失踪?

「おい、名前何処行ったか知らねえか?」
「え?さっきまでそこに居たんだけど」
「そうか」
抗争や襲撃が比較的落ち着いてるある日、特にやる事も無く何もせず時間を潰していた時、名前の所に行こうと思った。ただ会話を楽しむのも良いし、彼女が望むなら外にでも連れだそう。大金叩いて遊びに行く金は無いからせいぜいゲーセン辺りになるが、まあ少し離れた土地を普通に歩いてるだけでも気分転換にはなるだろう。今は見窄らしい姿でも無いので堂々と歩ける。そう思って彼女を探したのは良いのだが、先程まで目撃していたというだけで中々見つからねえ。キョロキョロ辺りを見回してると、白瀬が前を歩いてるので足早に寄って聞いてみる事にした
「おう白瀬、名前知らねえか?」
「名前?さっき外出るって言ってたけど…お前着いてって無かったのか。珍しいな」
「嗚呼。聞いてすらねえ。ちなみに何処に行ったか知ってるか?」
「行き先までは聞いてねえぞ」
「どれ位前に出てった?」
「あー、10分位前か?」
10分位前に出てったとなれば、追いかけるのは難しいだろう。どちらの方向に行ったのか、何を目的として出たのか見当も付かないし、探しに出たとしてもすれ違いで戻ってくる可能性もある。ここで待つのが賢明かと思い、拠点の入り口の壁にもたれ掛かって彼女の帰りを待った。

入り口から仲間が帰ってくるのを確認するが、待てど暮らせど彼女の姿は無い。おいおいもう夕方だぞ、何処まで行ったんだあいつ。そこでふと違和感を感じる。白瀬は彼女の行き先は知らないと言っていた。結構連絡がマメな彼女は、基本的に何処か行くにしても行き先を告げて外出するし、行き先を告げずにふらっと外に出る時もごく稀にあるのだが、その時は決まってすぐ帰ってくるのだ。例え掛かったとしても1時間程度で戻ってくる。今回、俺が彼女の元に行こうと思い立ってからだいぶ経過している、大体2、3時間位か?こんなに掛かった事は初めてなので、焦燥感や不安が心に蓄積する。とりあえず一旦ここから動こう。もしかしたら俺が知らない内に帰ってきてるかもしれない。たまたま俺の前を横切った仲間に名前の事を聞いてみる
「なあ、名前見てないか?」
「見てないよ」
「そうか。あ、おい名前見てね?」
「いんやー見てない。」
手当たり次第名前の目撃情報を聞いてみるが、皆して答えは否であった。それを聞きつけた白瀬が「まだ名前帰ってないのか」と声を掛けてきてくれ、手分けして彼女について聞いていく。ほんとあいつ何処行ったんだ。募る焦りが俺の歩調を早くし、感情に余裕が無くなっていくのを感じながら、目の前に歩いて談笑してる2人の仲間に近づいて声を掛けた。
「おい、名前見てないか」
「名前?うーん…あれってそういや…」
「あー…そういえば海で名前っぽ子見かけたような…?」
「そりゃ何処のだ!」
「え?ちょっと歩いた所にある海岸だよ、あそこで多分遊んでたと思う」
やっと目撃証言が聞けた。大声で白瀬を呼べば近くに居たのかすぐに俺の前に姿を現してくれ、海で見かけた奴が居る事を伝えれば、「じゃあそこに行ってみるぞ」と言ってくれ、俺達は海まで走った。

「おい、見つけたか?」
「否、こっちには居ねえ。」
「まばらだけど人が居るし聞いてみるか」
「すいません、ここに1人で遊んでる女見ませんでしたか?」
海で遊んでる人に声を掛け、名前の見た目の特徴を伝える。やはり有益な情報を集める個とは出来なかったのだが、何人目かに聞いた時、「そういえば」と何かを考える素振りをして口を開いた。
「本当にその子かは分からないけど…男の人がその子を抱き抱えてたような…」
「それは何処でですか!?」
「あそこの階段だよ」
「中也待て。その男の特徴は覚えてませんか?」
「そこまでは覚えて無いんだけど、2人組みで…そういえば、白いワゴン車に乗り込んでたような…」
今すぐ彼女を探しに行こうとする俺の腕を白瀬が掴む。他にも有益な情報があるかもしれないと白瀬が色々質問する。男2人、抱き抱えていた、白いワゴン車。憶測に過ぎないが、抱き抱えられてる時に抵抗したり叫び声を上げなかったとなれば、意識を失ってる可能性が高い。抱き抱えられたという階段の場所に行けば、ほんの数滴だがまだ新しい血痕が残っていた。何か硬い物で殴られたのか、これはもう誘拐と断定出来るだろう。
「早く探しに行くぞ」
「待てよ、何処に居るかまだ分かってねえ。中也は拠点に戻って仲間達呼んで来い、本格的に調べるぞ」
「ッ、わあったよ」
異能を使って拠点に戻り、仲間達を集める。彼女が誘拐された可能性があると言えば周りはざわめき、すぐに捜索隊が結成された。海を中心として近辺に駐車している人、通りがかった人に情報を聞かせて貰う。
「近辺に住んでる人から情報聞かせて貰ったよ!最近白いワゴン車に乗った怪しい男が来るようになったんだって!」
「そいつらずっとここに居るんだって。そんで、決まってあっち方面に帰るみたい。」
「あっちの方面まで範囲拡大するぞ」
こういう時、子供の積極性というのは便利だ。戸惑う所や遠慮する所をズカズカ入る事が出来るし、子供だからと許される事がほどんどだ。奴らが行った場所をやっと特定出来たのは、もう日が沈んで辺りが暗くなっている頃だった。
「後は俺がやる。お前らもう戻っとけ」
「ぶち切れてるのは俺達も同じだが、とりあえず名前を傷付けんなよ」
「当たり前だろうが」
「うわ、中也の顔怖ッ…」
「こりゃめちゃくちゃ頭に来てる奴…」
「お相手ご愁傷様だわな」
そう仲間達が俺の事を言ってるのを気にも留めずに俺は名前を迎えに行った。

その建物は長い間使われて無かったのか、窓はあちこち割れてボロボロだった。ここに名前が居るのか、待ってろ助けてやる。頭に血が上って制御出来ない異能を建物にぶつければ、一部の地面は抉れ建物の一部が崩壊し、老朽化のせいか激しく揺れる。異能を使って彼女が居ないか窓から確認すれば、シャツを着ていない彼女が揺れのせいで立てないのか床に這いつくばっていた。彼女の事を呼べば、こちらを見て目を見開いた。
「ちゅ、中也…!?」
「おい大丈夫か!?ッ服着てねえじゃねえか…!何があった、否、その前にこれ着ろ」
「ご、ごめん、ありがとう」
「一寸この部屋に入って待ってろ、すぐ終わらせてくる。」
「え、あ、待」
下着しか身に纏ってない彼女に自分が着ていた服を肩から掛ければ、くしゃりと顔を歪ませる。今まで怖かっただろう、遅くなって悪い。自負の念に囚われながら、俺は手当たり次第異能で建物を潰す。そうすれば、恐らく元凶である男が1人、部屋から出てきた。そいつを異能でぶっ潰し、男が出てきた部屋に入れば既に1人は事切れていた。どういう事だ?否、俺が考えても答えなんか出ない。そんな事より名前の所に戻らねば、きっと不安で震えてるに違いない。足早に彼女に指示した部屋まで戻り、彼女を背負って次からは絶対に行き先を聞き出して着いてってやると決意し、拠点まで戻ったのであった。