睾○、金○、[編集済]ボールせかいをつくるもの
開拓、三日目。今日はあの二人の運命を分ける、重要な日だ。
それにしても緊張からかかなり早く目が覚めてしまった。小さな窓からは黎明の空が顔を覗かせている。まるで今日が本当の始まりだということを知らせるかのように。
バッシュとウルルには昨夜既に知らせてある。あとはツァディの呼んだ人たちが来るのを待つだけだ。結局誰を呼んだのか最後まで教えてくれなかったが、一体誰が来てくれるのだろうか。
僕が部屋を出ると同時に骸骨帽子が自分の部屋から顔を覗かせた。どうやら彼女も僕と同じ理由で起きたようだ。やはり不安そうな表情をしている。
僕はあくまでいつも通りの挨拶をした。彼女にあまり緊張し過ぎないでほしいという思いだった。少しは効果があったのか、彼女は小さく笑って挨拶を返してくれた。
やけに静かだけど今日はあのモップ居ないのかなと思っていたら入り口のほうでぴょんぴょん飛び跳ねていた。散歩に行きたいのかな?犬だし。
「おい見てねーで開けろや!外で中々面白そうなことやってんだよ!」
「面白そうなこと?」
彼の命令に従うのは癪だがそれは気になる。呆れながらもドアを開けるとけたたましい金属音が耳を掠めていった。僕が顔を上げた先にその音の発生源があった。
ぶつかり合う剣と剣。その持ち主の二人は相手の息がかかるくらいに顔を近づかせ、睨み合っている。……いや実際に睨んでいるのはその片方、バッシュのほうだけで、もう一人の黒髪の男性は無表情に剣を構えていた。重そうな鎧を身に纏い冷静に彼の剣を捌く男性。バッシュが劣勢に追い込まれているのは誰の目で見ても明らかだろう。
一体何が起きている?バッシュが闘っている相手は誰だ?少なくとも人間には見えるが。
「おうカイム!久しぶりだな!」
「うん?」
二人がやり合っている傍にノワールが走っていく。彼は鎧の男性の膝に体当たりをぶちかました。それにしてもコイツは体当たりすることしか頭に無いのか?
闘いを邪魔される男性だったが彼の体幹はピクリとも揺れなかった。バッシュの剣を弾き飛ばし、彼の腹に拳を突き立てる。
「く……そ……」
凄く鈍い音がすると同時にバッシュがその場に倒れこんだ。漂っていた緊張感がなくなったのも束の間、男性がノワールの背中を掴みかかる。
「こんなところに居たのかノワール!突然お前がいなくなって俺の世界は一時大混乱したんだぞ!」
「なんだよー、オレ様の後釜もちゃーんと準備しておいただろ?」
「そうそいつ!アイツやり過ぎなんだよ!なんで雨が欲しいと言っただけで大水害引き起こしてんだよ!」
男性はノワールの体を上下に揺らし続ける。さっきまでの騎士のような格好良さはどこに行ったのだろう。などと思いながら彼らのやり取りを見ていると隣にいたウルルが彼に向かって歩き出した。慌てて僕もその後をついていく。
「相変わらずなんですねカイムさん」
「ウルルか。君も参加していたのだな。そちらの君は?」
「フラクタルさんです。……私の友達です」
彼女が友達、と言ってくれてなんだか嬉しい気持ちになった。
「そうか。初めましてだな。俺はカイム。第二世界管理者にして魔王も兼任している者だ。よろしくな」
魔王?この人が?とても世界を闇に包んだり破壊の限りを尽くしたりするようには見えない人なのだが。見た目に惑わされてはいけないということなのだろうか。
「で、今日は何しに来たんだ」
「ツァディーレ先輩に脅されてな。逆らったら逆らったで怖いから仕方なくここに来たんだ。そしたら突然この男が斬りかかってきたからどうしたものかと困っていたところだ」
彼の顔を知っていたバッシュは感情に身を任せ襲いかかったのだろう。しかしどうやら相手をするにはまだまだ早かったようだ。
「さて、コイツが起きてまた暴れだす前に縛り付けておくか」
彼は動かなくなったバッシュを肩に担いだ。普通に重いはずだが彼は涼しい顔をしている。大の人間って片手で持ち上げられたっけ……。
「あっ、フラクタル君いた!……ってうわっ!カイムさん!?」
