6.将来

時は2344年某日。
初めて幽霊を倒してから4年という月日が経過し、中学2年生だった私も高校3年という年齢になってしまった。いやはや、時の流れというものは早いものである。
あれからあの幽霊に狙われる事が多くなった。否、遭遇するのは今まで通り少ない時で月に1回、多い時で毎日遭遇する事には変わり無いのだが、中学1年までのただ追いかけて来るだけという訳じゃなく私の命を確実に狩ろうとしている頻度が高くなったのだ。空気が重苦しいなと感じた場合はいつもあの寂れた神社の道に寄ってあの刀を腕に抱いている。そうすればいつの間にか幽霊が消えるし、消えなかったとしてもそのまま戦えるからだ。少し変わった生活ではあるが命を狙ってくる事以外は基本的に小さい頃から変わり無いので、自分の中では普通の生活に分類されてしまった。いやはや、慣れというものは怖いものである。
そんな私は、現在剣道部の強い高校に推薦で入り、特に中学と変わり映え無い至って普通の学生生活を送っている。赤点というリスクが増えたが、これまでどうにか勉強してなんとかギリギリ免れている。部活については勿論剣道部だ、なんせその推薦で入ったのだから入るのは当然だろう。剣道で毎日毎日稽古に励んでいたが、3年という事もあり数ヶ月前に引退した。そして、今の季節は冬。
そう、受験シーズンである。
「うーん…」
もう受験まで3ヶ月を切っていた。それなのに未だに進路が決まっていないとはどういう事だ。周りは志望校を決めている者、既に内定を貰っている者ばかりだというのに。恐らくこの学校で決まっていないのはこの私だけでは無いだろうか?一応進学で考えてはいるのだが、何処に行くなどは全く決めていない。矢張り強みである剣道を続けるか、また別の人生を歩むべきか。うんうん悩みながら何も書かれていない真っ白な進路表を見ながら住宅街を歩く。やっぱ剣道続けようかなぁ、なんだか剣道の道を途絶えれば私の人生も途絶える気がするのだ。
「はぁ…」
真っ白な紙を乱雑に鞄に入れ、スタートダッシュを決める。今日も今日とて幽霊に追いかけられるのだ、きっと稽古を休めば腕が鈍って死んでしまうだろう。うん、剣道の強い大学を探そう。そう考えながら私はいつもの寂れた神社に足を向けるのであった。

「はー…シロ…シロさんや…あったあった」
特に足止めされる事も無く神社に辿り着き、本殿の裏側の隙間に置いてる刀を引っ張り出して腕に抱く。下の隙間から幽霊が来ていないか確認するが、未だに来ていないようで一息吐く。
シロというのはこの刀の名前だ。何度も使っていてはなんだか愛着が沸いたので勝手に私が付けたあだ名のようなものだ。ちなみに、由来というのは見た目の通り鞘が白色だからシロである。安直すぎるがそれ以外思いつかなかったので呼んでいたらいつの間にか定着した。
ピリッとした重苦しい雰囲気が肌を刺した。どうやら幽霊が私を追いかけてこちらまでやってきたらしい。再度隙間から確認すれば、先程追ってきた幽霊の足が見える。私の腕により磨きが掛かったのは良いとして、相手もそれは例外ではないようでめきめき強くなっている気がする。そもそも、幽霊も強くなっていくのだろうか?否、幽霊の事情なんざ知るよしも無いのだが、散々追われて散々殺されかけて何個か分かったことがある。
幽霊の種類は7つの見た目があり、持っている刀の大きさも違う事。目の光の色が3色ある事。その目の色によって強さが違う事。気配の消し方や戦い方が色によって違う事。最初に戦ったときの色は緑だった。緑の時は防具同士が当たる音やらで気配を消していてもすぐに分かった。高校1年の頃から青色に変わり、音で察知する事が少し困難となった。それでも耳を澄ましていれば多少は聞こえていた。数ヶ月前から赤色に変化した。この赤色が物凄く厄介で察知する事が難しくなった。少し空気が重苦しく感じたり空が異様な色をしている時に大体居るので用心して神社に向かっている。後は勘で今までなんとかなっていた。それに、赤色の幽霊は戦闘でも結構苦戦するのだ。前のように一太刀で成仏させる事が出来ない。剣道部としては悔しい限りだが、刀の扱い方を勉強している訳でも無いので仕方ないのは仕方ないかもしれない。部活も引退したしこの刀で素振りでもやる方が良いのだろうか。そうすれば少しでも振り上げるタイミングなど掴めるだろう。反動で竹刀の扱いが難しくなりそうだが。
敵は私の行動を読んでいたのか、本殿の両側から私を囲うように躍り出た。四足歩行が1人、落ち武者擬きが1人、長い帽子を被った鬼が1人、大きくて長い刀を持ったロン毛の鬼が1人、槍みたいな刀を持った鬼が1人、服を着たロン毛が1人。計6人が私の命を狩ろうとしてくる。全員が違う見た目をしている幽霊が攻めてくるのは、これは初めてのパターンではないだろうか?軒並み私より身長が高くて圧迫感を感じる。まずは足を崩してから連携を絶たねば、すばしっこい奴から狙うべきか、大きい刀を持つ鬼から狙うべきか。敵は考えてる暇は与えてくれず、一気に私に攻めてきた。
「う、わ…!」
身体を捻じってなんとか四足歩行の攻撃を避けたが、その先に大きい刀を持つロン毛の鬼が刀を横に薙ぐ。姿勢を屈めたお陰で頭のスレスレを刀が通った。危ない、本当危ない。恐らく少し髪が斬れただろう。その低姿勢のまま足をバッサリ斬れば、大きい刀の鬼は体勢を崩してその場に座り込んだ。少しでも連携を削ぐ事は出来るだろうか、体勢を立て直そうと足に力を入れ振り返った時、落ち武者擬きの刀が目の前まで迫っていた。