赦し第一階層
「よお、お目覚めかい」
目を開けるとミニエルが顔がこちらを覗き込んでいた。ロリポップを口にくわえてかなりご機嫌の様子だ。
額の汗を拭い息を整える。さっきの記憶は完全に私の中に残っていた。最期の時の生々しい感触はまだ残っており首の辺りがひどく熱を持っているように感じる。
「ここは……」
「ショーエリアさ。まあさっきまでと風景は違うだろうが」
身体を起こし周囲を見渡す。あの世界に行く前に一瞬見た光景と同じだ。不気味に光るアトラクションたちと不協和音な音楽。
「あれ、二人は?」
周囲にあの賑やかな双子の姿が見当たらない。いつの間にかミニエルと二人きりになっていたようだ。
「あいつらなら仕事に行ったよ。今頃罪人達の呻きを聞いて心弾ませているんじゃねーかな」
彼からロリポップを手渡される。酷く甘いものが欲しい気分だったのでありがたく受け取ってペロペロ舐めることに熱心した。
「んじゃ、今起こってることを説明するか。さっきの体験である程度は分かったと思うが一応な」
彼はバリボリとくわえていた飴を噛み砕き次を口に入れた。
「今ここで起きているのは『処罰』。罪を犯した奴に罰を与えるってやつな。死後の世界で悪人を裁くって事でここを地獄だと呼ぶ奴もいるな」
厳密には地獄はまだ別にあって、そこで罪人認定された者がこのエクステリアに送られてくるらしい。要するに地獄は裁判所、エクステリアは刑務所ということだ。
「罰には種類があってな。過去の追体験やら死ぬ苦しみを味わわされたりやらあるが、共通としては罪人を苦しめる幻覚を見せることだ」
苦しんで死んだ罪人には追体験、誰かを苦しめた罪人にはそれと同じ、あるいはそれ以上の苦しみを与えるのが罰だと彼は付け足した。
「模範的な生活を送り、なおかつ罰を受け止めることが出来たものは出所できるって仕組みだな」
「でもそれじゃ永遠に出られない人もいるんじゃないの?」
「いるだろうな。なにせ今のエクステリアには約五万人ほど収容されている。おかげで最近はよっぽどの罪人以外は断らせてもらっているんだ」
元々は本人が悪いとはいえ挽回のチャンスも掴めず何百年、何千年と苦しむ人々を考えるとモヤモヤするものがあった。
罪には罰だ。これは揺るがない。だが罰には赦しがあってもいいのではないか。被害者たちはもちろん赦してはくれないだろうが、誰か一人でも認めてくれる人がいればきっと彼らは立ち直れる。
「んで、どうだった罰は?楽しめたか?」
彼はいたずらっぽい笑みを浮かべて私の答えを待っているようだった。
「そうね。良い夢だったと思うわ」
「ははは、良い夢か!本音か皮肉か分からんがそんな形容したのはアンタが初めてだぜ」
皮肉といえば皮肉だし本音といえば本音だ。突然あんな思いさせられた怒りもあれば過去と向き合うことが出来た感謝もある、複雑な心境だ。
「私、ここで働いてもいい?」
「驚いたな、本気で働くつもりのか。わざわざこんな場所に就職しようと思うなんて物好きな奴だ」
前の仕事もそうだった。物好きしかしないような仕事。しかも最初の私は助けてもらう側。
しかしそこで友達ができ、生きがいができた。暗闇の底から私を救った彼女たちも今必死に新しい事を始めようとしているだろう。私だけ置いていかれるわけにはいかない。
「じゃあ、さっそく仕事を始めるぜ新米獄吏」
空が明るくなり元の遊園地に戻る。遠くからは双子が満足げな顔をしてスキップして来ているのが見えた。
「開けた扉は天国か、はたまた地獄か。大監獄エクステリアへようこそ、だ」
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