1.盗難

西暦2205年。
歴史の改変を目論む「歴史修正主義者」によって過去への攻撃が始まった。
時の政府は、それを阻止する為「審神者」なる物を各時代へと送り出す。
審神者なる者とは。
眠っている物の想い、心を目覚めさせ、自ら戦う力を与え、振るわせる、技を持つ者。
その技によって生み出された付喪神「刀剣男士」と共に歴史を守る為、審神者なる物は過去へ飛ぶ―――。

・・・
・・

時は2335年某日。
歴史修正主義者による過去の攻撃は未だに途絶える事は無く、むしろ勢力を増していくばかりで未だに大規模な戦争は終結する気配は見えない。
それどころか、一部の時代は歴史修正主義者によって歴史を改変され、放棄せざるを得なくなった時代も少なくない。明らかにこちらが劣勢だ。
時の政府は少し焦りを見せ始めていた。なんせ、審神者の数が思っている以上に少ないのだ。
世間一般の間に審神者という職業は存在しない。
審神者やその関係者含め全ての人に箝口令が敷かれているからである。少しでも口外すればパニックで暴動が起きるのが目に見えているからだ。その箝口令のせいで審神者が少ないという悪循環に陥っているのだが致し方ない。
それに、何の対策をしていない訳でも無いのだ。その対策の1つとして実行されているのが刀剣の展示である。
今現在、刀剣男士として力を借りている刀剣達の展示だ。その期間は沖縄から北海道まで全ての刀剣が集結し、各地で大規模な展示が行われている。
さすがに現存していない刀の展示は出来ないが、刀の状態が良い刀剣は国宝であろうとも御物であろうとも美術館や博物館に集結する。
日によってばらつきがあるが、比較的人の出入りの絶えない空間になっているだろう。なんせ、あの展示がほとんど無いと言われている御物が展示されるのだ、多少興味を持っている人からすればこの期間が見るチャンス。
とは言え、展示は定期的にされているので最初の展示よりかはだいぶ効果は薄れていってる気がするが。
この展示に何の対策があるのか?審神者探しの1つの策である。
出入り口には霊力を持つ人間と察知する機械を設置している。これによって審神者の力を持つ者かを見極め、政府がその人間を徹底的に調べ上げて勧誘するのが一連の流れだ。
刀を見る人間が年代が高いのが悩みの種だが、そこから血縁者を洗って調べれば霊力が受け継がれてる事が多い。
それに、小中学生が社会見学をする頃合いに展示を開催すれば見学場所をここに選んでくれる事だってあるのだ、物は使いようである。
そんな感じで、今現在その展示が行われている最中である。

「あー退屈だ。本当退屈だ。」
「はっはっは、お主はいつもそれだなぁ」
「もうここにも飽きたのさ。俺達を見える人間も居やしない。」
「稚児ならまだしも、俺達本霊が見える人間も、審神者ですら稀だからなぁ。」
「はぁ、退屈だ。何か面白い出来事は無いもんかい」
「ならば昔話でもしよう。あれはお主がまだ―――」
「きみの昔話は同じのばかりでもう飽きたぜ」
「あなや」
刀の展示ブース。
展示の並べ方は色々だ。刀派の時もあれば前の主や来歴に馴染みのある刀剣で固められる事もあり、期間や場所によって異なる。
付喪神を退屈させないようにと時の政府の考えであるが、長期間ショーケースに閉じ込められるのだからどの道暇なものは暇である。
今回、刀派で振り分けられたそこには三日月宗近とI丸国永が隣接して展示されていた。2人は同じ刀派という訳では無い、刀工が血縁関係という理由で置かれているだけである。
ここに展示されている付喪神は本霊である。子供や感受性の高い人間がごく稀に付喪神の姿が見える事はあるのだが、それも本当に稀な事で今回の展示では未だに巡り会えて居ない。
審神者だって自分の霊力を分け与え顕現した刀剣男士の姿をやっと目視出来る位だ、誰の霊力も注がれていない本霊はただの霊体である。故に驚かせる事も楽しませる事も何も出来ないとI丸国永は物凄く退屈していた。
周りに馴染み深い刀剣が居ない故に必然的に暇をしている隣人―否、人間ではなく付喪神だが―と暇潰しで緩やかな会話を続ける。
三日月の反対側には石切丸が居るが、彼は「参拝者の祈祷を願おうか」と開館してから加持祈祷で忙しいらしく何処から持ち寄ったのか大幣を持っては祝詞を読み上げている。そもそも、ここは神社でもないただの美術館なので参拝者では無いのだが。
「はぁ、何か驚きが無いものかね」
「さあなぁ…俺にはよく分からん。そろそろ閉館の時間だな、寝るか」
「いつも思っていたんだが、君の就寝時間はいささか早くないかい?」
「はっはっは、じじいだからな」
「そもそも睡眠など俺達に必要無いだろう」
三日月の和やかな雰囲気に飲まれながらつまらない会話をしている時であった。閉館間際にも関わらず、男が1人入館してきたのだ。
別に閉館間際まで人が居る事は珍しい事では無い。たまにお気に入りの刀剣が居るのか閉館まで熱心にその刀を見ては名残惜しそうに帰る人も居るのだ。
だが、基本的に閉館する時間の30分前で入館は締め切られる為にこの時間に入ってくるのにいささか違和感が生じた。他のブースを見るのに時間を費やしたのだろうか?
その男は深く帽子を被っては刀剣ブースを右往左往しており、挙動が不審であった。やがて目的を見つけたのか足早に三条・五条展示ブースに足を踏み入れては、ショーケースの前で何かを取り出し、やがてそのショーケースは男の手によって開かれI丸の鞘も鍔も全て引っ掴まれた。
「え」
「あなや」
I丸国永は、その男の手によってその場を離れざるを得なくなった。