リンゴ

ポートマフィアとの衝突し、羊も勢力をつけだしていた頃。戦力はそれなりに充実してきたが、その分食料が足りなくなってきた。全員に行き渡る程にはあるにはあるが、満腹感を感じるには程遠い程には不足しており、皆が皆常日頃お腹を空かせているのが現状だった。それを打開出来る程の力を持っていなかった私達は、それを持て余す他無く、特に何もする事が無い日はあまり消耗しないようにとじっと座る日々だった。
その日はたまたま運が良く、食料調達に向かった子達にお節介焼きの老人がお腹を空かせてるだろうと色々と渡してくれたらしく、結構な食糧を調達出来た。戦利品を全員で確認しながら今日はご馳走だと皆で笑いあい、解散した後は袋詰めを手伝うと立候補し、ルンルン気分で食料を袋に詰めていく。
「ん?あれ、ここに置いてたリンゴは?」
「あれ?どこ行ったんだろう」
「もう袋の中に入れたんじゃない?」
「私は入れてないよ。」
「私も入れてない」
「俺も」
「何処行ったんだろう…ん?」
私含めた3人が元々入っていた袋に食料を詰めていると、置いてあった1つのリンゴが無くなってる事に気が付いた。私の1番近くに置いてあったそれを入れた覚えも無いので、他の2人が入れたのかと問うが入れていないと返事が来た。おかしいな、周囲を見回してもリンゴが落ちてる気配は無い。落ちてる気配は無いが、飴色の髪を持つ彼が壁を見ながら何かをしている事に気づき、声を掛けてみた
「何してるの?」
「んー?」
「あっリンゴ!」
「そのままかじってるじゃねえか!」
「だ、大事な食料が…」
「???」
呼ばれた彼が私の方に振り返ると、その手には探していた真っ赤な果実があった。お腹が空いていたのだろう、リンゴを丸かじりしてモグモグと動かす口の周りをリンゴの汁でベタベタにしてる彼を見て項垂れる。果物というのは結構貴重品なので、毎回そっちの方が大きいやらもっと寄越せやら小さな暴動が起きるものを彼が独り占めしていた。まだ事の重大さに気づいてない彼は首を傾げながらシャクシャクと音を立てながらリンゴに噛り付いている。あまりにもじっと果物を見ているので、何かを察したのか彼が「んっ!」とリンゴを渡してきた。これは恐らくリンゴを返すという意味ではなく、私にも分けてあげようという意味合いだろう。少し得意げにしながらこちらにリンゴを渡してくる彼に、ありがとうと伝えてそれを受け取る。
「これ、どうしようか…」
「ばっちり歯形ついてるしな…」
「半分位食べられてるよね、これ…」
「んっんっ」
「お前も食えだってよ」
「いや、うん、ありがとう…」
「ふふん」
「お前のもんじゃねーんだけどよ…どうすっかなこれ」
綺麗な形どっていたリンゴは、既に半分程度は彼のお腹の中に入ってしまった。変に噛り付いて歯形やらついてるリンゴをどうすべきかと頭を悩ませていると、早く食べろと言わんばかりに持ってるリンゴの手を彼が私の口までグイグイ押してくる。共犯になりたい訳じゃないので礼を言いながら食べずにいると、また得意げな顔をしてる彼に1人が突っ込みを入れる。とりあえず齧られてない部分だけでも他の子らに提供し、彼の夕食にリンゴはお預けだという結論が出た。
夕食、1人分がそれはそれは小さいものであちこちから文句を言われ暴動が起き、1人だけ提供されてない彼が憤怒し、隣に座ってる私からリンゴを奪おうとしてくるので攻防戦が起き、相当体力が削られたのであった。