3.拾う

何だこれ、何だこれ、何だこれ。何でこんな所に刀が、しかもこんな隠すように。
その鞘は真っ白だが所々土が付いていた。恐らく長い間ここにあり、泥やら色々付着してしまって固まったのだろう。
この刀は使えるのか?そもそも何でこんな所に刀があるんだ。刀は確か昭和?時代、いやもうちょっと前に廃刀令か何かで使えなくなったはずだ。剣道部なのに刀の事を知らない事は許して欲しい、歴史は得意じゃないんだ。
竹刀とは違って腕に抱いてるずしりと重いそれをぼんやり見やる。
そりゃそうだ、刀は鉄の塊で出来ているんだから。これはきっと本物だ。本物の刀は小学生の頃の社会見学でしか見た事無く、模造刀など1度も見た事無い。何なら鞘から抜いてすら無いのに、私の直感がこれは本物だと訴えていた。
本殿の下の隙間から幽霊が居るであろう方を見れば、気配を消しながらこちらにジリジリ迫ってきており、殺気なのか重苦しい空気がビシビシ伝わってくる。
今まで追いかけてくるだけでこんな重苦しい雰囲気になる事は無かったのに。足は16、否12本?今まで会敵した時の事を思い出しながら予測を立てるに、恐らく4人居るだろう。それと空中浮遊してる骸骨が2人、最低でも計6人だ。
え、6人…?今まで最大3人しか遭遇しなかった。今までとは明らかに違う状況に心臓がドッドッドッと早く鳴り、頭の中が真っ白になる。どうしよう、どうする。白い刀を腕に抱き、どうか幽霊に見つからず無事家に帰りますようにと神頼みする。
それでも神は私に微笑んではくれなかった。
骸骨が1人、左側から躍り出て私の方に突撃してきたのだ。不味い不味い不味い!死んでしまう…!この後来るであろう衝撃を想像し、思わず目をギュッと瞑った。
「…え、」
想像していた衝撃は来なかった。私は真っ二つにも刺される事も無く、腕に抱いていた刀の鞘部分で骸骨の刀を受け止めていたのだ。骸骨は一旦引き、私を殺そうと再度向かってくる。
どうする、どうする、どうする。竹刀と真剣では扱い方が何もかも違うだろう。私に使えるか、ここで戦わないと死んでしまう、どうする。
頭ではパニックになってグルグル思考が巡るが、身体は既に刀を構えていた。相手の事を見据えながら、行動を予測し振りかぶっていた。
遅いーーー!
「やああああ!」
竹刀の時のように振りかぶったので勢いが死んでしまったが、運が良かったようで骸骨はスパッと真っ二つになりサラサラと灰のように崩れ落ちた。
幽霊だから何も残らないのだろうか。非日常的な事が目の前で繰り広げられ、思わず固まってしまう。否、そもそも幽霊が見えるのも追いかけられるのも非日常的なのだが。
ぼんやりしている暇はない。少なくとも後5人の幽霊が居るはずだ。しかも私を殺しに掛かろうとしている。バランスを崩した身体をなんとか体勢を立て直し、刀を握り構える。
何処から来るのだろうか、後ろを目線だけで確認すれば幸いな事に正面から戦闘を吹っかけて来るようで、5人の幽霊が目の前に現れた。
骸骨の幽霊が1人、四足歩行で虫と幽霊が合体したような姿をした奴が2人、笠を被った落ち武者擬きが2人。
何故だろう、先程の骸骨で上手く行ったからだろうか、身体の中心から力が湧き上がり沸騰するように暑いのに厭に頭だけは冷静で、視界もいささか広く見える気がする。
先程の疲れは微塵も感じない。このまま5人を倒せる気もしてきた。もう一度刀を握り直し、前の幽霊を見据える。
最初に動いたのは骸骨だ、その後すぐに四足歩行が1人ピッタリとくっつくように後ろを走っている。他の3人は様子見か動く事は無い。骸骨の方が足が速いのか一気に間合いを詰めて来た。
「っ!」
勝負はすぐに決まった。私の突きで骸骨を倒し、その突きを見た四足歩行が動きを止めようとしたようだが、勢いを殺す事は出来ずそのまま串刺しとなった。
正直賭けだったのだが、上手く行ったようで良かった。残り3人、刀を構えている奴らに向き合い、体勢を立て直した。

「ゼィ、ぜぇ、は、はぁ…や、った」
少し苦戦したものの、無事に勝利を収める事が出来た。
その場に崩れ落ち手から刀も溢れカラン、と音を鳴らして地面に転がった。
この刀が無ければ私は今頃何の手立てもなく殺されていただろう。
風貌で驚かしてくるただの幽霊だと思っていたが大間違いだったようだ、これから奴らに会敵した時どうすれば良いのだろう、また戦わないといけないのか?
「…刀、」
どうしよう。本来ここに刀があるなら警察に通報すべきだ。だがこれを引き渡した後に襲われたら?得物が無かったら?竹刀で戦えばスッパリ斬られて終わりだ。
「ご、ごめんなさい…!」
最終的に出した結論は、同じ所にこの刀を隠す事にした。
いきなり襲われた時逃げる事が出来るなら万々歳だが、今回のように逃してくれないようであればここに得物があると考えたら心の持ちようが違う。何より上手くいけば今のように倒す事だって出来る。
きっと見つかったら怒られるどころか逮捕されそうだ、犯罪を犯してしまった気がして胃がキリキリ痛み、患部をさすりながら立ち上がる
「帰るか…」
ふと振り返り、先程戦闘を起こした所を見れば、そこには何も無かった