呼び方の話

私がマフィアに入って数ヶ月が経過した日であった。
その日は織田作さんの訓練が比較的早めに終わった。あくまで比較的なだけで私の躯は既に疲れが見え隠れしているが、それはまあ置いておくとして、早めに終わったきっかけは織田作さんのお腹の虫が大合唱し始めたからだ。躯が大きく燃費の悪い彼は、頬を少し赤らめながら寝坊して朝をあまり食べてなかったのだと告白してくれた。
それは一大事だと織田作さんを引っ張って現在、昼食を取っている。共に居た織田作さんと、廊下でばったり出会った太宰君の3人でご飯を食べている。
彼らと共にご飯を食べるのは1度や2度では無い。織田作さんとはよく一緒に過ごしているので流れで昼を共にする事が多いのだが、基本的に神出鬼没な太宰君は昼時はよくぽっと現れる。きっと織田作さんが大好きでご飯一緒に食べたいんだろう。織田作さんは癒やし系で話してて面白いし。
楽しく会話を続けながら昼食も食べ終え、マフィアまで戻っている時だった。
「そういや織田作は名前ちゃんの事名字で呼んでるんだね」
「ん?嗚呼、そうだな」
「名前で呼ばないの?」
太宰君の言葉に私は大いに期待した。年上の、ましてや上司である立場の人に失礼だとは思うがもっと彼と仲良くなりたいという気持ちがあったのだ。名字で呼ばれるより名前で呼ばれた方が少し距離も近づけたみたいで嬉しい。少し心を躍らせながら彼の言葉を待った。
「否、さすがにそれは失礼だろう」彼は困り顔でそう云った。
まさか断られるとは思いもしなかったので「えっ!」と声が出てしまった。態と距離を置かれてるようで少し寂しい。
「ほら、名前ちゃん寂しがってるじゃないか」救世主の声だ。少し俯き加減だった顔をバッと上げて織田作さんを見上げる。
「ね?呼んであげなよ」
「はァ!?馴れ馴れしすぎだろうが!」
「中也何処から沸いて出たの?」
会話してる内にマフィアのビルに到着していたようで、何処からともなく中也が現れた。中也の一言のせいで織田作さんから名前を呼んで貰えるという貴重な機会が潰れてしまい、大変不満である。中也は太宰君とギャーギャー騒いでおり、やれ「名前が困ってるだろ」だとか「名前と親睦深めんじゃねえ」と云っており私の内心を勝手にでっち上げていく。その内喧嘩はヒートアップして太宰君に対する悪態へと変わっていった。
「名前に馴れ馴れしくすんじゃねえよ!」
「え〜?別に良いじゃないか。ねー名前ちゃん」
「っせぇよそもそも手前だって名前で呼ばせる許可してねぇぞ!」
「何で君の許可が必要なんだい?名前ちゃんは君と同じ境遇で育ったのは認めるけどそこまで束縛して善い理由にはならないでしょ」
「ッ…!うっせえよ!」
このまま取っ組み合いの喧嘩になりそうで織田作さんは顔には出てないがどうすれば善いのかオロオロとしていた。そんな織田作さんの隣に立って私は彼に話しかけた。
「お、織田作さん」
「どうした?」
「あの、呼んでくれないんですか…?」
「…迷惑じゃないか?」
「全然!むしろ呼んで欲しいです…!」
勇気を振り絞って出した言葉で、逆に織田作さんを困らせてしまっただろうか。彼は顎に手を当てて考える振りをしながら、ボソリと呟いた
「…名前」
「は、はい!」
「なんだか気恥ずかしいな」
「ふへへ、私は嬉しいです」
「ヒューヒュー!」
「あぁ”?」
これからももっと呼んで下さいと云えば善処すると返事が来たが、それ以降私を名前で呼んでくれるようになったのは別の話。
ついでにカチンと来た中也に対して「中也の莫ー迦」と云ったら彼は呆然とその場に立ち尽くし、太宰君は大爆笑して顎が外れた。