探して下さい

「あ、おにーちゃん!」
「こら!今まで何処行ってたんだ!探したんだぞ!?」
「ご、ごめんなさい…」
「心配したんだからな、お前が無事で良かった…」
「…」
妹である子供が少し目を離した隙に居なくなっていたと兄である子供が騒いでいた。兄は懸命に探したのだが見つからず、約半日を経過してやっと妹を見つけたようだ。兄は物凄く心配した表情で妹を叱り、妹は反省したように俯いて謝っている、その姿を飴色の髪を持つ子供がじいっと見ていた。

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食料を調達し終わって拠点に戻った時であった。あの名前に引っ付いているチビが、何処か一点をじいっと見つめながら地べたに座り込んでいた。何か企んでいるのか、それとも他に何かあるのか。そもそも未だに十分な会話が出来てないこいつに企むような知識は恐らく持ち合わせてないだろう。僕はそいつに近づいて声を掛けた
「おいチビ、ここで何やってんだ」
「んっ」
「あ?嗚呼、名前か。名前がどうした?」
「うー」
「…分かんねえ」
「うっ」
「呼ぶのか?」
「んーや!」
「違うのか…」
彼と視線を合わせる為にしゃがみながら声を掛ければ、彼が指差す部屋の中には名前が居た。何処から盗んだのか、はたまた落ちていたものを拾ったのか分からない1冊の本を読むのに集中しているようで、僕達の会話が聞こえていないのかこちらに見向きもしない。そんな名前の様子をじいっと彼が見ていたので、話しかけづらいのかと思い僕が名前の方に行こうとすれば彼が僕の腕を掴んで阻止してくる。本当何がしたいのか分からないのだが、とりあえず話しかけてしまった以上こいつに付き合うしか無い。彼の隣にしゃがみ込みながら名前をじいっと見つめる彼を見つめる。
「あーね」
「ん?」
「んー…」
「???」
「じい…むぅ…」
「何言ってんだ?」
「?」
チビが僕に話しかけてきたのだが、いかんせん僕はあまり頭が良くないのでこいつの言いたい事が全く汲み取れない。ほぼ常に一緒に居てこいつの世話係兼通訳係の名前であれば分かるのだろうが、その通訳係に話しかけるなとチビに言われてるので、必然的にこいつの身振りから予測しないといけない。
「あー…?何だその手振り」
「ん、んー、う!」
「わっかんねえよ…」
「ぶぅ…」
「拗ねんなって、今頑張って考えてるからよ…」
「あーね、んー…ん!」
名前の方を指差してからチビは自分の顔を手で隠す。それからまた名前を指差して辺りをキョロキョロ見渡し、チビ自身を指差している。何だ、全く意味が分からん。隠れんぼをしているという事だろうか?それでも名前が鬼をしているような気配は全く無い。本当何がしたいんだこいつ、考えてる事が全く分からねえ。
「ま、まあ頑張れよ。僕はちょっとあれだ、用事があるから」
「あーあーい」
特に用事なんて無いのだが、僕はここから逃げる事にした。ばいばいと手を振ってすぐに名前の様子を伺ってるチビを一目しながら、とりあえず何処か暇を潰せる場所が無いか拠点内を練り歩いた。

「うっ、うぅ…グズ、んん”ぅ〜〜〜〜」
「ご、ごめんって」
「うぅ”…う、うぅ…ヒック…」
「名前、チビどうしたんだ?」
「あっはは…」
時間は経過して夜になった。名前の毛布を被って饅頭のようになりながら泣いてるチビと、その横に座って謝ってる名前の姿があった。昼頃までは上機嫌で名前の事を見ていたのに、今じゃ打って変わって拗ねて号泣モードに入っている。全く話が見えないので話を聞いてみようと名前の隣に座った。
「さっき本を読み終えたんだけど、いきなり私の所に来て地団駄踏んで大騒ぎしたの…」
「う”う”ぅ”」
「まじかよ大変だな…」
「うん、凄い大変だった…そんでから私の毛布引ったくって来てわざわざここで拗ねモード入っちゃったんだけど、何か知らない?」
「うぇぇ…ヒッグ…ん”〜〜〜〜!!!!」
「あ?あー…さっき僕が見かけた時はずっとそこに隠れてたよ。丁度名前から見えない所」
「え、本当何してるんだろう…何か手振りとかしてた?」
「あー、確か…」
「ん”や”ぁぁあ!!!!」
「あーどうしたの、もう」
いきなり大声を上げて名前の膝の上に頭であろう部分を乗せるチビをそのままに、先程僕が見た事を説明しつつチビがしていたように手振りをし、名前の事を呼ぶなという事も伝えた。僕にはチビがしたい事が全く分からないのだが、名前は僕が見た手振りとその時の状況を考えているのか「うーん…」と声を出して悩んでいる。
「あ、もしかして…」
「あ”あ”ぁ”〜〜〜!!!」
「何だ?思いついたか?」
「ちょっと前にほら、凄い仲の良い兄妹の妹ちゃんが居なくなったじゃない?見つかった時の再開を私この子と一緒に見てたんだよね」
「…まさか」
「この子、私に探して欲しくてずっと傍で隠れてたのかも…」
「ヒ”…うぅ…んぶぶぶ…ゲホッ」
「んで、名前が本に集中して全く探さなかったから拗ねてるって事か?」
「可能性はあるね…後は普通に何か気にくわない事があった位しか思いつかないや」
「うぇ…うぅぅ…ヒック…んむ…」
「もー泣かないでよ」
「うぅぅ〜〜〜〜!」
「いで、ちょ、ぐえ」
「名前、大丈夫か?」
「無理かも…」
「うぅ”ぅ”!!!!」
「とりあえず飯持ってくるわ」
膝の上に置いてる頭部分であろう所を名前がよしよし撫でれば、ガバリと起き上がってずり落ちる毛布はそのままに名前の首に腕を回す。その勢いに押されゴン、と音を立てながら後ろに倒れ、蛙でも踏みつぶしたかのような声を出す名前に声を掛けた。未だに泣いてるチビから真相を聞く事も出来そうに無いし、とりあえず食いっぱぐれるだろう事を見越して2人の飯でも取りに行ってやるかと腰を上げたのだった。