告白

出勤してから今まで書類とパソコンに集中している時であった。中也の部下であり私の同僚でも無い、顔も知らない男に呼び出された。今週までに仕上げないといけない書類が多くて正直面倒極まりないが、同僚達がキャーキャー云いながら私を追い出すので仕方無く呼び出した男に着いて行った。
「名字さん、俺と付き合って下さい!」
「え、はぁ…構いませんけど、どちらにですか?」
「え?」
「え?」
付き合えと云われたので恐らく買い物か何処かだろう。首領にでも命令されたのだろうか知らないが、さっさと終わらせてさっさと仕事に戻りたいのが本音だ。中也が居るなら荷物持ちにも最適だろうし彼に押しつけでもしようと思ったが、生憎彼は現在首領に呼ばれて近くに居ない。
「財布取ってくるのでちょっと待ってて下さい」
「あ、いえ!違うんです、あの」
「何ですか?」
「え、えっと…その…」
何処か落ち着きのない様子で目をキョロキョロ動かしながらも本題に入らない彼に痺れを切らす。
「すいません、忙しいので手短にお願いします」
「あ、の!以前、助けて貰った時からずっと気になってて…!す、好きです!」
「は、あ…有り難う御座います」
彼は私に助けられたと云っているが、生憎私の記憶には彼の思い出は全く無い。いつ何処で私が彼を助けたのか全く見当もつかず人違いでは無いのだろうかと疑う位だ。そもそも、それより仕事の事が気になりすぎて思考が回ってないだけかもしれないが。「すいませんが失礼します」とだけ云って彼を置いて私はその場を去った。

「名字ちゃん!どうだった!?」同僚達がこぞって私に迫ってくる。
「はい?何がですか?」
「今の人だよ!俺から見ても結構格好良かったし!」
「はあ…」
仕事に戻ろうと自分の椅子に座れば、彼らは私の後ろに着いてきてはあちこちから先程の会話は何だったのやらどうだったのやら色々聞かれたので素直に答える。私の同僚はちょっと前から出勤しなくなった女の子を除いて男しか居ないのだが、女子の会話のようにキャーキャー云いながら楽しげに私に話しかけてきた。ただ好意を示されただけで何だと云うのだ、中也だってたまに私に好きだと云ってくれるし樋口ちゃんや姐さんだって云ってくれる。騒ぎ立てる必要性など感じないと仕事をしながら伝えれば、同僚の皆は微妙な顔をしてこちらを見ていた。何だ、何だというのだ。彼らに見つめられるのが居たたまれなくなり私は仕事に集中する事にした。

やがて視線が感じられなくなって仕事に集中出来た頃、扉の開く音が聞こえてそちらに目を向ければ中也が戻ってきたようだ。
「中原幹部お疲れ様です!」
「おー、」
「あ、中也。これ中也がしないといけない書類だよ」
「ゲッこんなにあんのかよ…」
「今まで溜めてたツケです。ちゃんとやりなさいよ」
「おう…」
溜めに溜めてた書類の中で中也がやるべき書類の束を渡せばあからさまに厭がりながらそれを受け取った。全く、早くしておけばこんな事にはならなかったのにいつまでも書類に関しては学習しないのだからと内心少し怒りながらも手を休める事はしない。それ程時間に余裕は無いのである。
「中原幹部聞いて下さいよ!」
最近ここに入ってきた1人がサングラスの内側にある目をキラキラさせながら中也に切り出す。
「おお、どうした?」
「名字さんが先程告白されたんですって!」
「ちょ、」「あー!あー!あー!」「新人くーん!ちょっと、ちょっと静かにしような!」
以前から居る同僚達は新人の言葉を遮るように騒ぎ出す。
「…は?」
一方中也はただ静かにそう呟いた。手に持っていた書類はグシャリと握りつぶされ見るも無惨な状態になっている。
「おい名前、どういう事だ詳しく教えろ今すぐにだ」
「お仕事あるから先そっちやって」
「幹部命令だ」
「職権乱用すぎない?」
足音をズカズカ鳴らしながら私のデスクまで来ては机をドンッと叩く中也に見向きもせず淡々と答えた。
「男の人が来て付き合ってとか好きって云われた位だよ」
「は?」
「最初はお買い物に付き合って欲しかったみたいなんだけど、違うみたいで…その後好きって云われたんだよね」
「は?」
「私は覚えて無いんだけど、何処かで助けたみたいでね。」
「は?」
「尊敬されちゃったのかな?そんな事で尊敬しなくても善いのにね」
「…は?」
彼にそう報告すれば返ってくる言葉は毎回「は?」というものであり、彼の顔を改めて見れば表情は抜け落ちていた。
この表情をする時は物凄い機嫌が悪い時だ。小さい頃は大体放置して1日置いておくか私が構えば機嫌が直っていたが、今はそんな単純な事では機嫌は直ってくれない。
「え、何でそんなに怒ってるの?どうしたの?お腹痛い?」
「…その男の名は」
「え、知らないけど」
「手前ら知らねえか?」中也は同僚の人達に顔を向けてそう問う。
「いえ、自分達も存じ上げなくて…」
「特徴は」
「え?」
「特 徴 は」
「中也、何そんなに怒ってるの?」
「手前は黙ってろ」
同僚の人から特徴を聞いては扉をバタンと大きい音を鳴らして何処かに行ってしまった。仕事を放り出して。
否、仕事して下さい頼むから。