熱2

「…ん、」
「ふんふふ〜ん」
「…名前?」
「あ、起きた?」
「何で居るんだよ」
「中也の様子がおかしかったから来たの」
「…ふうん」
「そこにスポドリ置いてるから飲んでね、ご飯は食べれそう?」
「食べる」
「はーい、ちょっと待ってね」
炊けたご飯を自分が食べる用によそっている時に中也が起きたようで、そのまま彼の晩ご飯に使う。今日は消化の良いお粥だ、深夜にお腹が空いたと言うならばリンゴも買ってきてあるのでそれを与えよう。手際良く彼のご飯を作っていくと、お腹が空いたらしい中也は「腹減った」とソファから起き上がりこちらをじっと見つめてくる。まだ動きが緩慢だが、食欲がある事は良い事だ。出来上がった粥を彼の方まで持って行く。
「熱いから気をつけてね」
「ん。」
「あ、その前に体温測って」
「…ん」
お粥を黙々と食べながら熱を測って貰ってる間に、彼の前髪を掻き分けて冷えピタを貼る。お粥にスポドリは味的に相性が悪いだろうし冷蔵庫に入ってる水を出したりと忙しなく動いてると、ピピピと体温計が鳴り、それを中也から受け取る。38.3℃、立派な熱だ。明日は病院にでも連れて行くべきだろう、奥に放置された保険証を引っ張り出し財布に仕舞う。
「動いてねぇで、お前も食えよ」
「ん?ああ、食べるよ。中也の昨日の晩ご飯貰うね」
「嗚呼」
ほかほか暖かいご飯と簡単に作った味噌汁をよそい、昨日彼が自炊した残り物を温めて食卓につく。「いただきます」まずは味噌汁を手に取り少し冷ましながら飲む。疲れ切った身体に暖かい味噌汁は全身を温めてくれ、とても染みる。そのままご飯、残り物を口に運んで咀嚼する。この残り物は彼が作ったようで、料理は私が1から彼に教えたので私好みの味だ。それにしても私よりも料理の腕が上がってるのでないだろうか?彼の才能に少し羨みながらも箸を進めていく。
私が完食した頃には、中也は既にソファに寝転がっていた。熱が上がってきたのか先程よりも頬を染め、息が荒くなっている。いつもは私が作った料理はぺろりと平らげる彼が、粥を少し残しており余程体調が悪いのだと伺い知れる。寝転がりながらでも水分を取れるようにとテーブルに置いてあるスポドリのペットボトルにストローを差し込み、彼の近くに置いておく。食器を洗う為に粥の入ってる小鍋を下げながら粗方水で洗い、食洗機に突っ込みその間に他の家事をこなしていく。
「中也、大丈夫?」
「…ん」
「今から病院行く?」
「行かねェ」
「とりあえずパジャマに着替えよっか。持ってくるからちょっと待っててね」
「ん…」
一段落した時に彼の様子を見ると、毛布に包まりながら身体を縮込ませていたので声を掛ける。やせ我慢なのか、それとも行ける程の体力が無いのか分からないが、病院に行こうとする気配は無い。仕事着の格好ではいささか窮屈だろう、彼の自室に向かい寝間着とタオルを、風呂場に行き洗面器にお湯を入れてそれを持って行く。既に彼は起き上がって服を脱ごうとしているのだが、熱のせいで視界が定まらないのかボタンで苦戦していた。それを手伝いながら風呂に入る気力も無いだろう汗でびっしょり濡れた彼の上半身を拭っていく。これでいささかマシになればいいのだが。寝間着は自分で着て貰った。
「もうベットで横になったら?」
「そうだな」
「立てる?」
「…ん」
手を伸ばして肩を貸せを促す彼に近づいて腕を掴み、首に回して彼を運ぼうとするのだが重い。とてつもなく重い。あれ?重力使ってないよね?私が衰えたのか、彼の筋力が凄いのか。本腰を入れて彼を支えながら彼の部屋に向かい、ベットに座らせればすぐ横になって寝る体制に入ったので布団を肩まで掛け、頭を撫で部屋を出た。
勝手に風呂を借りて汗を流す。バスタオルで身を包み、中也が居ない事を理由にそのままリビングに向かい、冷蔵庫の水を飲む。タオルでガシガシ適当に髪の水分を落としながら、テレビを付けてバラエティ番組で時間を潰す。このタオルはどちらも私のものだ。週に2,3回は互いの家を行き来してるのでそれなりに自分の私物が揃っており、素泊まりしても問題は無かったりする。ちなみに、私の家にも彼の私物が溢れかえっている。ドライヤーで髪を乾かし、ふと時間を見ると深夜0時を回っていた。もうこんな時間なのかと驚きながらドライヤーのスイッチを止めて髪が乾いてるのを確認する。よっこいせ、年寄りのような声を出しながらドライヤーを片付け、テレビを消して私に用意されてる部屋でパジャマを着る。彼はちゃんと眠れているだろうか、少し様子を見に行ってみようと足音を立てないように彼の部屋に向かった。
「名前…?ゲホッ」
「起きてたの?咳出てきたね、大丈夫?」
「ケホ、」
喉が乾燥しているのか咳を繰り返す彼の背中をさするが、一向に良くなる気配は無い。「ちょっと待ってて」少し彼から離れリビングに放置されていた常温になってるだろうスポドリを引っ掴んで彼の所に戻る。身体を起こさせスポドリを飲ませると、喉が渇いてたらしくゴクゴク喉を鳴らしながら一気に飲み干し、そのままゴロリと寝転んだ
「新しいスポドリベットの脇に置いとくね。」
「悪ィ、」
「良いよ。他にして欲しい事はある?」
「…ばに、…れ」
「ん?何て?」
「ッ…傍に、居てくれ」
「分かった。ちょっと待っててね、布団持ってくるから」
「ん、」
彼の部屋を一旦出て新しいスポドリと布団を回収する。案外布団というのは重く、両腕にのし掛かる重量に耐えながらスポドリをベットの脇に置き、布団を地面に敷く。寝返りを打ってこちらを見る彼の頭を撫でて布団に潜り込み就寝についた

次の日、まだ微熱がありながらも身体は元気になった中也は普通に出勤しようとしていたのでそれを止め、首領に連絡してから寝間着のままの彼を引きずって病院に向かう。彼はもう問題無いと抵抗するのだが、車に押し込めばやがて抵抗は止めて助手席で唇を尖らせつつ街の風景を眺めていた。平日の朝早くに来たのだが、それなりに風邪が流行しているのか既に人が待っており、これはだいぶ時間が掛かるな、と待合室の椅子に座りながら呼ばれるのを待つ。寝付きが悪かったのかうつらうつら左右に頭が揺らす彼は、やがて私の肩に頭を乗せて眠りだした。睡眠取れる程になった事に安心し、他の構成員から書類をどうすれば良いかというメールに対応しながら呼ばれるのを待った。

その数日後、完全に回復した中也とは裏腹に、完全に風邪が移って床に伏せる事になって仕事を休んだのは言うまでもない。