小さな彼3

家に着いてからはまず手を洗う為に玄関に荷物を置き、洗面所に向かう。洗面台は彼にとっては高いようで、石けんを私の手に付けて一緒に彼の手を洗う。先に私の手を洗い、タオルで手を拭ってから彼のお尻を支え抱き抱えて手を洗わせる。手を洗うという行為は貧民街でもしているが、石けんをつけて洗うという事は初めての事だったので「おぉ〜〜」と声を出しながら水でせっけんを流す彼に笑みを浮かべる。ちゃんと洗えたようなので彼を抱き抱えるのをやめ、水を止める。彼は洗った手を伸ばしているのでタオルを渡して手を拭かせた。
「ピカピカになった?」
「んっ!」
「なったねぇ」
「あっこ」
「抱っこは待って」
「ぶぅ」
しきりに抱っこをせがむ彼に待ったをかけて洗面所を出る。ぷっくり頬を膨らませながらも私の後ろをついてくる彼を確認しながら玄関に置いてる荷物を回収し、リビングに行き食材を台所に置く。包丁類があるし彼が怪我するのも危険だ、とりあえず彼を抱き上げてソファに座らせる。その弾力性や寝転べる大きさにはしゃいで遊んでる彼を見ながら、頭をぶつけては危ないのでテーブルを少し前に移動させてテレビをつける。いきなり流れてくる音にビクリと身体を跳ねさせ私の背中に飛びつき警戒する彼に、片手で支えながらこれは大丈夫だよと伝える。とりあえず彼を横に来るように誘導しながらソファに座り、身体を強張らせ抱きついてくる彼の背中をさすりながら落ち着くのを待つ。少し音量が大きいのだろうか、リモコンで音量を小さくしながら頭を撫でると、少し落ち着いたのかチラチラテレビを見るようになった。強張りも無くなってきたので大丈夫だろうかと彼の手を握りながら優しく剥がすと、こちらを困惑した顔をしながら見つめてくるので大丈夫だと言いながらもう一度頭を撫でる。ふへ、と笑みを浮かべる彼を見て警戒も無くなったようなので「あっちでご飯作ってくるね」と声を掛けて台所に行く。彼にとっては好奇心がある時は私が見える範囲に居れば然程問題無いようで、1番気になってるテレビをじっと見つめている。良かった、暇つぶしになるようだ。早い事晩ご飯を作らねばとエプロンを着けた

「んま!」
「美味しい?良かった」
「んま〜!」
「うん、一口食べるごとに言わなくて良いよ」
「ん、」
彼が食べやすいように細かく切ったりと工夫した甲斐があったようだ。スプーンの扱いは正直不安な所が多いが、目をキラキラさせながら口いっぱい頬張って食べる姿を見てこちらも嬉しくなる。ああ、シチューが口周りにベッタリついてる。タオルで彼の口周りを拭いながら私もパンを千切り口に運んでいく。
この小さな身体の何処に入っているのか、ほぼ私と同じ位出されたご飯は全て彼の胃の中だ。そんな彼今はソファでテレビを見ており、引っ付かれていない今の間に使った食器をシンクに浸けながら中也が汚したテーブルを台拭きで拭く。テレビというのは偉大だ、常に映像が変化してるので恐らく当面はテレビに好奇心が行ってくれるだろうし、その間に風呂の掃除や洗濯物の取り込みなどしてしまおう。ソファで足をブラブラさせてる中也をチラリと確認し、少し痛む腰をさすりながらエプロンを外して風呂場に向かう。後ろからついてきてる気配は無いので恐らく気づいてないだろう、扉を閉め1度シャワーで浴槽を流してから洗剤をつけてスポンジを持ち磨いていく。案外中途半端な格好になるこの体制は結構な時間中也を抱き上げて痛む腰には少しキツい。ヒィヒィ良いながら洗ってる時、タタタッと軽い足音が聞こえた。
「んぶー」
「もう気づいたnうわっ!?」
「ん"ん〜〜〜!」
扉を閉めていた為、開け方が分からない彼は磨りガラスに顔を押しつけていた。まるでホラー映画などでよくある磨りガラスの向こう側に何か居て、それがべったり張り付いてる展開のような事になっていた。濡れてしまうから待ってと声を掛けて扉は開けないまま掃除していたら、ずっと唸り声を上げて磨りガラスに顔を押しつけていた。正直ちょっと怖いのでやめて欲しいのだが気にせず掃除を終わらせ、湯張りのボタンを押して風呂場から出ようとする。
「中也ちょっとどいて」
「ん”〜〜!」
「中也がそこに居たら私出れないなー、もう会えなくなっちゃうよ」
「やっ!」
「じゃあちょっと後ろ下がってて?」
「ん、」
風呂場から押して開く扉は、下がってくれた中也に当たる事は無かった。出てきた私に突進してお腹に抱きついてくる中也をよろめきながらなんとか受け止め、彼を引きずりながら洗濯した服を取り込むべくリビングに隣接してるベランダに向かう。私にベッタリくっついてテレビの方に向かう気配も無い、恐らく私から離れないであろう彼に洗濯物の取り込みを手伝わせよう。
「中也、ちょっとお手伝いしてくれる?」
「ん?」
「私がお洋服渡すからね、お部屋の中にぽいって投げて欲しいの。」
「ぽい?」
「そう、中也にしか頼めないの。出来る?」
「んっ!」
「ありがと、じゃあまずはこれね」
「ぽい!」
「ん、上手だね」
「えへ、」
それなりに量のある洗濯物を取り込み、手伝ってくれた彼に「ありがとう」と頭を撫でる。ケラケラ笑いながら喜ぶ彼をソファに座らせ、テレビを見させる。適当に投げられた洗濯物を回収しながらテレビに没頭する彼の近くで洗濯物を畳んでいると「お湯が沸きました」と軽快な音楽と共に湯が張り終わったとリビングに鳴り響く。その音の発生源が気になって辺りを見回す中也を尻目に、全部畳み終わってから風呂に入ろうとまだ少し畳み終えてない洗濯物に手を伸ばした