「やっ!」
「え、ちょっと…!」
「あっちいって!」
「こら、やめなさい」
「やだ!」
「はぁ〜…」

事の発端は数日前、スヤスヤ昼寝をしてる彼を確認し、そのまま拠点に置いて外まで用事を済ませた帰りだった。早く帰らないと彼が起きてまた暴れられるだろうと気持ち早歩きで急ぎめに拠点に戻っている時、誰かに虐げられたのか傷や足跡が至る所に付いている子供が倒れているのを発見した。そのまま放置しても良いのだろうが、人数があまり居ないので加入してくれる可能性があるならばと希望を抱き、辺りを見回して誰も居る気配が無いことを確認してその子に近寄る。話しかけても反応の無いその子はどうやら意識が無いようで、揺さぶっても起きる気配は無い。既に死んでるのかと脈を測るとトクトクと一定の振動が確認出来たので生きてるのだと安堵する。
少し私より年上だろうか、身長も少し高い男の子を拠点まで連れて行けそうも無いので少し強めにその子の肩を叩き、揺さぶるとやっと反応があり目を覚ました。
「大丈夫?」
「あっ…」
「何もしないから安心して?どうしたの?」
怯えてるその子に私は無害だとアピールして落ち着かせ、話を聞いてみる。晶と名乗るその子は、親が他界して行く先が無くここに辿り着いたらしく、彷徨ってる中話しかけられそのまま暴力を振るわれ、意識を失ったと話した。
「私もここに流れ着いたの。」
「そ、そうなんだ」
「そこで、私の拠点に来ない?」
「え?」
「未成年で構成されてて大人は居ないよ。むしろ、暴力を振るってくる奴らを成敗してるの」
「そ、そんなの無理だよ、凄い強いのに」
「うーん、確かに1人だけじゃ虐げられるけど、人数集めたら子供でも勝てるし、今のところ勝った方が多いよ」
「ほ、本当…?凄い…僕も出来るかな」
「仲間になってくれるなら生きる術教えれるけど、どうする?」
「お、お願いします…!」
「よしっじゃあ着いてきて!」
こうして晶の加入が決定した。

拠点に戻り、他の子達に拾った事を伝え挨拶を交えながら彼の元に向かう。最初に会った子に「またあの子暴れてるからどうにかして」と言われたからだ。彼が眠っていた部屋まで行くと既に暴れてる様子は無く、頬を膨らませながらこちらを睨んで不貞腐れていた。そのまま両手を伸ばすと勢い良く抱きついてきたのだが機嫌が直る事はなく、腕に引っ付いてくる彼をそのままに晶の挨拶回りに向かった。
ちょっとだけ会話も出来るようになった彼のお世話は、終日付き合わないで良い程度には成長していた。まあ、彼が私の所に来るので大体一緒に居るのは変わりない。そろそろ自立させる良い機会だろうし、拾った人がお世話係になるという規則は変わりないので晶のお世話係は私が受け持つ事になった。皆が賛成する中、嫌だ嫌だと地団駄を踏み、寝転んで両手足をバタバタ動かすなど全身を使い猛反対アピールしてくるのだが、まあ意見は通らない所かスルーされて思い通りに行かず泣き喚いたのが彼だ。それでも多数決で決まったお世話係に、全く納得していない彼は、晶と一緒に居ると私を何処かに連れ出そうとし、晶にはあっちに行けと言いだす始末。他の子に助けを求めるが苦笑いを浮かべる者や顔を逸らす者、色んな反応があるが全員関与はしてくれないのだ。私も晶も彼に対してどう接すれば良いか分からず、困惑した表情でお互い顔を見合わせた。
「晶のお世話もしないといけないから。ね?」
「やだ!おれも!おれもなの!」
「君はもうある程度分かるでしょ?」
「わかんない!しやない!」
「ううん…ごめんね晶、怪我はない?」
「あ、うん。無いよ」
「んんんー!!!」
「痛い痛いちょっと待って、白瀬見てないで助けて」
「おう、頑張れよ」
「話聞いてる…?」
「もー!もおお、うぅ…うぇぇ…」
地団駄を踏みながら涙を溜めて何処かに行く彼の背中を見送る。恐らくこのまま泣き喚き、疲れ果てて不貞寝モードだろう。彼の励ましを後にするとして、とりあえず晶に教えれてない事や場所を今の間に説明していく。粗方説明した所で食料調達に行っていた白瀬が話に加わってきた。
「お前はちびの相手してやれ、さっき見かけたけどずっと泣いてたぞ」
「だろうね…ごめんね晶、私がお世話係なのに」
「う、うん。大丈夫。あのちび?って子のお世話係でもあるんでしょ?僕は白瀬君に教わるから」
「い、良い子…晶良い子…」
「晶の良い子さに感銘受けてねぇでちびんとこ行って来い、いつ物ぶっ壊されるかたまったもんじゃねえ…」
「あ、うん、行ってきます」
そう言って晶達の元を離れ、今頃泣いてるであろう彼を探しに向かった。

「ヒッ、うぅ"…グスッ」
未だ泣き止んでないようで嗚咽が酷いのでその音が聞こえる方に向かえば、彼はすぐに見つかった。どうやら寝床として使っている部屋に、私が使用しているタオルケットにお饅頭のように丸まっていた。私はそのお饅頭に近づき座れば、中心部の恐らく背中であろう部分を優しく叩けば、彼は中でモゾモゾ動いては私の膝の上に頭であろう部分を置いた。
「ちび君、ほら出てきて」
「うぅ”…やぁ…グズッ」
「頭よしよし出来ないよ?」
「やぁぁ…」
タオルケットから頭だけを出してそのまま腰に腕を回し、グリグリ頭を押しつけてくる。それを優しく撫でながらふわふわした髪を楽しんでいれば、やがて落ち着き静かになった。眠っている訳でも無く、ただただ無言で甘えてくる彼の上体を起こそうと脇の下に腕を突っ込もうとすれば、それを引き剥がされると勘違いしたのか彼は私の腰に回す腕の力を強めた。
「ほら、起きて」
「やだ…」
「その体制しんどくない?」
「…」
「普通にぎゅってした方が良いと思うなー?」
「…ん、」
「お、っと」
上体を起こし、腕を回す場所を腰から首に変えた彼は、そのまま身体を密着させる為に私の膝の上に座る。少し重たいがここで拒めば確実に1日駄々捏ねコースだろう。彼の背中をトントン叩きながらあやしつつ、彼に話しかけた。
「ちび君はお兄ちゃんになるんだよ」
「にい…?」
「そう、お兄ちゃん。お兄ちゃんはね、弟を守らないといけないんだよ」
「…?」
「まだ早いかな…晶のお兄ちゃんになるんだよちび君は」
「やだ」
「うぅん…」
晶という言葉に反応したのか定かでは無いが、物凄い早さで拒否を示し、腕に回す力を強くさせてぎゅうぎゅう抱きついてくる彼に、どう納得させるか頭を悩ませた。

最終的に納得して貰えず、晶の世話係は白瀬に変わり彼の機嫌はすこぶる良くなった。