織田作視点

私の名は織田作之助。一介の下級構成員だ。
ここ数年前にポートマフィアに加入したのだが、「人を殺さない」という信念を貫いている為に実績も無く、それ故に地位なんてものも無かった。誰もやりたがらない仕事を押しつけられ、それをこなしていくだけである。
そんな折、いつもの日常に変化があった。マフィアのビル前を掃き掃除をしていれば、背後からバタバタを足音を鳴らして私の名前を呼び、こちらに近づいて来る1人の構成員が居た。私は振り返り、「織田作之助は私です」と名乗り上げれば、その構成員は私の前で止まり、汗を流しながら息を整える。そんなに慌ててどうしたのだろうか、私は彼の言葉を待った。
「首領がお呼びだ」
私の時が止まった。

案内役の構成員の後ろに着いていくその足取りはとても重たかった。首領の執務室に行くまでが、まるで地獄に行くまでの道のりかのように感じた。下級構成員の私に、首領が何の用事なのだろうか。このまま逃げ出してしまおうか。胃がキリキリ痛み、握りしめた拳から手汗が流れ出るのでは無いかと思う程に私は緊張していた。昇降機に乗り、最上階に居るであろう首領の執務室まで着々と近づいている。喉が渇き、それを少しでも緩和させる為にゴクリと唾液を飲む。チン、と軽やかな音を鳴らしながら最上階に到着した合図が鳴り、扉が開く。そのまま廊下を進み自分の名を名乗ってから執務室の扉を開ければ、その広い執務室には私を呼び出した張本人である首領と、1人の少女がその場に居た。
「ご指示に従い参上しました。ご用件は」
「織田君、よく来てくれたね。早速本題に入るが、君には彼女の指導者になって貰いたい」
「指導者、ですか」
「本来、彼女を拾った人間が面倒を見る事が掟なのだけどねぇ。その彼も新人だから面倒見れないのだよ」
「分かりました」
「じゃあ名前君、後は彼に色々聞いてね」
私と少女はその場から出て、肩を並べて歩く。何を話せば良いのか考えあぐねていると、見かねた少女が話しかけてきた
「えっと、名字名前です。宜しくお願いします」
「織田作之助だ。宜しく頼む」
指導者というのは何をすれば良いのだろうか、私がしている仕事というものは他の構成員とは違って、誰もやりたがらない溝浚いの仕事ばかりであり、勿論上の立場に立つ事など無かった為頭を悩ませた。仕事以外に関してを教えれば良いのだろうか。昇降機が上がってくるのを待ちながら、まずは私の職場に案内しようと思考を巡らせる。
「…そう堅くならなくて善い」
「え、あ、すいません」
彼女に視線を向ければ、いささか表情も硬く身体も強張らせていた。私の緊張が彼女に伝わってしまったのだろうか、少しでも緩和させれたら善いと声を掛けたのだが逆効果だったようで、彼女は身体をビクリと震わせいささか縮こまった気がする。何か彼女の緊張を解す会話は無いだろうか。
「今日は晴れだな」
「あ、そうですね」
いささかベタだろうがとりあえず天気の話をしてみる。だが、あまり会話を得意としない私はこれで話を広げる事は出来ず、静寂がこの場を支配する。どうしたものかと考えあぐねていれば昇降機が軽い音を立てながら扉を開けたので、とりあえず乗り込み彼女の事を観察してみる事にした。よくよく観察して思ったのだが、彼女のこれは緊張よりかは怯えの方がしっくり来る。先程首領と話していた時もだいぶ警戒していたようで、彼女の滲み出るあまり良くない感情がヒシヒシ伝わって来た。となれば私に対しても警戒しているのだろうか、彼女の育った環境がこうさせているのだろうか。正解など分からないが、私の今までの環境を思い出しながら彼女と関わっていければいいと思う。

数週間後、彼女の警戒は解けてくれたようでそれなりに会話が弾む程度には打ち解けてくれた。
彼女は今まで成人男性に虐げられる事が多かったらしく、無意識に警戒していたのだと申し訳なさそうに伝えてくれた。特に私は気にしていないので問題は無いと頭を撫でれば、彼女は嬉しそうに「ふへへ」と声を出し笑みを浮かべてくれた。
後に問えば「あまり警戒しなくても善い気がしてきた」「癒やし効果がある」故に警戒を解いたと教えてくれた。少し莫迦にされた気分であったが、「そこが貴方の善い所である」と云われたので褒め言葉として取っておこうと思う。
さらに数週間後、名前の弟分である中原中也という人物からしつこく決闘を申し出される事になる。