7.政府

「やはり、ここ10年ほど時間遡行軍が現世に降りている形跡があります」
「本当だ、このエリアに集中している。ここに何か歴史を改変するようなものがあるのか…?こんのすけ、調べてみてくれ」
「分かりました。」
時の政府現世襲来対策課の職員は忙しなく右往左往していた。現代で遡行軍が確認される事が稀なケースである上、約10年程気づかなかったという異例な事態であるからだ。その職員を護衛する刀剣もまた、職員の一歩後ろを歩いている。
この課は主に現代で観測された時間遡行軍を確認、討伐依頼を出す。確認は主にこんのすけという管狐型の式神に頼み、状況次第では職員直々に足を向けないといけない場合がある。そのケースは稀なものではあるのだが、無いとも言い切れない為護衛として職員1人に対して一振り特別に刀剣男士の所持を許可されている。緊急で動く場合もあるので常に顕現状態であるが故、この職場の人口密集度が高い。余談だが、刀剣を所持を許可されていない科もあるのだが、どの職場にも山姥切長義が必ず顕現されて働いている。
「大変です!大変です!」
「どうしたんだ、こんのすけ」
「女の子が!女子高校生が遡行軍に追われているようです!」
「何だと、それは本当か?場所は」
こんのすけの叫び声は社内に響き渡り、その場は一気に騒めき出す。人間が狙われているのであればこちらの職員がその場に向かうべき事柄であり、遡行軍の数によっては審神者にも討伐要請を出す必要がある。皆が皆、こんのすけの報告を聞く
「私が見てる間は動きは見られませんでした。ただ背後を着いて回ってるようですが、いつ動き出すか分かりません。
敵は阿津賀志山のボス編成、脇差、打刀、太刀、大太刀、槍、薙刀が各1、計6振りです」
「とりあえず職人の刀剣だけで討伐出来そうだな。第1課、出動してくれ」
「「「了解!」」」
第1課に割り振られてる職員が席を立ち、刀剣を引き連れて職場から足早に出て行く。この第1課は主に晴れの日の昼戦を担当しており、護衛している刀剣も主に太刀や大太刀といった火力の高い刀種が多い。ただ、機動力がどうしても落ちる為、第1課の人達は出来る限り急いでその場所に向かった。

職員達が遡行軍観測装置を確認しながら辿り着いた場所は、住宅街にひっそりと伸びる長い階段であった。恐らくこの先に時間遡行軍が虎視眈々と女子高生を狙っているのだろうか、はたまた既に襲撃されているのか、それともここを拠点にしているのか。
「反応はこっちからあるみたいだ」
「こんな所に階段が…」
「なんだか気味悪いですね」
「そんな事より早く行く、ぞ…」
「まずい!早く駆け登れ!」
階段前で職員が会話を続けていると、上から刀の打ち合う音がした。現代に生きる尊い命が散らされるなどあってはならない。階段を駆け上がるとそこは寂れた神社であった。ひっそりと佇む本殿の裏、そこに遡行軍が居るようで小さな本殿からその巨体はこちらから丸見えであった。刀剣男士に討伐の指示を出し、狙われ人質に取られる可能性がある為に職員は安全を考慮して階段付近で固まって待機した。

「えっ…?」
刀を振りかぶり背後を全く意識していない打刀を倒した先に、1人の少女が驚愕の表情でこちらを見つめていた。その手の中にある刀と、本殿の屋根でこちらを楽しそうに見つめている付喪神に見覚えがあった。
「鶴さん!?」
「よっ光坊か、久しいな!」
「え、何でここに、」
「それよりも良いのかい?後ろがガラ空きだぜ」
「分かってるよ!」
後ろから虎視眈々と狙って来ている遡行軍を一太刀で倒せば、どうやら他の刀剣達が遡行軍を倒していたようで戦闘が終了した。辺りを警戒しながらも刀を鞘に納め、本体である鶴丸国永を持つ彼女に向き直る。
「ねぇ君。大丈夫かい?」
「っ…」
「うーん、僕達は君を助けに来たんだけども…」
彼女は警戒しているのか、刀を納めている燭台切光忠含めた刀剣男士に刀を向ける。逃げようとしているのか戦おうとしているのか、ジリジリと後退していくのだが彼女は本殿に身体をぶつけそれ以上逃げる事が出来ない。
「君達を警戒しているなぁ」
「で、本霊様が何でここに居るんだい?」
「俺の本体が盗難にあってなぁ。ここに捨て置かれたのさ。」
「じゃあ、この子が犯人…?」
「みっちゃん戦闘終わった?…ん?」
「ああ、主。終わったよ」
遡行軍の殲滅を察知したようで刀の主である職員達が次々と本殿の裏に集まった。
「とりあえず、話を聞かせて貰おうか」