足を多くぶった切ったほうの勝ちでどうだ?」
「りょーかい!」
これからどうなるかなんてオレには分からねえ。少なくとも今言えることは、シャルが来たことで生活がほんの少し刺激的になって、毎日がほんの少し楽しくなった、気がする、ってことだ。
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