高校生の話2

白い神様視点
彼女が死に、俺も死んだ。
否、鶴丸国永が信仰される限り、付喪神としての身体はありいつも通り霊体として動けるのだが、あの時の戦で本体が折れてしまったのである。刀として生きてる鶴丸にとって、振る舞えないというのは死んだと同義であり、そう表現している。
彼女の亡骸を抱いて共に逝こうと考えたのだが、そもそも付喪神はあの世なんて無い。神隠しをしようにも一歩遅かったようで既に彼女の魂は遠い所に逝ってしまい、追いかける事など出来なかった。寂しい、寂しい。心の中心がぽっかりと穴が空いたような、退屈とはまた違うこの感情をどう落とし前を付けようかと神域で過ごしている。
彼女が生き、守った現世に降りる事は簡単であった。現存してない刀とは違い、折れてはいるが未だに刀は残っている。それでも現存に降りれないのは未練があるからだ。もしかしたら、彼女と出会った神社に行けば会えるかもしれないと、そう願って探し落胆するのは目に見えている。期待するだけ無駄であるし、これ以上心を消耗させたくない。
刀の在処は時の政府が回収したようで、その刀身を暗くて狭い刀箱に閉じ込められた。どうせなら、彼女と共に焼いてくれたら良かったのに。
俺の力を借りようと審神者の霊力が流れてくるのを感じるが、俺はその手を取らなかった。ずっと、ずっと長い時の間、もう俺は審神者に力を貸していない。

長い眠りから覚めた時であった。刀が折れてしまったせいか力の消耗が激しいようで、未だに眠気というのは取れない。
本来俺たちには眠りなど必要は無い。人間達の信仰により身体に活力が湧いてくるからだ。まあ、一部の刀剣は必要無いのに眠っている輩も居るのだが、それはこの機会では置いておこう。
どれ位経過したのだろうか、俺的にはもう100年単位で時間が経過しているように感じる。そろそろ、行ってみても良いだろうか。もしかしたら彼女の魂が何処かで降りて来てるかもしれない。覚えていないかもしれない、俺の事を見れないかもしれない。それでも構わなかった。ただ、彼女が遡行軍に追われず楽しく人生を謳歌しているだけで。

鶴丸国永は神域を出てまずは出会った神社に向かった。彼女が戦った証が本殿周辺に刀傷として残っており、それを愛おしそうにひとつひとつ撫でる。この周辺に居た時間遡行軍の気配はもう無い。狙う彼女が本丸に就任したからだろうか、或いは時代の変化で移動したのか。そもそも戦争は終わってるのだろうか。長く眠っていた鶴丸国永には確認する術も無いし、それよりも彼女を探す方が大事であった。
彼女が生前住んでいた家、学校、繁華街。鶴丸国永は捜索範囲を広げて彼女の魂を探した。
現世に来て気づいた事がある。本来ならば本体である刀より一定の場所までしか移動出来なかったのだが、今の彼は何処にでも制限なく自由自在に移動出来た。刀が折れた影響なのか何なのか理由は定かでないが、鶴丸にとっては嬉しい誤算であった。

鶴丸は捜索範囲を大幅に広げた。それでも彼女は見つかる事が無い。まだ生を受けてないのか、はたまた見落としがあるのか。
ある田舎の街を彷徨ってる時、何処からともなく厭な気配を感じた。この一帯は自然豊かなので、都会に比べたら比では無い程数多の妖怪が住み着いてる。勿論種類は様々だが、この八ツ原にはあまり人間に危害を加える妖怪は多くない。鶴丸が戦っていたのは時間遡行軍であるが、彼女が守ろうとした世界でもある。全ての人間を助けるというのは鶴丸にも無茶ではあるが、察知しているにも関わらず見て見ぬ振りは今の彼には出来なかった。刀身も無いのにどう戦えば良いというのだろうか、それでもそちらに足を向ける他選択肢は無かった。

「お前が気にかけていたあの女子、今夜辺りでも食われるかと思っていたが少し早かったな」
「何で言わなかったんだ先生!」
面妖なタヌキと会話する男子学生が鶴丸の前を走っている。最近のタヌキは会話も出来るのかと思ったが、どうやら依代に入った妖怪らしい。何処かで会ったことのある気配だと思い出そうと思考を巡らせながら目的は同じであろうしその1人と1匹に着いて行く。
「危ない!」
そう言って男が取り憑かれてるだろう女に突進する。依代から本来の姿に変えた獣の妖怪ー斑が取り憑いた妖怪を引き剥がそうと力を使う。妖怪は思わず女の体から飛び出し、鶴丸の方に突進してくる。
鶴丸国永の腰には、いつの間にか本体である刀が拵えていた。その刀で妖怪を一刀両断し、女の方に体を向ける。
女の魂に、覚えがあった。鶴丸が追い求めていた主の気配。
「あるじ、」
ああ、やっと見つけた、見つけた!鶴丸は触れもしない彼女の身体をかき抱いた