実力
上司である中也が長期任務に出た故に仕事が無いと説明を受けた紅葉は、名前を嬉々として歓迎していた。
元々彼女の実力を購っており、下級構成員の時に引き抜こうと企んでいた1人であった。実際は中也に一歩遅れてしまって叶う事は無かったが、これを逃さぬ紅葉では無い。
「さて、私の手伝いをして貰うとするかのう…」
「書類仕事は任せて下さい!」
名前に対する執着が酷い元部下が帰ってくるまでの間、紅葉は名前の世話を見る事を決意した。万が一名前の心変わりがあれば配置換えを希望してくれるかもしれない。下心満載で名前を受け入れながら、のんびりと時間を共有する。
「紅葉姐さんの部隊はどういったお仕事をされてるんですか?」
「主な仕事は中也と似通ってるのじゃが、捕虜に情報を吐かせる仕事もやっておる」
下心抜きでも彼女と言葉を交わす事は嬉しかった。元々少ない女子で頭も悪くない、異能や身体能力はからっきしであるが、そこがまた庇護欲が湧き上がるものだ。
「成る程…私も情報吐かせるのは得意だった方ですが、マフィアの拷問となると更に凄みがありそうですね」
「こういった類が得意なのかえ?」
「そうですね…一応羊に居た頃の情報吐かせるのは私の役目でした」
つい先日捕らえた敵組織の人間が、紅葉部隊の手を持ってしても中々情報が吐かない人間が居た。捕らえたのがその人間のみであるので、なんとか硬い方を割らせねばならない。紅葉は名前にある提案をした。
「ほう、ならば手を貸してくれんかのう?」
場所は変わって拷問室。
ある男が1人、手錠に繋がれ項垂れていた。警戒されぬよう紅葉は姿を隠し、名前だけがその男に近づく。
「さて、どれ程やれるのかお手並み拝見じゃ」紅葉は名前の事をじっと見据え、事の成り行きを眺めている。
名前はポートマフィアに入ってから情報を吐かせる事はした事が無い。故に紅葉も彼女の実力は知らない。力で捩伏せ語らせるでも無く、ただただ男の前に立って淡々と言葉を交わすだけであった。
それからどれ程経過しただろうか、名前は踵を返し紅葉の元に足を進めた
「紅葉姐さん終わりました。後程報告書を提出しますね」
紅葉は目を疑った。この数日、あの手この手で情報を引き出そうとしても全く吐かなかった男が、こんな短い時間で引き出したのか。現在敵対している探偵社に転職した元最年少にして幹部まで登り詰めた男の顔がチラつく。
彼女はとんでもない物を持って居るかもしれない、紅葉は先に行く名前の背中を追いかけた。
名前を手元に置いて数日が経過した。
その日の内に提出された敵組織の情報を元に、ポートマフィアが反撃した。その際名前のが提案した内容で襲撃してみれば、スルスルと上手い事行き、怪我人は出たものの死者は出なかった。
ただただ書類整理しかさせていない中也の元に居れば宝の持ち腐れだ、彼女が羊の時に培った経験や彼女が元々持つ才能は適切に扱えば伸びるであろう。彼女自身も、ポートマフィアも。
五大幹部の席とまでは難しいかもしれないが、準幹部クラスであれば難なく登り詰めるのではないだろうか。紅葉は今回の内容を纏めた報告書を首領である森鴎外に提出しに行った。
「中也の所に居れば宝の持ち腐れじゃ。どうにかこちらに引き抜けないかのう…」
「私もそうは思うのだがねぇ…さすがに、五大幹部の2人が抜けるのはちょっと見過ごせない」
「私が負けるとでも?」
「中也君の執着は凄いからね。」
「はぁ…名前をその気にさせる方が早そうじゃな」
2人は執着の酷い彼の顔を思い浮かべ、溜息を吐いた。