スカート

こちらから言う言葉はだいぶ理解してくれるようにはなったが、彼から言う単語は結構滅茶苦茶な時がある、そんな時期にそれは起きた
「ちょっとこれ履きなよ!」
「や!」
「下何も着ずすっぽんぽんとか駄目だろ色々と!」
「だめ!」
「そうだよ駄目だよ何も履いてないのは。さあ、履こう?ね?ちょっとだけ!ちょっとだけでいいから!最初は違和感あるけど良くなるだろうから!!!」
「んーや!」
「やっ!じゃねえっていい加減着ろって!」
「んん〜〜〜〜!!!!」
「あ〜〜〜〜〜!!!」
シャツだけしか着ず下は丸裸の彼に衛星面的にもチラリする的な意味でも、とりあえず何か履かせようと盗んできたズボンを片手に、彼を抑え込もうと奮闘する子供達。もう何度も行ってる攻防戦だが、未だ彼にズボンを1度も履かせられた事は無い。とは言っても後はズボンのホックとチャックを閉めるだけという惜しい所まで1度行ったのだが、今までシャツを着るだけの格好が彼にとっては普通の服装だったからなのか、ズボンという四肢に纏わり付く感覚に違和感があるのか、開放的なのが好きなのかよく分からないが、その場で脱ぎ捨てて脱走する始末。それ以降とりあえず毎回履くのを拒み、ズボンを引き裂きただの布に変えたのは1度では無かった。いや、破れるまで攻防し続けているという表現の方が合ってるのかもしれない。今回も負けた子供達は「こいつは露出狂だ」と何処で覚えたかも分からない表現を使う。確かに、と周囲の子供達が納得していると彼はびゃっともの凄い勢いで私の後ろに隠れ、子供達を威嚇している。そんな彼の頭を撫でて機嫌を取っているとグリグリ肩に頭を押しつけてくる。そんな事をしていると「名前が甘やかすから駄目なんだ!」「そーだそーだ!露出狂を生み出したのは名前だ!」「お世話係なんだからズボン履かせろよ!」と私まで飛び火を喰らう。確かに甘やかせてる自覚もあるし、お世話係だから何かしら手を打たないといけない、とは言え露出狂を生み出したのは私ではなく、その人の性癖では無いのだろうか?とりあえずそこだけは反論しておいた

「え、何これ」
「あ、名前お帰り」
「おかえい?」
「お、か、え、り」
「おかえり」
「うん、ただいま」
「ただま」
「ただいま、だよ」
「ただいま」
「そう、上手。…じゃなくて」
ある日、盗みから帰ってきた私はもの凄い光景を見てしまった気がする。会話の途中で彼の発声の練習をしつつ、そちらの方に気が逸れそうになったが主張する赤色のそれを問いただした
「何で赤色のスカートを履いてるの?」
「いやあね、今日ね、彼に履かせるものの調達に行ったの。そしたら赤いスカートを入手出来たから」
「いや、え?んん…?」
「ちょっとだけ!ちょっとだけ履いてみるだけだから!って言ったのよ。そしたら彼ったら拒むどころか自ら履いてね、アタシ思ったの。露出狂じゃなくて彼って…」
「いっしょ!」
「ん???」
「いっしょー!」
「あら?心は乙女ってワケじゃ無いのね?残念」
スカートを履かせる事に成功した彼女の言葉を遮り、私の事を指差して一緒だと嬉しそうにする彼。ああ、彼は私がズボンを履いていないから自分が履くものでは無いのだと攻防戦が繰り広げられていたのか。最初に見たものが親のように思う刷り込み現象のようなものだろうか?理由が分かったのは良かったものの、結論が出るまでそれはそれは手こずったなと再利用出来そうと放置していたズボンだったものの山を思い出し、1つため息を零す。まあ、彼が露出狂じゃないと分かっただけでも良かった。本当に。
とりあえず男女の衣服の差というものを教えるが、お揃いなのがそんなに嬉しいのか私の話を全く聞いていないようで、彼は立ち上がってスカートを靡かせ「ひらひら、いっしょ」と嬉しそうにくるくる回り出した。子供だから男女の差というのはあまり出てはいないが、うん、目に毒だ。とりあえず回ってる彼を停止させ、スカートを脱がせた
「あ!なんで!」
「これは心や体が女の子が着るもので、男の子が着るものじゃないの。」
「いっしょ、いっしょ」
「だーめ」
「だめ!」
お揃いだからこれが良いとせがむ彼に対して心を鬼にし、スカートを適当に畳み胸で抱える。両手を伸ばし返せと訴えて来るが身体を半回転させて返さないと意思表示すると、彼は頬に空気を溜めてそのままその場に寝転がりふて腐れた。お行儀が悪いと言うもゴロリと寝返りを打つだけで、その日はずっと彼から返事は無かった。それも次の日起きればその事も忘れ、私に構えと後ろを着いてきたのだが。
後日、私が拾ってきたズボンを渡すとすんなり履いてくれた。今までの攻防戦は何だったのか、脱ぐ気配が全く無いどころか、上機嫌な彼を見るに最初から私が渡してれば良かったのかと少し項垂れた