10.説明

あまり定かではありませんが、小学校低学年…恐らく2、3年生の時でした。
下校の途中、一緒に帰っていた友達と別れて住宅街を1人で歩いていた時の事です。曲がり角の所から空中浮遊して刀を咥えた骸骨の幽霊を見ました。私は幽霊を見てしまったという恐ろしさでダッシュで家に帰り、両親に泣きつきました。その日から多くて毎日、少なくても月に1回その幽霊を見ました。年齢を重ねるごとにその幽霊の姿が多くなり、7種類の幽霊を見るようになりました。
中学2年生の夏の日の事です。今まではただ追いかけられるだけで済んでいたのですが、今までは最大3人の幽霊しか追われる事が無かったのに、その日は6人と人数が増え私を殺そうとしてきました。その時に逃げた先があの神社で、この刀を見つけました。
幽霊に物理攻撃が効く事は小学校の時から知っていたので、もしかしたらこの刀のパワーで成仏させれるのでは無いかと思いました。その、刀を警察に持って行かなかったのは自分の身を守る為にあの場所に隠してました。ごめんなさい。えっと、その日を皮切りに、幽霊が私を殺そうとしてくる頻度が上がりました。
え?物理攻撃が効くと知ったきっかけ?えーっと、その時剣道の習い事をしていたのですが、たまたま竹刀袋をぶん回したら当たったのでこりゃいけるなって。あ、はい。剣道は今も続けてます。
えっと続きですね。それから緑色の目をした幽霊、青色の幽霊、赤色の幽霊に遭遇しました。青色の幽霊は高1の時、赤色はここ数ヶ月前です。この赤色の幽霊が物凄い手強くて…あの、先程は助けて頂き有難う御座いました。それなのに刀を向けちゃって申し訳無い限りです。

「こんな感じです」
「成程、有難う。じゃあこの幽霊を含むこちらの現状を説明します」
「あ、はい」

まずあの幽霊は時間遡行軍と言います。これからは略して遡行軍って呼ぶね。
時代は遡って2205年。歴史を改変する為に遡行軍が過去の時代を攻撃して来ました。うーん、例えるなら、織田信長って知ってる?何をしているかまで覚えていなくても、名前は知ってるよね?うん、学校で歴史を習う時によく出てくる人物だね。
その人は本能寺の変で死んでしまったのだけども、もし織田信長が本能寺の変よりも後に死んでしまったら?もしかしたら今まで習っていた歴史がまるっと変わるかもしれない。うん、歴史を覚えていない話は一旦置いとこうか。
その人物が本来死ぬべき時に死ななければ、今生きている人が産まれる事が無いかもしれない。突如消えてしまうかもしれない。死んでしまうかもしれない。こうやって会話している僕や、いつも隣に居た人、君たちの両親。もしかしたら君さえも。記憶の中には確かに居る人が、学校に行けばその人物の席すら無かったりするかもしれない。あまり実感は無いだろうけど、遡行軍がしている事はそういう可能性があるんだ。
そこで、僕達政府役人は遡行軍に対抗する為に刀に宿る付喪神様を喚び起こして戦って貰っているんだ。さっき車内で神様を信じるかって聞いたのはその事だよ。あ、ちなみに君を助けた眼帯の彼も付喪神で――嗚呼、驚いたかい?人の形をしているけど、彼も付喪神なのさ。通称刀剣男士。そのまんまって感じの名前だね。
ああ、君が持っていた刀にも付喪神が宿っているはずだよ。まだ喚び起こしていないから見えてはいないけど…燭台切、さっきの眼帯の彼だね。独り言を話していたように見えたのはきっとこの刀に宿る付喪神と会話をしていたんだろう。僕達にも見えないから何を話していたのか分からないけど…

「君自身を狙ってきているならば、遡行軍にとって君は重要人物の可能性がある。」
「はあ…」
「そこで提案なんだが、審神者にならないかい?」
「審神者?」
「そう、さっき話した付喪神を喚び起こす力を持つ者を審神者と言うんだ。」
「私にそんな力は無いと思いますが…」
「さっきのゲートで確認をしてみたが、どうやら君には素質がある。それに、審神者になれば君を保護出来るし遡行軍から狙われる事は無い」
「それは…良いですね…」
「いきなり言われても決めれないだろうし、ちょっと考えてみて。決まったらここまで連絡して欲しい」
「あ、はい。分かりました。えっと、この刀はどうすれば良いですか?」
「えーっと…ちょっと待ってて。薬研、やげーん!」
バタバタと走って何処かに行ってしまった役人の人を先程貰った名刺を見ながら待つ。未だに役人の人が言ってる事が若干理解出来ていないし、なんだか絵空事のようで実感が沸かない。このシロさんにはどんな神様が宿っているのだろうか、未だに土がこびり付いてザラザラしている鞘を撫でる。とりあえず近い内に雑巾を持って鞘だけでも綺麗にしようと考えていれば、バタバタ音を鳴らして役人さんが戻ってきた
「家に持って帰って良いよ、というか持って帰って傍に置いといて!」
「どうしたんですか、顔色悪いですよ」
「いいいいや何でも無いよ、えっと、とりあえず申請とかはこちらでしとくからさ」
「は、はぁ…分かりました」
「今日は有難う、送っていくよ」
「有難う御座います」
なんだか顔色の悪い役人さんに送って貰ったのは良いのだが、刀を家に入れる良い訳をどうしようか悩んだ。