尾行
暇、暇だ。本当に暇だ。仕事も一段落して何もやる事が無い。あまりにも暇なのでとりあえず名前の所にでも顔を出してみようと思い立ち行動に移す。事前に連絡を取っている訳でも無いので忙しそうであればその時はまた出直そう。最近やっと彼女の行動パターンを把握出来るようになったので彼女が居るであろう場所に足を向ける。
名前は居た。俺が予測していた場所とは別の所であったが、とりあえずすんなり見つける事が出来た。だが、彼女の周りには共に過ごしている男が2人居り、思わず彼女が見える後方の柱に身を隠しては状況を確認する事にした。
まずその1人は織田だ。織田については仕方ない、なんせ彼女の世話係であるからだ。仕事自体はすんなり覚えた彼女は、体術を教わる為に未だに織田と共に行動している事が多い。ったく、俺だって教える事位出来るってのに、何であいつなんだ。下唇を噛み締めながら織田に嫉妬したのは最早指で数えきれない。それでも彼女が織田に懐いているから無碍にも出来ずとりあえず様子見だと結論を付けたのだが、問題はもう1人の方だ。
「…何であのクソ太宰まで…」
何でか包帯ぐるぐる巻きのいけ好かねぇ太宰の野郎までが共に居るのだ。そうとなれば話が違う。そもそも俺の知らない間に彼女と太宰が仲良くなってるのが気に入らねえ。何だ今の笑み、何で俺に向けずあの太宰に向けてんだ…!名前から離れやがれこのクソ太宰!柱の影に隠れて悶々とした気持ちを抱えながら3人の様子を伺う。
立ち話を止めた3人はどうやら移動するようで肩を並べて歩き出した。俺の位置ではほとんど会話も聞こえないので何処に行って何をするのか全く見当が付かないし、彼女を拐かすような事をされる可能性がある、そんな中見過ごす事など俺は出来なかった。そのまま彼女達に気づかれないように後を追った。
場所は変わってとある飲食店。俺はそこで適当な物を頼んで椅子から少し身を乗り出して彼女らの様子を伺う。
ガヤガヤ賑わうこの飲食店では、彼女達からこちらは見えないのか全く俺に気づく気配は無い。むしろ会話が弾んでそちらに集中しているようで、楽しそうに相槌を打ちながら笑みを浮かべている。あの太宰に。それにしても、いつ話が弾む程仲良くなったんだ?確かに俺の嫌がらせの範疇で太宰の野郎が名前にちょっかいを掛けてるのは知っていた、彼女も「中也が見つかりやすくなる目印と思われてる」と見当違いな事を言っていたし、そこまで仲良く無い筈だ。多分。せいぜい世間話だとか自殺の誘いだとかそういう所であろう。それが、あんなに、楽しそうに…!力んだせいでバキリと割り箸が音を鳴らして折れる。クソ、これで5本目じゃねえか。新しい割り箸を取って飯を口の中にかっ込みながら彼女の様子を見る。
「おじさん何やってんの?」
「お兄さんだ餓鬼。引っ込んでろ」
隣に座ってる親子連れの子供が俺に向かって話しかけてきたので一蹴する。こっちは名前を見るのに忙しいんだ、後おじさんって何だよ俺はまだ16だぞ。
3人は飯を食べ終わったのか飲食店から外へ移動した、というより恐らくマフィアの拠点に戻るのだろう。俺はその後ろを電柱の陰などを駆使して見つからないように尾行する。
「美味しかったね」
「そうだね〜織田作もカレーがあって良かったね」
「嗚呼。だがあまり辛くは無かった」
「え、結構辛かったと思うんですが…」
「そうか?」
彼女らの会話が聞こえる所まで近づいて聞き耳を立てる。どうやら彼女のお眼鏡に適ったらしくチラリと見える横顔は少し輝いて見えた。正直俺は飯の味どころでは無かったのだが彼女が言うなら美味いのだろう、今度連れてってやるかと脳内メモに書き足す。そのまま彼女らの話を聞きながら歩いていれば、ポートマフィアの拠点に到着した。そろそろ解散するだろうと適当に出会った風でも装って名前に話しかけようとした時、太宰がこちらを見てはニヤリと笑みを浮かべた。
…あの太宰、気づいてやがったな…!ギリィと音を鳴らしながら歯を食いしばり、とりあえず太宰に一撃を食らわす為に一歩足を踏み出した。