甘え

「それにしてもよぉ、」
「ん?」
「お前、こいつの事甘やかしすぎじゃね?」
「え、そうかな?」
「そうだろ。今だってよぉ」
「んー」
「んー?どうした?」
「んーんんー」
「めちゃくちゃ甘やかしてるじゃねえか!」
「えぇ!?」
ある日の昼下がり。まだ片手で数えれる程度しかしてない勉強会が終わり、特にやる事も無くぼんやり壁を背もたれにして座っていると白瀬から声を掛けてきた。私がここに来て最初の方は白瀬が私のお世話係だったので結構付きっきりで一緒に居てくれたのだが、今では私もある程度ここの生活にも慣れ、彼のお世話係をやる事になり付きっきりでいないといけない為、関わる機会が減っていた。
なんだか少し昔に戻ったみたいだなぁと白瀬との会話に花を咲かせていると、少し先でキョロキョロ何かを探してるように見渡していた彼が、私の事を見つけるや否やこちらに駆け寄り私の背後に回った。いつものように負んぶを強請ろうとしてるのであろう彼は、私が壁に背を預けているのを確認し、グイグイ私を前に押してくる。仕方無しに少し前に行くと、彼が入れる位に空いたスペースに身体をねじ込み、私の首に腕を回し頭を置いた。今の私に負んぶをする体力が無いので頭を撫でるだけで終わらせるがそれで機嫌を良くしたのか、グリグリ頭を押しつけてくる。彼の髪が首に当たって擽ったいが、これで負んぶをしないで良いなら安上がりだ。そのまま白瀬と会話をしていると、甘やかしすぎだと指摘された。
「自覚無かったのかよ!?」
「だってぇ…」
「だってじゃねえよ!あんま甘やかしちまったらこいつの為にもなんねぇ!」
「うっ…そ、それは…」
「んー?」
「とりあえず!こいつをあんまり甘やかしたら駄目だぞ」
「わ、分かったよパパ!」
「だっ、誰がパパだ!」
「ぱー」
「わっ…!パパって言おうとしたの…?」
「だーかーら!」
「ほ、褒めて伸ばすのは良いでしょうっ」
甘やかしてる自覚は全く無かったのだが、周囲から見たらそうなのだろうか。確かにおんぶを要求されたら普通にこなしていたし、引っ付いてきたら頭を撫でていた。こういう行為が甘やかしていると言うのだろうか?勉強などは褒めて伸ばしていく方針でいくつもりだが、要求してくるもの大体をこなすと確かに彼にとってあまり良い事ではないだろう。そういうのも教育であり、お世話係である私の務めだ。白瀬の言ってる甘やかしている行為という線引きがあまりよく分かってない所もあるが、とりあえず明日から少し検討していこう。今は全く離れそうにない彼を放置しながら白瀬に甘やかしている行為というものを詳しく聞く事にした

「んっ!」
「だめ」
「んーっ!」
「だあめ」
「んっんっ!」
「だめです」
「う〜〜〜」
「し、白瀬ぇ」
「頑張れ」
相当私のおんぶがお気に入りなのか、廃材の確認などをして背後を見せていた私に彼はいつものように私の背中に乗ろうとした。それに気づいた私は、彼に乗られる前に振り返り背中を隠す。すると彼は、自分を負ぶって欲しいと言わんばかりに私に両腕を目一杯伸ばして来たのだ。まるで駄々をこねる子供だ、いや実際子供なのだが。全く引こうとしない彼にどうすれば良いか分からず、たまたま近くを通りがかった白瀬に助けを求めるが適当に返事をされるだけで相手にされない。白瀬から言ってきた事なのに無責任では無いかと少し憤っていると、彼はそのまま正面から抱きついてきた。そのまま背に手を回して背中をトントンと叩いて離れろと合図を出すのだが一向に離れる気配が無い。どうすればいいのだろうか、と頭を悩ませていると、元々元凶であろう兄妹がこちらに歩いてきた
「あっまーた引っ付いてんのか?」
「わたしも、わたしも!」
「こら、引っ張るなよ。ったく仕方ねぇな」
「わーい!」
「んっ!」
「だめです」
「んーっ!!!」
「だ、だめです!」
この兄妹、だいぶ仲が良いし兄が妹に対してとても甘すぎるのだ。そのまま抱っこする兄と大はしゃぎな妹に指を差す彼が自分にもあれをしろ、と要求してきた。負んぶであれば前かがみになれば重心が取れるが、さすがに抱っことなるとだいぶ重心が危うい。元々筋肉の無い私は負んぶでさえも重心が危うい時があるし、相当体力が奪われるのだ。いや、そもそも甘やかすなと白瀬に言われてるのでやるつもりも毛頭ないのだが。
全くやってくれる気配が無い私に痺れを切らした彼は、ピョン、と私の腰辺りに両足をクロスさせ飛び乗った。いきなりの事に全く反応出来なかった私は、そのまま後ろに倒れこみ、尻もちをついた。
「い、ったた…」
「うー…」
「あぁ、大丈夫か!?」
「おねーちゃん、だいじょうぶ?」
「だ、だいじょうぶ…」
足の上に彼の全体重が掛かる痛みと、ジンジンする尻に涙目になっていると申し訳なさそうな顔をする彼がこちらをじっと見つめる。大丈夫だと意味を込めて頭を撫でると、そのままぎゅっと抱き着いてきた。立ち上がろうにも彼が膝の上に乗ってる為、とりあえず降りて貰おうとこちらに来てくれた兄妹に手伝ってもらいながら彼を引きはがそうとするが、全くびくともせず私が引きずられる始末。
とりあえず厳しくいくのは難しそうだと結論が出て、このまま甘やかし続けた結果、また白瀬から厳しくいけと叱責されるのであった。