太宰視点

出会いは中也に取引を持ちかけた崖の下であった。
その娘は中也を抱き起こしながら汗を拭ったり甲斐甲斐しく世話を焼きながら会話をしていた。中也よりも先に僕達の接近に気がついたようで、警戒し睨みを効かせる彼女とバチリと目が合い微笑めば少し驚いた顔をしていた。上から聞こえる羊とGPP達の怒号や足音が聞こえる中、忍んで無いとはいえ僕達の接近にいち早く気づけたのは凄いものだ、それだけ今まで過酷な所に居たというのが窺い知れる。まあ、僕には関係の無い事だが。
毒が回って周りの警戒を怠っていたのか、彼女の視線を追ってやっと中也が僕達に気づいた。早い事仕事を終わらせて自殺の練習でもしようと、僕は彼女を気にせずに中也と取引を進めていた。あくまで目的は中也であって彼女では無いし、この後どうなろうが知ったこっちゃない。上手い事丸め込み取引を終わらせ僕はGPPのみの殲滅を指示してその場を去った。

次に出会ったのは彼女がマフィアに入ってからだった。
彼女と下級構成員が並んで歩いているのをたまたま歩いてた廊下で目撃しただけである。以前は僕の目をじっと見つめてきた彼女は、下級構成員を警戒しているのか険しい表情で下を向いて歩いていた。ポートマフィアの掟として拾ってきた人間が世話を見るというものがあるが、彼が拾ってきた訳でも無さそうだ。嗚呼、そういえば彼女を引き入れたのは中也だった、新人である中也が教育なんて出来る筈も無い。きっと構成員に世話係を付けたのも森さんが指示した事だろうし、森さんであれば彼女の大人に対する警戒心に気付いているであろう。それを踏まえて成人済の男を世話係に付けたのだろうか?まあ僕には関係無い事だ、面倒に巻き込まれるのも御免だし助言を与える義理も無い、どちらも接点が無いので僕は特に話しかける事もせずすれ違った。

彼女を気になりだしたのは、中也が彼女に話しかけてるのを目撃した時だった。中也というのは、いつも僕には噛み付き他者にも乱暴な言葉を使い小さい癖に何かと上から目線だ。姐さんと首領に関してはまた別枠であるがそれはさて置き、彼女に対する扱いが他者から見て全く別のものであったのだ。
確かに言葉はいつものように乱暴な所があるが、その声質は柔らかくあまり棘が無い。人を睨むその目つきは彼女に対しては優しく、いつも不機嫌そうな表情は一変して笑みを浮かべ彼女に怒られた時は反論はすれど涙目な事が多い。一言で云うなら「気持ち悪い」だ。僕に対する態度や上司である姐さんと首領は例外としても、明らかに彼女が「特別」だと一見してよく分かる程には態度に出ていた。
好きな彼女に嫌いな僕が接近したら中也はどういう行動を起こすのだろう。面白い事になりそうだと内心ほくそ笑みながら僕は彼女と仲良くなる為の話題を考える事にした。