8.役人

刀を振りかぶった幽霊に咄嗟に目を瞑ってしまったが、いつまで経っても斬られる感覚は来る事が無く恐る恐る目を開ける。先程居た幽霊の場所には、眼帯を付け刀を持った長身のお兄さんが立っていた。先程の幽霊は私が目を瞑っていた一瞬で斬り殺されたのであろう。私が苦戦する幽霊にだ、それ以上に眼帯の彼は強い。きっと彼に狙われたものならば反応する間も無く殺されてしまう。どうしよう、私に倒せるだろうか?
「鶴さん!?」
「え、何でここに、」
「分かってるよ!」
眼帯の彼は本殿の屋根を見つめながら独り言を呟く。何だこの人、何か見えているのか?私が同じ所に視線を向けてもただの屋根で何も見える事は無く、再度彼に視線を向ければ既に刀は鞘に収められていた。辺りを見回すと気味の悪い見た目をした幽霊の姿は無く、代わりに人の姿をした人間が眼帯の彼を含め6人居た。その腰や背中には刀を拵えている。また新しい姿をした幽霊だろうか、どうする、どうすれば良い?敵か味方も分からない、眼帯の彼のように全員が強いのであれば正直言って私に勝機は無い、唯一勝ち残る方法は隙をついて逃げる策だろう。刀を構えてどうにか逃げられないか後ずさる。
「ねぇ君。大丈夫かい?」
「っ…」
「うーん、僕達は君を助けに来たんだけども…」
眼帯の彼が私に話しかけてきた。彼は既に帯刀しており、周囲の人も刀を抜く気配は感じられない。彼らは私が襲い掛かる可能性を考えていないのだろうか、それとも襲い掛かられたとしても何か策があるのか。どちらにしろ私を警戒する事は全く無い。きっと手練れだ、私に逃げる事が出来るのか、グルグルと負の感情が押し寄せ身体が思うように動かない。震える手を隠す為にもう一度刀を握り直せば、やれやれといった表情で眼帯の彼は私より上の方に視線を向けて独り言を呟いた。
「で、本霊様が何でここに居るんだい?」
「じゃあ、この子が犯人…?」
「みっちゃん戦闘終わった?…ん?」
「ああ、主。終わったよ」
他の人間も上の方に気を取られていたのを確認し、警戒しながらジリジリと左側に寄って逃げようとすればスーツを着こなした人がゾロゾロと顔を出す。周囲を見やって私に視線を向け一言こう私に告げた。
「とりあえず、話を聞かせて貰おうか」

まずは危害を加えるつもりは無いという事を説明され、状況を確認する為に本殿の正面に移動する。未だ警戒は解けていないが、とりあえず話を応じるために刀を鞘に収め、本殿の段差に腰掛けながら膝の上に刀を置く。政府役人と名乗る人物は周辺を囲い、また襲ってくる可能性がある幽霊に警戒をしながら話を進めた。
「その刀は何処で見つけたの?」
「この本殿の裏の隙間です」
「何故警察に届けなかったんだい?」
「…すいません、先程の幽霊に狙われていたので、隠してました。」
「成程、先程の幽霊と遭遇した事について細かく事情を聞きたいんだけど、今時間あるかな?」
「あ、はい。大丈夫です」
この場ではほんの軽い事情聴取をされたのみで、込み入った話は移動した先で聞くようだ。先程の眼帯の彼は私の周囲に視線をやりながら独り言―否、会話をしているのだろうか?を続けており、話に興味を無くした役人達がチラホラと先に階段の方に向かっており、そちらに向かうべく流れで腰を上げて刀を腕に抱く。
「じゃあ移動しようか。とりあえずその刀は預かるよ」
「大将待った」
「どうした薬研」
「そいつは彼女に持たせた方が良い」
「…うん、僕もそうした方が良いと思う」
「分かった、じゃあこちらに」
私よりも少し年下だろうか?そんな見た目をした声が凄い特徴的な男の子がスーツを着た男性の腕を掴む。いささか彼も、眼帯を付けてる彼も顔色が悪い。どうしたのだろうか?よく分からないがこの刀を所持しておく事は問題無いようなのでお言葉に甘えてその刀をギュッと胸に抱き階段下に止めてある車に移動した。