小さな彼2

それからはもう大変だ。書類整理が苦手な中也の代わりに大体が私に回ってくる為にデスクに積み重なる紙、紙、紙。その中心に置いてあるパソコンで次から次へと溜まりに溜まった書類を片付けていく。それだけならまだマシだったのだが、今は彼のお世話をするという重大な任務も重なり、物凄く大変である。
基本彼は甘えたがりで私と常に行動をする。何か見るにしても私を連れ出すし、そうでない時は大体私の背中に引っ付いてき、ある程度構わなければ拗ねて不貞寝するか更に引っ付いてくるかのどちらかだ。今は私の方が大きいので膝の間に座らせており、最初はきゃあきゃあ喜んでこちらを振り返って嬉しそうに笑みを浮かべていたのだが、溜まった仕事を捌くべくずっとパソコンに熱中して全く構わなかったらちょこちょこ頭突きをして構えアピールをしてくる。その時は顎を押さえながら彼の頭をぐっしゃぐしゃに撫で少し構い、またパソコンに戻るのだがそれも1時間程経過すれば通用しなくなった。逆に持った方だと椅子の上に立ちぎゅうぎゅう私の首に抱きついてしきりに妨害してくる彼の背中を優しく叩きながら片手は書類を持ち目を通す。ここで私がやらなかったら泣きを見るのは中也なんだぞーと声を掛けるが彼には全く通じない。そりゃそうだ、22歳のポートマフィアの幹部の記憶は無く、私と貧民街に一緒に居る時の記憶しか無いのだから。それにしても彼がしきりに引っ付くので少し肩が凝った。このままでは仕事にもならないし、5分位休憩でも取るかとぐるぐる首を回しながら「お外に出ようか」と声を掛けるとバッと私の顔を見てキラキラ目を輝かせ、椅子の上から降りて私の腕を引っ張った。

「逆に疲れた気がする…」
「お疲れ様です」
「あ、ありがとうございます…」
少しの息抜きとして連れ出したものの、がっつり彼の探索に付き合わされ30分は経過していた。子供の体力というのは恐ろしいもので、あの小さな身体の何処に体力があるのだろうと全く疲労の影も見せない彼を見る。彼の行動原理は恐らく私に構って貰えるという事なのだろう。構成員の人が持ってきてくれたお茶を一気に飲み干し、こちらにコップを渡してくる中也からコップを受け取り頭を撫でる。中也のデスクから椅子を持ってきて私のデスクの隣に置き、そこに彼を座らせる。地面につかない足をプラプラさせ子供好きの構成員に構われながら少し機嫌の良い彼をそのままにし書類に手を付けた
書類に集中してそれなりに経ったであろうか、構成員が少し出てくると数分前に何処かに行き、1人になってそろそろ来てもおかしくないだろう全く引っ付いてくる気配の無い中也に違和感を覚えてそちらを見る。そこに彼の姿は無く、まさか何処か行ったのではと辺りを見回すと彼はすぐに居た。壁に向かって服を捲り上げている。ん?いや待て、あれは…
「ああああ待って中也そこでちっちしちゃ駄目!!!」
「う?」
「こっち!こっちだよ!」
「ん〜〜〜!」
先程水を飲んで催したのか、その場で用を足そうとしていた。そんな彼をトイレまで引っ張って仕事場で用を足す幹部(7歳の姿)という最悪な事態にはならなかった。子育てというのは大変だ。トイレから出てきて抱っこをせがむ中也を抱き抱え、そういやまだカッターシャツ1枚だった事を思い出す。この姿に慣れているせいで全く違和感が無かった。とりあえず子供用の下着とズボン、何か靴も必要だ、そういや久作君は幼少の頃からここに居ると聞いた事があるし、もしまだ衣服類を持ってるなら貸して貰えるか首領に相談してみよう。

