出陣の話

「さて、お話も一段落付いた事ですし出陣しましょうか」
「分かりました」
「じゃあゲート前行きましょう!」
さあさあ、と言いながら前足を上げるこんのすけを抱き上げてゲート前に向かう。シロさんはタブレットの方が気になるのかずっと座って画面が真っ暗なそれを触っていたので彼の襟元を引っ掴んで立たせる。名残惜しそうに部屋をチラチラ見るシロさんに「後で触らせてあげるから」と言えば機嫌は一変して出陣だと足取り軽く玄関まで向かった。
「あれ、あの機械」
「ええ!瞬時に設置されますよ!」
「ええええ!!!凄い!!!こりゃ驚きだ!!!どうなってんだ!?!?」
「シロさん落ち着いて」
先程選択したゲート前に設置した機械にバッタバッタ足音を鳴らして走って行った。その機械を色んな角度から観察しては目を輝かせて色々と弄っている。
「何だ何だ!これはどうするんだ!?おお!回ったぞ!」
「待って待って、こんのすけの説明をまず聞こう」
「I丸様は説明書を見ずに勝手に触るタイプですからね。予想はしていました」
「よく知っているな!」
シロさんをなんとか機械から引き剥がしてこんのすけの説明を聞く。時代と地域を決めるつまみを回して掌を規定の場所に乗せる事で出陣が決定されるタイプと、画面のタッチパネルで選択してから同じように掌を乗せて決定するタイプと2種類に分けられているようだ。出鱈目に選択しても出陣はされないようになっているらしい。つまみを回すタイプは歴史が出来るか出来ないかで分けられるようだ。

主様の腕に抱かれながら、ふと疑問に思っていた事を口にする。
「そういえば、主様の初期刀はI丸様なのですね」
「そうみたいだね、こういう事例は初めてだって言われた」
「ん?いえ、初めてでは御座いませんよ。稀な事では御座いますが、いわゆる”初期刀枠”でない刀剣を初期刀として連れてる審神者様もいらっしゃいました」
ほんの稀ではあったが、初期刀枠では無い刀を初期刀として選択した事例はあった。保護を目的とした小児を就任させる為に統計的に育児が得意である刀を初期刀にした事もあれば、劣悪な環境の本丸から現世に逃げ出した刀をそのまま保護を名目に引き取った審神者、霊力の具合で打刀を顕現出来ない審神者、引き継ぎで初期刀を貰えない審神者も居た。どういう理由があったのかは知らないが、何が初めての事例なのかは検討が付かない。後ほど政府に確認しに行こうとインプットする。
「あ、そうなんだ?じゃあ何が初めての事例なんだろう」
「ああ、それは俺が本体だからじゃないか?」
「本体?」
「ほほほほっほ本体!?!?!?じゃ、じゃあ本霊様ですか!?!?!?えぇぇぇえええ!!!!?」
「あっはっは!!!きみも面白い反応をするなぁこんのすけ!」
まさかの、まさかの本霊様であったとは。確かに本霊様が本丸に就任するというのは確かに初めての事例だ。本霊様が刀剣男士をするという異例の事態すぎて今まで歴戦の審神者達が作り上げてきたマニュアルがはたして何処まで効くのであろうか。何でこんな重要な事をこんのすけに事前に話さないのですか時の政府は!1番大事な事でしょう!
「とりあえず出陣だよね?シロさん刀貸して」
「ほいよ」
「ま、待って下さい主様!」
「なあに?」
「顕現した刀剣男士を出陣させるのですよ!主様が出陣する訳ではございません!」
「あ、そうなの?じゃあシロさん宜しく」
「ちぇー主に振るって貰えるのかと期待したんだが」
何だかこの主様、ちょっと抜けている気がする。至って普通に出陣しようとする主様を止めながらI丸様に出陣して貰った。
「出陣の進行具合はタブレットやパソコン、こちらの機械の画面部分でも見れます。」
「へー凄い」
「行軍を決行するか帰城するかは主様も選択出来ますが、基本的には刀剣男士の方が決めてます」
「じゃあ完全自動って感じなんだね」
「そんな感じです」
ゲート前の機械で進行状況を確認していれば、I丸様は早い事にもう本陣に辿り着いていた。さすが本霊というべきなのだろうか、分霊であるI丸国永よりもいささか機動が速いように見える。きっと力を分け与えている分霊よりも強いであろう、後で刀帳からステータスを確認しておく事をインプットしていれば、ゲートが開いた
「帰ったぜー」
「おかえりー」
帰ってきた鶴丸国永を観察する。本来初めての出陣時は、中傷まで追い込まれ真剣必殺を出すようにシステム化されているのだが、まあなんと言えば良いのか、本霊であるI丸国永はそのシステムさえも易々と切り抜けて無傷で帰ってきた。そこで手入れ部屋を使って刀を直し、手伝い札の使い方を説明するのだが必要は無いみたいだ。手伝い札は後ほどの鍛刀で説明するとして、どの道いつか体験するだろうしとりあえず口頭だけで手入れ部屋などの説明をしながら鍛刀部屋に向かった。