何やら慌てて出てきたテトラトリィがカイムの顔を見てひっくり返りそうになる。急いでいるのか可愛いパジャマ姿のままだ。
「何か用ですか?」
「そう用事!大至急朝ご飯作って!お客様用の朝ご飯!なんか、大人っぽくて、人前に出しても恥ずかしくないの!」
いつも人前に出しても恥ずかしくない食事を作ってるはずなんだけど。まあそれは置いとくとして、つまりはとても大切なお客様が来たから腕によりをかけた料理を作ってほしいということなのだろう。
「時間かかるかもしれませんよ?」
「出来るだけ早く!そして美味しいの!」
錯乱しているからかとんだ無茶を言ってくれる。早い!安い!美味い!の三拍子を刻めとでも言うのか。しかも晩餐でもない、牛丼でもない、ブランチで。
しかし、どんな無茶な依頼でも応えるのが執事という人間なのも事実である。
「分かりました」
僕は早歩きで厨房に向かった。今残っている材料は全て頭の中に入っている。しかしこの少なく、ありふれた食材であっと驚く一品を作り上げられるだろうか。
「でも、やるしかないよね」
僕は冷蔵庫から必要な食材を取り出し調理にかかった。料理の構想は九割は出来ている。しかし残りの一割がまだ未完成であり、そしてそこが一番味に関わる部分だ。作業をしながら考えるしかない。僕は材料を切り、フライパンと鍋をフル稼働させた。
「…………」
何かさっきから黄色いものが視界の端をチラチラしている。料理のことしか考えないようにしていたが僕はどうしてもそれが気になった。
そしてフライパンを返している時、それは目の前に現れた。大きな目をパチクリさせ、僕とフライパンを熱心に見る金髪の少女。
「……こんにちは」
「こんにちは!私フルルフルリ!レコーダー補佐してるの!特技は占い、取り柄はいつも元気なこと!」
分かりやすい自己紹介どうもありがとう。いきなり現れていきなり自己紹介するのは宗教の勧誘などの危険人物だと昔教えられたことがあるが、きっとこの子は違うだろう。僕の勘がそう告げている。
「わたしも何かしたい!」
彼女は元気よく手を挙げた。僕はやんわりと断ろうと思ったが可能性が僕を思い留まらせる。目の前にいるのは見たことのない人物、それならば彼女が外部の人間で、今回のお客様なのでは。もしそうならば、そんな人物をぞんざいに扱ってはマズイのではないかと。
それにせっかく手伝いを申し上げてくれているのだ。ぜひともお願いしよう。
「これを弱火でじっくり焼いてくれますか?」
「合点!」
僕は更に三つのフライパンを取り出した。向こうは彼女に任せて僕はこっちに専念しよう。特段料理が出来るようには見えなかったがその体から感じる謎のオーラが僕に大丈夫だと語りかけていた。
人手が増えたからか僕はいつも以上のスピードで料理を次々と完成させていった。こんなにスムーズに、かつほんの小さなミスもなく作れるのは初めてだ。
「できたー!」
「ご助力、ありがとうございました」
もしかしたら彼女から何らかの作用が発揮されているのかもしれない。実際、彼女が隣に来てから絶好調とも言える気分になっていたのだ。本人はつまみ食いをしたり、危うく失敗しかけたりと時折見張らないといけないような人で、全くそのような力を持っているようには思えなかったけど。
「お待たせしました」
僕たちは出来た料理を運び出していった。置いた途端にがっつくように食べ始める人の多いこと多いこと。でもいただきます、としっかり言ってくれるのは良いことだ。
その途中、僕は初日にアルケビュースのいた席に見慣れない人が座っているのを発見した。淡い緑色の髪に、太陽を全く知らないような白い肌。その瞳には活力があまり見られず、もしかしたら感情自体が希薄な人なのかもしれない。容貌からするに二十歳くらいだろうか。
手にした分厚い本を熱心に見つめているからか置いた料理に気づいていない。この人がお客様の中でもトップの方なのだろう。テトラトリィがこの人に対し、目を見開いたまま動いていないし。
それと拘束を外したバッシュが殺意のある眼差しをカイムに向けていた。そこの二人は大丈夫なの?あと何でわざわざ隣に座るようセッティングしたの?
