高校生の話3

※夏目貴志視点
小さい頃から時々変なものを見た。他の人には見えないらしいそれはおそらく、妖怪と呼ばれるものの類。
世分高校に通う俺は、気になっている事がある。
先日、同じ高校に通っている女の子が妖怪に取り憑かれたようで、食われる寸前に助けた。というよりも、俺では無くニャンコ先生と白い妖怪が、だ。その時はニャンコ先生しか居ないと思っていたのだが、いつの間にか俺の後ろから着いてきてたのであろう妖怪が刀でバッサリ斬っていたのだ。ニャンコ先生も予想外の事だったのか豆鉄砲でも食らったような妙な表情をしていた。
「なっ鶴丸か…?」
「あるじ、あるじ、主…!」
その白い妖怪は俺の隣で尻餅をついている彼女に飛びついた。彼女は見る能力も触れる能力も何も持ち合わせていないただの一般人なので彼の手は空を切ったのだが、それでも抱き締めるような動作をしていた。
それからというものの、彼女の周りに引っ付いては楽しそうに話しかける姿を目撃するようになった。俺と彼女は同じクラスでは無いので校内ですれ違った時にしか確認出来ていないのだが、推測するに常に一緒に行動しているらしい。
彼女の居る5組の授業は体育のようで、グラウンドで準備運動をしていた。窓際に座る俺にはその姿が見え、思わず彼女と妖怪を凝視する。妖怪は彼女の周囲を浮遊しながらグルグル回っており、時折共に走ったり応援したり楽しんでいる。彼の浮かべる笑みはとても輝いており、彼女の事が好きなのだろうと一目見て分かった。
「夏目、おい夏目」
「うわぁ!」
「どうした夏目ーボーッとしてないでこの問題解けー」
全く授業を聞いていない俺は答えられるはずもなく、ただただ小さく分からないと答えるしか無かった

「主、あーるじ」
「はは、良いなぁ人間と楽しそうで!」
「きみに俺が見えたら話せるのになぁ」
「おっ主ハンカチ落ちたぞ」
「あるじー!気付けー!」
廊下で友人達と屯していると、ふとそんな声が聞こえた。声の主はあの白い妖怪で、彼女は落としたハンカチに気付く事なくスタスタと歩き、妖怪はハンカチを拾い上げようとしている。彼は物が持てないのだろうかその手はハンカチをすり抜けており、見かねた俺はその妖怪に近づいた
「俺が持ってくよ」
「おや、俺が見えるのかい?また面白い人間が居たもんだ」
「はは…あ、あの、ハンカチ落としたぞ」
「え?あ、ありがとう夏目君」
彼女から立ち去る時に見た付喪神の顔は、感情を削ぎ落としたような表情ですこしゾッとした。

帰路に着いてる時、塀の上を歩いているニャンコ先生が居た。そのまま腕に先生を抱いて帰り道をのんびり歩いていた。
「おい夏目、鶴丸…白い妖が憑いてる女子には近づくな」
「え、どうしてだ?」
「あれは駄目だ、この私でも勝てるかどうか…」
「あの鶴丸?って奴、悪い奴には見えなかったけど」
「あの女子に対しての執着が凄まじいのだ。あれは時間の問題かもしれんぞ」
そう言って先生は酒を飲んでくると俺の腕から飛び出して何処かに行ってしまった。俺は先生を追いかける訳でもなく、ただあの冷えた目を思い出しては少し身震いした。

「なあきみ、俺が見えるんだろう?」
「っ…!」
「ああ、学校では喋れんか。昼休みに校庭に来てくれ」
ニャンコ先生から釘を刺された次の日の事であった。朝、教室に入って鞄から教科書を出している時に鶴丸から俺に接触してきた。あまり関わるなと言われていたのに頭が痛い。まあ、先生の言い方を考えるに恐らく彼女に関わらなければ問題無いのだろう。
昼休み、俺は鶴丸の言われる通り校庭に来た。彼は既に来ていたようで、木の上から俺を驚かしてくる。
「…で、何の用だ?」
「あの娘に、この刀を渡してくれないか」
「え、か、刀…!?」
「嗚呼」
彼は何処から取り出したのか、先程まで持って無かった刀を俺に渡してきた。それを受け取ってはズシリとした重さが両腕に掛かり、偽物でない事を物語っている。
「いや、今は無理だ!」
「何でだ?」
「今からまだ授業があるし目立つだろ!」
「あー、成る程な。じゃあ授業が終わればまた渡しに来る。勝手に帰るんじゃないぞ!」
本当、妖怪というのはなんて勝手なんだろうか。その場から消えるように去った鶴丸を確認して教室に戻った。

放課後になった。彼の言う事が本当であれば俺に刀を渡しに来る筈なのだが、その姿は見せない。5組の方はまだ授業が終わってないのだろうか?ふと校門を見たら目立つ真っ白な妖怪が見えてそちらに足を向けた
「お、こっちだ夏目」
「はぁ…そういや、彼女は何処に居るんだ?」
「嗚呼、今日は部活が無いようで先刻帰った」
「帰った!?今何処に?」
「こっちだ」
俺を導くように先に移動する鶴丸の後ろを走って追いかける。彼女はすぐそこに居たようで1人で帰っていた。
「あ、の!」
「はい?あ、夏目君」
「今、ちょっと時間ある?」
「ナンパですか?お断りしてます」
「あっはっは!さすが主だ!」
なんとか彼女を言いくるめ、神社の方が縁があるので見やすくなるかもしれないと鶴丸からのアドバイスにより近くの神社に来た。階段に座ってから鶴丸に刀を預かってそれを彼女に渡せば、驚愕した表情でそれを受け取り腕に抱き込んだ。
「シロ…!」
突如、周囲の空気が変わり、どこからともなくぶわりと風が吹いた。
「嗚呼そうさ、君だけのシロだ、主!」
嗚呼、彼女にも彼の姿が見えるのだろう。合わさる事の無かった瞳がかち合うのを確認し、俺はそのままその場を去った。