「幹部のお世話もあるだろうから」と他の構成員からの後押しにより、私は彼を連れて定時で上がらせて貰った。中也がこの姿では恐らく戻るまでは任務も凍結になるだろう、どうやって戻るのか未だ分かっておらず、その調査は紅葉さんが受け持ってくれるという事だった。となれば、中也の部隊に居る私達は報告書に追われる事も無く、次第にやる事も無くなったようなので、簡単な書類を他の構成員が手伝ってくれる事になり少し肩の力が抜けた。明日までに少しは書類の山が片付けば良いのだが、中也が放置して積み重なった書類の山を思い出し頭が痛くなる。
そのままスーパーに向かい今日の晩ご飯の献立を頭で組み立てる。7歳の頃は確か手掴みで食べる生活をしていたので箸は恐らく使えないだろうし、せめてスプーンや手掴みで食べれる物が良いな。そういやバケットが家に残っていたし、今日はシチューにしよう。ショッピングカートの持ち手を中也に持たせ、その後ろから私が持ち手を掴みカートを引く。初めて来る場所で好奇心旺盛なのかしきりにキョロキョロ見回してたまに私の顔をキラキラした目で見る。私とカートの間に居れば好奇心に煽られ何処か行った時もすぐ対応出来るだろう、恐らく私を連れて行くだろうからあまり問題無いかもしれないが。
ニンジン、ジャガイモ、ルー、牛乳にサラダに入れる野菜など晩ご飯にに必要な食材を探しにスーパーをぐるりと回る。野菜コーナーは確か入り口付近にあったはず。そこまで向かって歩き、目当ての野菜を見つけてカゴの中に放り込む。
「ん、ん」
「ん?これここに入れてくれる?」
「ん、あー」
「え、ちょっと待って食べたら駄目だよ!?」
「んぶッ」
カゴの中に入れようとした野菜に手を伸ばす中也に、私の真似をしたいのだろうと野菜を手渡しカゴの中に入れるように促す。だが、彼はそれを丸かじりしようとしたので慌てて口を抑える。確かに貧民街の記憶しかない彼にとっては既にこれが食事なのは分かるが、会計を通してないこれはまだ商品だ。間一髪丸かじりを阻止して彼が持ってる野菜をカゴの中に入れた。
「はぁ…危ない…」
「んぅ〜」
「ごめんごめん、もうちょっと待ってね」
「ん…」
「後は…あ、これ色綺麗だな、傷んでる様子も無い。あ、こっちもだ。どっち買おうかなぁ」
まだ見てない食材の陳列されてる場所まで移動すると、夕方にも関わらず傷みも無く綺麗なものがあった。その2つを手に取りまじまじと見ながらどちらを買うか悩む。こういう時少し優柔不断な性格は駄目だ。うんうん悩みながら決め、カゴの中に入れようと振り向いたらカートが無かった。いや、カートどころか中也も居ない。「あれ!?」辺りを見回すと少し先にカートを引きながら歩いてる中也が居た
「あああ中也待って!」
「んー?あえぇ?」
「何処行くの!?」
「あーち」
「待って待って、こっちだよ」
「あーち?」
「あっちは行かないよ」
「ん〜〜〜〜」
斜め上を見てから後ろを振り向いた彼は、恐らく私が後ろから着いてきてると思っていたのだろう。首を傾げながらカートを放置して私の所に来て抱きついてくる。そんな彼の頭を撫でながらカートを回収し、ルーのある方向に転換する。別の方に行きたい中也をカートと私の間に入れるが、移動しまいと踏ん張る彼を抱き上げた。それが嬉しかったのか喜ぶ姿に気が紛れたようで良かったと安堵し、ルーを買い会計をした。さすがに片手で財布を持てる程器用では無かったので中也を降ろしたのだが、それが気にくわなかったのかぎゅうぎゅう私に抱きついて来た。歩きづらいがそのまま放置してレジ袋に食品を入れる。その間もぶすくれながらレジ袋に入れる手をじっと見つめる彼の頭を撫でる。それでもあまり機嫌の直らない彼を手を掴み、カートにレジ袋を入れてカゴやカートを片付けに行く。片手にレジ袋を引っさげ、片手は中也の手を繋ぎ帰路に着く。その間も口に空気を含み拗ねてますアピールをする彼にもうちょっと待ってと声を掛けるがそっぽを向かれた。あぁ、懐かしいなと笑みを浮かべた