生還END

※あくまで比較的光END
※闇END読まれた方は途中まで一緒なので「___」と記載されてる所まで読み飛ばして下さい。
※中也が生還というだけで彼女は死んでます

短気任務に赴いた先で、彼女が好みそうな髪留めがあった。そういや、最近仕事が忙しいようで美容院にも行けやしないとぼやいていた事を思い出す。俺がちゃんと仕事をすれば解決するという言葉はとりあえず頭の片隅におきながら、彼女の髪の長さを思い出して使って貰えるだろうと購入を決意した。今回の任務は彼女だけ留守にして貰ったし、留守中の詫びだと云って贈れば別段おかしくは無いだろう。彼女はどんな反応をしてくれるだろうか、喜んで貰えるだろうか?忙しそうであれば俺が髪を結って、そんで仕事を手伝おう。多少恨み言は云われるだろうがそれはそれだ。口角が上がるのを部下に指摘されながら、俺は彼女が居るマフィアに戻る為に車に乗り込んだ。
ポケットに入れてる携帯に着信が入った。着信相手は首領のようだ、先程任務が完了したという連絡をしたが何か不備でもあるのだろうか?片手でハンドルを握りながら電話に出れば、少し深刻そうな声色で首領から言葉を告げられた。
要約すれば「ポートマフィアが襲撃されたから早く帰ってこい」という事だった。首領の言葉を理解した瞬間、血の気が引いた。マフィアには名前が居る。何でこんな時に限って襲撃されるんだ畜生ッ!どうか、どうか無事で居てくれ。そう祈りながら俺は車をかっ飛ばした。

「姐さん!敵は、」
「…おや、中也かえ。ちと遅かったのう」
マフィアに戻って最初に目に付いたのが姐さんだった。その足元には誰か分からない死体袋が並べられており、マフィアが受けた被害というのは増大だった事を物語っている。辺りを見渡しても敵のような存在は確認出来ず、姐さんの言葉も相まってほっと肩の力を抜いた。
「そうですか…名前は何処に居るか知りませんか?」
「…」
「書類ほっぽり出したんで多分怒ってるだろうし早めに…姐さん?」
「…中也、取り乱すでないぞ」
「は、」
俺の言葉に何の反応も示さない姐さんを見て後悔した。深刻な表情をした姐さんの表情とその言葉に、反射的に理解した。してしまった。
「あの娘は死んだ」
「…は?」
「名前は、ここじゃ」
そう云った姐さんは、足元にある死体袋を開けた。名前が、その場で目を瞑って、横たわっていた。
「名前…?」呼びかけても起きない。
「おい名前、起きろよ。」彼女の隣にしゃがみ込んで肩を揺らす。それでも彼女は目を開けない。
「何の冗談だよ、おい、なあ、おい…起きろって…」名前の躯を揺さぶる。起きない、目を開けない、両肩を掴んで揺さぶっても、力無く躯が動くだけで何も反応を示さなかった。
「止めよ。彼女はもう死んでおるのじゃ」
「…うそだ」
うそだ、うそだ、うそだうそだうそだ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!」
停止していた思考が一気に駆け回る。名前と一緒に過ごした日々、たくさん彼女から貰った記憶が駆け巡り涙となって溢れ出てくる。こんなに間近で叫んでいるにも関わらずこいつはただ穏やかに眠っていた。昔は、俺の事を見つめてどうしたんだと声を掛けて涙を拭ってくれたのに。何で、何で。
「いたかったな、ごめんな、わるかった」
彼女をただ守ろうと戦いから遠ざけようと短気任務から外したのに、何でこんな事になってんだ。何でこいつは目を瞑ったままなんだ、俺はなんて取り返しが付かないことをしてしまったんだ。怖かったろう、痛かったろう、苦しかったろう。俺も痛い、痛い痛い痛い。喉が、鼻の奥が、心が痛い。信じたくない、厭だ。やめてくれ。俺からこいつを奪わないでくれ、頼むから、夢であってくれ。グルグル回り次から次へと溢れ返る思考は、落ち着く気配を見せない。横たわる彼女の躯を抱き込めば、抱きしめ返してくれる両腕は項垂れたままで心地よい体温はじわじわ彼女から奪われていく。撃たれたのかまだ乾いてない血が俺の服や手袋に染みこんでいった。

______
夜が来て、朝が来る。あれからどうやって帰ってきたのか分からない。寝具に寝転がったまま一睡も出来ずにただぼんやりとしていた。ただ1つ理解したのは、名前の家に行った所で彼女が出迎えてくれる事は永遠に訪れる事は無いという事実だけだった。
この世界に引き連れて来る時、覚悟はしていた、していたつもりだった。他の所でくたばるより近くに置いて俺が守れば善い、そのまま野垂れ死ぬならそこまでだと、そう思っていた。それでも脳は、心は追いついてくれなかった。
何も考える事が出来ないまま、ただ義務感だけが躯を動かす。いつもの時間に出勤し、いつものように彼女のデスクを見る。
「あ、おはよう中也」そう笑いかけてくれる彼女はもう居ない。
「中原幹部、そろそろお時間です」
「…嗚呼」
背後から俺の部下が声を掛けてきた。昨日の襲撃で命を落とした人間を弔い、火葬する。
彼女の姿を見るのはこれで最期だった。

朝が来て、昼が来る。数時間前に見送った彼女は土の中に入っている。彼女の隣に座って遠くから見える海を共に見る。
これからどうすれば善いのだろう。彼女が居なくなった世界で、どう生きれば善いのだろう。何度も何度も考えたが答えなんて出やしない。ただ、俺が死んでしまえば彼女が生きた証が無くなるような気がして、それは厭だと思った。
「また来る」
彼女を忘れない為に、俺は答えの無い正解を見つけるべく、今日を生きる。