ひっつき虫SS詰め

7歳
「あー、じゃあこんな感じで良いか?」
「うん、良いと思う」
ある日の昼下がり。人が増えてから作戦の幅が広がったのは良いが、あまり連携が取れていない部分の修正をどうすべきか名前と2人で作戦会議をしていた時の事だ。修正以外にも他の作戦も考えようという事になって色々話し込んでいれば、だいぶ時間が経過していたようで昼寝をしていた連中が次々と目を覚ましだした。
「うあー…うー?あー!あ○△×□※〜〜」
「チビ起きたな」
「ぽいね」
「こっち来るかな?」
「うーん…分からない…」
それはチビも例外では無いようで、まだしゃべる事の出来ない彼の言葉は分かりやすい。昼寝組が居る部屋から少し離れた場所で話していたこの場所からでも、彼の声がよく聞こえた。というより恐らく名前が居ない事に気づいて叫んでいるのだろうが。その部屋からチビが出てきては辺りを見回し、名前を見つけたのか進行方向をこちらに向かってぺたぺた歩いてくる。まだ眠いのかとろんとした表情で目を擦りながら近づいてきたので名前が声を掛ける。
「チビ君もう起きちゃったの?おはよ」
「あーんぶぶ」
「甘えん坊だなぁ」
名前にぎゅうぎゅう抱きついては離れようとせず、何ならそのまま二度寝しようとする彼の背中を名前が少し強めに叩いて起こすのであった。

15歳
「あ、白瀬」
「ん?どうした?」
拠点内を彷徨いてる時だった。背後から誰かに呼びかけられたので振り返れば、小走りで僕に近づいて来る名前が居た。いつも中也が居るのに今日は珍しい事に1人のようで、辺りを見回してもあの珍しい髪色は見当たらない。彼女は腕に本を抱えているようで、それを僕の前まで来たら両腕でズイッと差しだしてきた。
「この本有難う、凄い面白かった!」
「嗚呼、いつでも良かったのに。でも、気に入ったようで安心したよ」
「凄い良かったから早く共有したくて。今って時間ある?良ければお話したいな」
「良いよ、丁度暇してたとこだし。どっか座れるとこでも行こうぜ」
彼女から本を受け取って適当な場所に座って話そうと足を進める。彼女はこの本をとても気に入ったようで、興奮が冷めないらしく身振り手振りでこの本がいかに面白かったかを話している。僕がうんうんと相槌を打ちながら座れる場所が思いつかなかった為に食堂で話し合う事にし、そこで語り合った。
「それでね、それでね」
「うん」
「何話してんだ?」
「あ、中也。おかえり。怪我は無い?」
「おう、ただいま。んなヘマするかよ」
「嗚呼、反撃して来てくれたんだ」
「おー。で、何話してたんだ」
彼が姿を現さなかったのは、どうやら僕達の拠点を襲撃してきた奴らに反撃を食らわせに行っていたようだ。彼女はその事を知っていた様子だ、まあ常日頃行動を共にしていればそりゃそうか。名前に関しては分からないが、中也は基本的に名前にだけは行き先を必ず伝えに行くし。中也は名前の隣に座っては何の話をしているのか問い詰める。
「この本のお話だよ、白瀬が貸してくれたんだ」
「あー、最近読んでた奴か。」
「そう、これが凄く面白くてね、白瀬と語り合ってたんだよ」
「ふーん」
「そうだ、それでね、」
中也の質問にいささか早口で答えた後、中也なんぞ目もくれずキラキラ輝かした表情で僕を見つめてこの表現がいかに面白いかと手を振りながら解説していった。僕は名前程感性が良くないので、素直に彼女の考えを聞いてはそういう見解があるのかと本の話を思い出しながら相槌を打つ。隣に座ってる中也は頬杖をつきながら唇を尖らせ、あまり面白く無さそうな表情をしながら名前の顔をジッと見つめる。それでも名前は全く中也の視線を意に介してないようで話を進めていた。それでも中也は名前の傍から離れる事は無かった。

22歳
今日も今日とて芥川先輩の護衛を務める。
彼の隣に着いていきながら廊下を歩いてる時であった。比較的年齢が近くて女性の構成員が少ない為にそれなりに仲良くなった名前さんが向かい側から歩いているのを確認した。どうやら中也さんは近くに居ないようで、1人で書類を確認しながらツカツカと歩いていた。
「名前さん!」
「おっ!?樋口ちゃんと芥川君。これから任務?」
「いいえ、書類の提出を首領からちょっと云われまして…」
「あー、芥川君書類整理苦手だもんね」
「…名前さん、」
「忙しいから無理です」
「…何も云ってはおらぬ」
「云う事なんとなく分かるよ」
少しあきれ顔になりながらそう返事する名前さんに、芥川先輩は少し顔を顰める。そもそも、これから名前さんに少し手伝って貰おうとこうやって廊下を歩いていたのだ、アテが外れてしまったようで芥川先輩の機嫌が少し下がっていた。
「樋口ちゃんとお昼食べたかったんだけど、芥川君逃げ出しそうだよね…」
「フン」
「得意げにしないの」
「名前探したぞ。何してんだ?」
「あ、中也」
少し得意げな顔をした芥川先輩も素敵です。廊下で駄弁っていれば、名前さんの背後から中也さんが駆け寄ってきた。本当、名前さん居る所中也さん有りって感じだ、誰かが前に「中也さんを探すならまず名前さんを見つければ大体見つかる」と云っていたのを思い出す。
「樋口ちゃんをお昼に誘おうとしてたんだけど…」
「なら俺と食えば善いじゃねえか」
「え、樋口ちゃんが善い」
「えっ」
「あ、そうだ」

場所は変わり食堂。ポートマフィアでは希望者には弁当が与えられる。とは云ってもその弁当代は給料から差し引かれるのだが、それなりに味は良いし豪勢だ。私は自分に割り振られた弁当を持っては窓際の2人席に座って名前さんとご飯を食べる。ちなみに名前さんは自作のようで、中身は見た目も考えてか色鮮やかで食欲がそそられる。
「で、芥川先輩と中也さんが一緒に食べる、と」
「中也を監視役に置けば芥川君も逃げられないかなーって」
「くそ、何で俺が芥川と…」
「樋口ちゃんと2人でお昼だなんてあんまり無いからちょっと嬉しいな」
「あまり時間合いませんもんね、私も嬉しいです」
「あ、そのおかず美味しそう。ちょっとちょーだい」
「はい、どうぞ」
「あーん…だと…!?」
名前さんの案で、私と名前さんが、芥川先輩と中也さんが一緒にご飯を共にする事になった。名前さんはニコニコ楽しそうにしてるのに反し、中也さんは私達の近くの席を陣取っては私の事を睨み殺さんとばかりにこちらを見つめる。中也さんの独り言は結構大きくこちらまで聞こえているのだが、名前さんは全く気にした様子も無い。ちなみに、芥川先輩は関与しない姿勢を取っており、モソモソとご飯を食べ進めていた。あ、中也さんの箸折れた。
「美味しいねぇ」
「美味しいですね。あ、これ美味しそうです、頂いて善いですか…?」
「善いよ、はいあーん」
「あー…ん、ん〜!おいひい」
「本当?お口に合ったようで良かった」
「名前、それ美味そうだな。俺にも一口」
「やです。」
いつの間にか私達の席まで来ては食べさせて欲しいのか口を開けて待ってる中也さんに、掌でベシッと善い音を立てながら顔を遠ざける名前さんを見て彼女は大物になると確信した。