「カー君出来たよー!」
「……うん。じゃあ、いただこうか」
少女に声をかけられ、その男性は一足遅く食器を手に取った。彼のために作ったようなものだから僕は彼のリアクションを見るべきなのだろうが、僕はテトラトリィのほうを見ていた。一点を見据えたまま石像のように動かない彼の動きを観察するほうがよっぽど楽しい。
今日作ったのはフレンチトーストと野菜のスープ。少々薄めに味をつけたフレンチトーストに様々なソースを用意した。これらを用い、自分の好きな味にアレンジして食べてもらうというコンセプトだ。僕としては皆、それぞれの好みの味を知るという点でも一度やりたかったことだ。
「カ、カーヴィン様……。どうでしょうか……」
「うん、美味しいよ。特にこの自分で味付けを選ぶ感じが良いね」
「あっ、そのソースわたしが作ったの!」
彼はフレンチトーストを少女特製謎のソースに漬けながら感想を述べた。その言葉を聞いた彼は空気が抜けていく風船のように大量の息を吐き出し背もたれにより掛かった。
にしてもこのソースは何だ?僕がソースを作っているのを知って、彼女が秘密裏に作っていた謎のソース。強い甘味に程よい酸味がマッチしていて僕好みの味なんだけど。彼女にレシピを聞いても「適当に作った!」と言うし。
「さて、じゃあウルルとバッシュの二人は少し残ってなー。他の皆は今日も元気に素材収集頑張るんやで!」
食事も終えたみんなが今日の仕事の準備に取り掛かろうとしていると例の二人がツァディーレに呼び出された。
あの話をするのだろう。ひかし当たり前のように参加するつもりだった僕は肩透かしを食らった。よくよく考えてみると僕も部外者の一人だ。参加できないのはとても悔しいが、ここからは二人の問題だ。
僕はウルルを励ました。彼女も覚悟を決めたようでその瞳に迷いはない。彼女はツァディーレに呼ばれて前の席に向かっていった。頑張れ。
僕が一人食後の片付けをしていると先の少女、フルルフルリがまたやって来た。ここにいると邪魔だからと追い出されたらしい。彼女はせっかくなのでとまた自分から手伝いを申し出てくれた。
「フルルフルリさんって……」
「フルかフルルって呼んで!」
「……フルルさんが言ってたレコーダー補佐ってどんな仕事なんですか」
音楽関係の仕事?それとも交通量調査の人?
「んーとね、まずさっき真ん中にいたカー君はカーヴィンって言って、いろんな世界の記録をまとめているエラーイ人なの。そして私がその補佐ってわけ!」
えっへんと鼻を鳴らすフルル。なるほど、恐らくは彼にウルカ族の記録を見せてもらおうということか。そしてこの人がその補佐役と。……彼女には悪いがその役職が務まるような賢さを備えているようには見えない。
「ねえねえ。近くでオススメの場所とかあるかな?カー君の仕事が終わったら行ってみたいの!」
オススメスポットか。今のところ見つけたスポットは僕たちが見つけた平原の奥の花畑、バッシュ達が見つけた山の上にあったという絶景ポイントくらいだ。何故彼らはいきなりそんな場所に素材集めに行ったのか。
あまり過酷な場所はやめといた方がいいだろうということで彼女に花畑の場所を教えた。女の子だしきっと喜んでくれるだろう。大きな虫がところどころでワサワサしているのに目を瞑れば。
片付けも終わりフルルと談笑をしていると突然食堂の方の扉が開いた。
「フラ君!助けてーや!」
「ツァ、ツァディ?」
僕の背後に回り込み縮こまるツァディ。しかし行動に反してその言葉からは危機感といったものがそれほど感じ取れない。
「フラクタル、そこをどけ」
「庇い立てすると一緒に凍らせますよ」
現れたバッシュとウルルからの殺意を全身に浴びる。特にウルルから伝わってくる氷のような殺意が僕の体を震え上がらせた。
「ドウゾ」
「フラ君!?んな殺生なー!」
ツァディを差し出そうとすると彼女は凄まじい速度で裏口から逃げていった。それを追いかけていく二人。取り残された僕とフルルはその勢いにしばらく呆気にとられていた。
「ああ、二人ともお疲れ」
食堂に戻るとテトラトリィが疲れた表情をして労ってくれた。カーヴィンとカイムに至っては呆れた顔をしている。
「な、何があったんですか……?」
「僕が説明するよ」
カーヴィンはテーブルの上に散らかった大量の黒い本を片付けながら話をしてくれた。
「まずバッシュの両親について。死の記録、ブラックコードの記録によると彼らの死因は『魔力枯渇』。魔法を使うのに足りない魔力を体力で補った結果、そのまま死亡」
「……そんなことってあり得るんですか?」
「まあ普通の魔法はリミッターがかけられているからあり得ないね。でもウルカ族の魔法は特殊なものでね。教われば誰でも簡単に使えるけど、誰でもは使えない。その魔法は一般的な魔法の数百倍は魔力量を必要とするんだ」
「数百倍!?」
いや、一倍がどれくらいなのかは分からないけれど。後に聞いた話ではウルカ族の魔力量は熟練の魔術師十人分くらいに相当するという。それを聞いてもまだよく分からないけれど。
