誕生日

「そういや名前、チビの誕生日っていつなの?」
「え?知らない」
遊びたい盛りの彼に引っ張られ、連れてこられた公園のベンチに座っている時だった。私ともう1人着いてきてくれた子と会話に花を咲かせていると、彼女に誕生日について聞かれた。そもそも私は倒れていた彼を拾っただけで、誕生日など知る由もない。
貧民街で生活している孤児には誕生日を知らない人間だって居る。物心つく前に施設に預けられ経営難でそのまま捨てられた子や、親に虐待されて教えられる事無く捨てられる子だって少なからず居るのだ。そういう子達は、私達の中では拾った日を誕生日としてお祝いするのだ。とは言っても、そんなに豪勢には出来ないので少しご飯の量が増えたり、お祝いの歌を歌う程度なのだが。
ベンチから腰を上げ、砂場にぺたりと座り込んでは砂の感触を楽しんでる彼に近づけば、彼は私に気づいてこちらを楽しそうな表情を浮かべながら見てくる。
「チビ君の誕生日はいつなんだろうねー」
「うー?」
「今日で良いんじゃない?」
「適当すぎる…!」
「て、とー?」
「て、き、と、う」
「う!」
彼の頭を撫でればケラケラ楽しそうに笑い、私に引っ付こうとする。さすがに砂まみれになるのは嫌なのでグイグイ彼の身体を押せば、少ししょんぼりした顔でこちらを見てきた。軽く肌や服に付着した砂を払い落とせば、彼も同じようにバンバン自分の身体を叩く。痛くないのだろうか?少し満足げな顔をしながら両腕をこちらに広げて来たので軽く抱きしめれば、嬉しそうな声を出しながらギュウギュウ抱きしめてきた。
「誕生日って特別な日じゃん?だからご飯も少し豪勢になるしさ!」
「さてはお腹空いてるから言ってるね?」
「ギクゥ!」
「バレバレだよ、もう」
まあ、それでも恐らく誰も彼の誕生日を知らないというのは事実だ。1年前のこの時期に彼を拾ったし、まあ4月29日の今日を誕生日として良いかもしれない。彼の中に誕生日という概念が存在してるか分からないが、お祝いされないよりされた方が嬉しいだろう。それに、他の子はお祝いしてるのに彼だけしてないのも後味が悪いし、いつか誕生日を知った彼が大暴れしそうだ。きっとお祝いしても今の彼にはよく分からないのだろうが、まあお祝いした事実は残るだろうし追々教えていけば良い。
「じゃあ、今日を彼の誕生日にしちゃいます?」
「しちゃいましょう!」
「あーに?」
「今日はちび君の誕生日だよー」
「?ちいくん、たうー?」
「た、ん、じょ、う、び」
「た、ん、じょ、び」
「うん、誕生日。」
誕生日は何たるかを教えたのだが、あまりピンと来てない彼は終始疑問符を浮かべたままであった。彼女は思い立ったらすぐ行動と言わんばかりに「夕御飯を豪勢にして貰うように言ってくる」と先に帰ってしまった。

あれから夕方になるまで彼に付き合わされた。私がそろそろ帰ろうと言っても全く聞いてはくれず、私が掴もうとした腕をスルリと交わし、ブランコや滑り台、他の遊具に走って駆け寄ってはきゃあきゃあ楽しそうな声を出しながら遊び尽くす。そんな彼についていきながら、よくこんなに体力があるもんだと感心する。時間も時間だし駄々をこねる彼を引っ張ってなんとか拠点に帰れば、ワラワラ子供達が集まってきた。
「「ハッピバースデーちび!」」
「???」
どうやら彼女が話を付けたようで、帰ってきて砂やら色々と汚れてる彼を囲う。彼は物珍しそうに子供達を見て、どうすれば良いか分からないのか私をじっと見つめてくる
「お祝いだよ」
「おいわい?」
「そう、さっきも言ったでしょう?ちび君が生まれてきてありがとうってお祝いするの」
「ふへ、」
ちゃんと理解はしてないようだが、とりあえずは良い事という事はなんとなく分かったようで嬉しそうに笑みを浮かべる。彼の手をほかの子が引っ張って案内しようとするが、私と引き剥がされると勘違いしたのかその手を振り解き、私に抱きついてくるので私が彼を先導し、全員が輪になって夕食を始めた。
皆が頑張ってくれたのか、久し振りにそれなりに量が多いご飯にありつけた。彼も嬉しそうな顔をしながら食料に手を伸ばしては私を見て笑顔を向けてくる。そんな彼の頭を撫でながら、「おめでとう」と云うのであった。

この後、何度も「誕生日はまだか」という質問をされ、1年に1回しか無いことを伝えればふて腐れていた。