小さな彼1

それを目の当たりにした時、言葉が出なかった。突如訪れた出来事に頭がガンガン痛み、思考が纏まらない。それどころか頭が真っ白で理解が追いつかなかった
「な、んで…何で…中也…」
「あー」
「何でこうなった…」
「う?」
「何で…こうなった…」
「んあー」
今朝、任務に向かってそろそろ戻ってくるだろうと出迎えたら、他の構成員に抱きかかえられながら戻ってきた。

「ど、どうやら、敵組織に異能力者が居たようで…気づけばこの姿に…」
「そ、そうなんですか…」
「ん、ん、あーこ!」
「抱っこですか…さいですか…」
「んー!」
全く理解が追いつかずポロッと出た言葉に、同じく困惑しながらも反応してくれた構成員と、こっちに手を伸ばして抱っこを要求する推定7歳の中也がそこにいた。まさかこのような姿になるとは予想も付かないだろう、ぽかーんと突っ立ってる私に痺れを切らしぷっくり頬を膨らませしきりに手を伸ばす彼と、バランスが崩れそうになりどうすれば良いか分からず困惑しながら彼を抱っこしている構成員に近づき、抱っこですねはいはいと彼を抱き上げる。
「と、とりあえず…首領の所に報告に行きますか…」
「そうですね…中原幹部がこのような姿になったのを早く報告せねば…」
「ふへっ」
身体も記憶も後退しているようで、当の本人は私の腕の中でだらしない笑みを浮かべながら笑ってるだけであった。ちなみに今の彼の服装はカッターシャツのみであり、他の服はサイズが合わなかったのか全て脱げ落ちていたらしい。ベストはどうしたのか聞いたら彼が脱ぎ捨てたらしく、構成員がせめてズボンを履かせようと試みたらしいが嫌がって引きちぎったとの事。やっぱりそうなのか、昔の光景を思い出しため息を1つ零すと彼は不思議な顔をしながら私の頬をぺちぺち叩く。「元気出せよ」という彼なりの慰めらしく、過去に誰かしらが落ち込んでいた時に肩を叩いて慰めた私の事を見ていたようで、私がため息を吐くと大体何処かしらを叩いてくるようになった。
この頭痛の種は彼であるのだがその彼はそんな事も知りもせず、ただ私の顔をじっと見てる。問題無いという事を伝える為に彼の頭を撫でると、嬉しいのかきゃっきゃ喜びながら私の首に腕を回して足をバタバタ揺らす。任務帰りで首領に報告に行く為に後ろから着いてきてる構成員の表情はただただ困惑しており、なんだか妙な光景に少し笑ってしまった

首領の部屋の前に到着し、引っ付く中也を引き剥がし降ろしたのだが抱っこを要求される。それを無視して伸ばしてくる片手を繋ぐと、嬉しいのかブンブン手を振りながら首領の部屋に入った。そのまま一定の場所まで入らせて貰い、首領が見やすいよう中也を私の少し前に立たせる。不思議そうな顔をしながらこちらを見る彼は、構成員や私の硬い声や姿勢を見て最初の方は萎縮した空気を読んでか大人しくしていたのだが、構成員が任務の報告してる間に何もする事が無く飽きたのか、見た事の無い部屋に好奇心が出てきたのか辺りを見渡して気になる方に走り出そうとする。そんな彼の行動を素早く読んで彼の腕を掴んでいたのだが、次第に抵抗は大きくなり向こうに行くと私を引きずって行く始末。首領に頭を下げて謝罪すると、書類がある場所じゃない限り許すと言って頂けたので彼の狭い散歩が始まった。こうなったら彼に付き合う他無いのは私がよく知っている。構成員がこちらをチラチラ気にしつつも報告を続けてる間に、中也は私を引っ張りながら気になる方を指差していく。中也の好奇心について行きながら、首領から声を掛けられた
「ふむ、成程。名前君、もし知ってるのであれば教えて欲しいのだけれど、中也君は今どれ位の知識があるのかね?」
「少なくとも、会話の成立は難しいと思います。」
「あっちー」
「では彼のお世話は君にして貰おう。見てる限り、彼は君の事が大好きなようだしね」
「承りました」
「うっ!」
「指差さないの…!申し訳御座いません、首領」
「構わないよ。それにしても、7歳児か…彼が女の子であれば良かったのだけれど…」
「首領…?」
「何かね?」
「いえ、何でも。」
もう下がっていいと言われ、有り難く下がらせて貰う。まだまだ気になる所がいっぱいあるらしく部屋をじっと見る中也を「抱っこしてあげるから」と引っ張って部屋から出る。そうすると抵抗が無くなり抱っこを要求してきたのでそそくさとエレベーターで仕事場に戻った

「え、ちょっと、名前…?まさか、中原さんとの子供が…!?」
「樋口ちゃん、全て誤解です。聞いて下さい。お願いだから」
「何で教えてくれなかったんですか!」
「誤解だから!!!聞いて!!!」
書類整理の為に自分の仕事場のデスクに戻ろうとした際、廊下で樋口ちゃんと芥川君とたまたま出会った。2人ともそれはそれは驚愕しており、目玉を引ん剥いた樋口ちゃんががに股で私に詰め寄った。全て誤解という事と何かしらの異能力でこうなってしまった事を伝えると、冷静になったのか樋口ちゃんは私から距離を取った
「それにしても中原幹部が…」
「ほんとびっくりだよね」
「あ、あーう」
「どうしたの?」
「ん、ん」
「芥川君?」
「あう?」
「あ、く、た、が、わ」
「あ、うー」
「なんか、本当に親子みたいですね…」
こんな大きな子育てた覚えは…いや、私が育てたなそういえば。しきりに芥川君に手を伸ばす中也に、どうしたいのか分からずとりあえず芥川君に近づく。当の本人はどうすれば良いのか分からずビシリと固まっており、グイグイ服を引っ張る中也のされるがままだ。ポートマフィアなんて場所に居れば子供と触れ合う事が無いのは確かだろうが、それでもされるがままでいるのは良いのだろうか?私の腕から離れて猿のようにスイスイ登り、顔にベタリと張り付く中也をそのまま放置してる芥川君は、引き剥がそうとしているのか、或いは支えようとしているのか中途半端に伸ばされた手のまま固まっており、助け船を出すべく中也に声を掛ける。そのまま飛びついてきた中也をなんとか落とすまいと必死にバランスを保ちながら2人と別れ、少し追われてる書類整理をすべくデスクに戻った。