「彼の両親は仕事の役に立つだろうとウルカ族に魔法を教わった。きっとウルカ族は長い間、他の人間と会わなかったからそのことについて知らなかったんだろうね。そしてさっきの結末に至るというわけ」
「……これはウルカ族全体の過失、ということになるのでしょうか」
不注意にもウルカ族以外の人間にその魔法を教えてしまった。これが事件のあらすじだ。そしてそれによってウルル自体が悪くないことは証明された。だがウルカ族が死なせてしまった、という点においては弁護することが出来ない。
「僕もそれが気になってね。少しウルカ族の過去を調べてみたんだ。……するとウルカ族の起源にツァディーレが関与していてさ。『魔力だけに特化した種族を作ったら面白くなりそう』という安易な考えで作ったみたいだよ」
「つ、作ったんですか?人間を?」
「……昔、人間の魂に好きなステータスを割り振れる機械を作った奴がいてね。でも倫理面の問題や管理に支障を来たすといった事から一年も経たずして廃止された。つまりその間に作ってたんだろうね。あの前第二世界管理者は」
そうか、現魔王のカイムが彼女を先輩と言っていたのはそういう関係だったからなのか。ということは彼女が前魔王?……何でだろう、違和感なく容易に想像ができてしまう。
「……よく分からなかったけどさっきの二人は仲直りしたってことなのね!」
僕の隣で一人黙々とアイスを食べていたフルルが口を開いた。そうだった。そこが今回の目的だったんだ。
「そうだね。男の子のほうも反省して謝っていたよ。あのバカを二人仲良く追っていたしもう大丈夫なんじゃないかな」
実のところ憎むべき対象が変わっただけなので根本的には解決してないとも言える。しかしウルカ族についての話は解決したということで一段落ついただろう。
ツァディの方は……頑張って。応援はしてあげるから。
散歩に行くカーヴィンとその後ろをトコトコついて行くフルルを送り出し、残された僕ら三人は深いため息をついた。
「カーヴィン様怖かったぁ……」
「そうなんですか?良い人に見えましたけど」
「僕がログ、つまりあの方の元で働いていた頃はあんなにお喋りじゃなかったんだよ。報告書にミスがあればギロリと睨まれたり、ミスが無くてもお疲れさまの一言しか発さなかったり……」
さっきの様子からは想像もつかないがテトラトリィの怯え具合は本物だった。観察が楽しいとか思ってゴメンナサイ。
「あ、フラクタル君晩餐もお願いね。カーヴィン様たちは食べてから帰るらしいから」
「はい」
丁度こんな気分で探索するのもと思っていたところだ。今日はひたすら夕食の仕込みに時間を当てよう。
「カイムさんはこの後どうするんですか」
「ひとまず城に留守の張り紙を置いてきたからな。三日間ほど厄介になっても良いだろうか」
「もちろんですよ!」
嬉しそうにするテトラトリィ。しかしそれでいいのか魔王城。たどり着いた勇者たちが玉座の裏を入念に調べ始めたりしそうだ。
僕は厨房に戻り冷凍庫を開き大きな肉塊を取り出した。ついにこの猪肉を使う時が来たのだ。実際に調理したことはないので手探りで作ることになるが、夕食までになんとかモノにしてみせたい。
しかし、この金……立派な玉も冷凍庫に入れてくれやがっているがこれを僕にどうしろというのか。本当に食べられるの?これ。こんなもの僕自身食べたくないのだけど。しかもラークとバッシュが言うには生でイケるという。
僕は半信半疑のまま玉に一刀を入れてみた。……包丁とまな板が白く染まった。玉なのだから当たり前といえば当たり前だが、いざ目の当たりにすると驚きと気持ち悪さで体が硬直してしまう。
そうだ。これをアレだと思うから気持ち悪いんだ。これからはミルクだと思おう。……なんか段々と気持ち悪くなくなってきたぞーハハッ。
「なわけないじゃん!」
「フラクタル君大丈夫!?」
様子を見に来たのか入り口でテトラトリィが驚いた顔をして立ち尽くしていた。笑いながら肉に包丁を叩きつけていたことに心配して見に来てくれたようだ。
「食べます?」
もう誰でもいい。僕からの不幸のおすそ分けを受け取ってほしい。この時の僕の精神は既に壊れきっていた。
彼は訝しそうな顔をしながらも恐る恐る小さく切ったそれを口にした。今彼の口の中で子孫を残すための神聖な器官が転がっている。しかしいくら美化しようとしても食べたくないものは食べたくない。
「なんか……不思議な味だね……。でもなかなかイケるよ!」
彼の感想は想定内のことだ。バッシュとラークがイケると言っているのだから不味いことはないのだろうと。
「で、これ何の肉?」
「秘密です」
「えー、教えてよー!」
だってここで教えたら、後が面白くないでしょ?
しかし僕のこの計画はつまみ食いに来たバッシュとラークによってテトラトリィの知ることとなり、おじゃんとなってしまったのだった。
でも女の子たちや上客に食べさせてしまうことになるよりかは、よっぽど良かったと今では思っている。
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