喧嘩1

中也が羊のリーダーという地位に就いてから数年の事だった。
元々の性格上喧嘩っ早い上に異能力という手札を持っている彼は、独断専行な動きが目立っていた。リーダーとしての責任というものが出来てからは先手必勝という事で1人で片付けようとする事が多く、評議会のメンバーで練った作戦通りに行く事はほとんど無かった。
羊の方針、というよりほとんどの作戦の案を立ててる私の方針としては、襲撃してきた下っ端を言葉巧みに騙すなり尋問するなり周囲から情報を集めてから相手の長を叩き殲滅する方向で今まで切り抜けてきた。長の情報が掴めず野放しにしていれば、何処かで潜伏しながら仲間を集って私達を叩き潰してくるに違いないからだ。少なくとも、今まで組織の長を潰せなかった時は大体同じように襲撃されてきたので、多少なりとも長期決戦は仕方ないと思っているのに対し、中也は出てきた相手をとりあえず異能力で潰せば良いと思ってる。元から考え方が正反対の私達が意見が衝突するのも少なくはなかった。他の皆の意見としては、私が羊に加入してから今までこの方針で勝利を収めてきた私の作戦の方が良いと支持してくれてる。今更変えるのも逆に混乱してしまうというのもあるからなのか、私が加入する前が散々だったからなのか。多数決で決める作戦で毎度中也は腑に落ちないような顔をしながら評議会の会議は終了する。

今回、襲撃してきた下っ端の人間を1人捕らえる事が出来た。言葉巧みに騙そうとしても、尋問しても全く情報を吐く気配が無かった。結構な手練れの相手だろう、人質として生かしておきながら他に情報を集めれないか、まず死体になった人間の所持品を確認しに行こうと拠点から出る。ざっと目視で確認したが死体は重力で潰されており、悲惨な有様だった。携帯などの通信機器が使えそうもなく、所持品諸共木端微塵になっており死体からの情報収集は諦めた。人質として取ってる人の所持品と周囲の噂や目撃情報から集めるしかないか、溜息を1つ零して先程居た尋問部屋に戻る
「…何で死んでるの」
「あ”?敵なんだから潰しゃいいだろ」
部屋に戻ると、そこには重力に潰され死体になった人間と中也が立っていた。こちらも悲惨な有様で、所持品が生きているとは心底思えなかった。
「人質として生かしてたんだけど」
「人質取ろうが何しようが向こうがまた攻めてくるだろ」
「そうなる前にこちらから襲撃する為に情報を、」
「あー分かった分かった、俺が悪かったよ」
「っ、」
何度も口酸っぱく言ってる言葉を煩わしいと言わんばかりに、私の言葉を途中で被せる彼の態度が腹立たしく思えたが、今私が出来る事は彼を糾弾する事ではない。早く先手を打つ為に周囲からの情報提供、少しでも敵組織の情報の糸口が無いか死体を満遍なく調べる事だ。喉元まで出ていた怒りの言葉をぐっとこらえ、怒りで握りしめ震える手の力を抜き、1つ溜息を零し足早に情報収集が得意な子の元に足を向けた。

結論から言えば散々な結果になった。情報収集の為に走り、手薄になっていた時にすぐに新しい人間を送り込んできたのだ。こちらの体制を持ち直す時間も与えてくれず、中也以外の人間は大なり小なり怪我を負ってしまい、出血多量でそのまま死んでしまう子も少なからず居た。情報優先か潰すのが優先か。最初に決めたの作戦から既に内部で意見が割れ統率があまり取れてないこちらに対して相手は現状の把握から団結力、統率力というのは見習いたいものであった。相手は私達の情報をよく調べて来たのか弱い所を熟知しており、中也が居たにも関わらずこちらは大損害だ。襲撃してきた敵組織の半数以上は潰す事に成功したが、なんせ数が多すぎて残った半数以下の人間は取り逃がしてしまった。人質として捕えようとするにしても無傷で動けれる者は中也しか居らず、そもそも中也は人質を取るだなんて発想なんて無いようでこちらに大丈夫か、と声を掛けながら走ってくる。頭に銃弾か、破片が掠ったのかダラダラ流れ続ける血が目に入り、片方しか開く事が出来ない目で状況を確認する。目に見える限りでは敵組織は既に撤退しており、軽症者は重症者を拠点まで運び、警戒しながら撤退した。

「結論から言うと大損害だ。今動けるのは数名。とは言っても足が撃たれてねぇってだけで多少なりとも怪我を負ってる
奴らばかりだ。満足に動ける奴は恐らく中也しか居ねえ…どうする」
「どうするって言っても…今攻められたら確実死んじゃうよね、うちら」
「確かに…死んだ奴も居るしな」
「何か手は…名前、なんか無いか?」
「…」
その日の夜、評議会のメンバーを集め作戦会議を開いた。そのメンバーは1、2人欠けている。先程の襲撃で死んでしまったからだ。反撃するにしても集めた情報も数少なく、敵組織の名前と拠点場所位しか分かってなく、相手がどれ程の手数が居るか分かってない今、乗り込んだとしても怪我を負ってる多数を死にに行かせるだけだ。万全な状態じゃなければそもそも勝つなんて難しいだろう。後手に回ってしまった時点でこちらの敗北だったのだ。
「とりあえずこの拠点を捨てて隠れ家の方に、いや、そこもバレてる可能性を考えて全く別の所に拠点を作ろう。全員の怪我を完治させる方が良いと、」
「は?逃げんのかよ」
「…は?」
口を出してきた中也に怒りが込み上げる。自分でも出した事無い低い声が出て周りの空気がピリッと重くなるのを感じた。それでもお構い無しに中也は口を出す
「こっちが逃げたように思われるじゃねェか。」
「ッ、そもそも、中也が作戦通り動かないからでしょ!?」
「落ち着け名前、らしくねえぞ」
「何でそうなンだよ」
「人質の人間勝手に殺すし、独断専行な動きされて統率はバラバラになったんじゃない!」
「うっせぇな」
「何でそういつも反抗的なの!」
「はぁ!?」
「おい、お前ら落ち着けって」
「中也なんて大ッッ嫌い!」
「なッ…!」
今までの怒りが込み上げてしまい、その感情を制御を出来る程大人には成りきれていなかった。1度出してしまった言葉の取り返しは付かず、最悪な空気にしたまま私はその場から飛び出してしまった。