鶴丸国永の話

政府視点ーーー
100年以上という長い時の間、時間遡行軍に抗い続けていた。
本霊である刀の付喪神にどうにか話を聞いてもらい、人間の為に力をお貸し下さってやっと遡行軍に対抗出来るようになった。昔の役人の努力の賜物である。その勢力も本霊に交渉してはとりあえずお試し期間として限定的にイベントを開催して本丸でどう馴染めているかを確認し、特に問題無さそうで本霊からもGOサインがあればそのまま本実装という形を取っている。勿論戦うのは分霊だ。
分霊というのは、本霊である刀剣の分身のようなものである。分霊が例え傷つき戦場で折れたとしても、本霊が残っているのであれば何度も顕現が出来る。そもそも、現存していない刀も顕現しているのだから人間の思う気持ちでどうとはなると思っているのだが、それは神域で形取ってるであろう刀だからだ、さすがに本丸に就任した刀については未知数の事であった。
数ヶ月前に本丸で過ごすようになった鶴丸国永についての話をしようと思う。
彼は約10年程前に展示していた美術館から盗難された刀である。余談であるが、努力の甲斐あってやっと犯人を捕まえる事が出来たのだが、その話は置いておく。その後寂れた神社に隠すように放置され、白鶴という審神者に現世で拾われたのだ。ただそれだけなら着いて行く事も無かったのだろうが、なんせ彼女はあの鶴丸国永を振るい時間遡行軍を倒したと言うではないか。統計的に戦闘好きな彼は刀を振るわれた事がさぞ嬉しかったのか彼女に懐いたようで、無理にでも引き離そうとするならば危険だという刀剣男士の見解により、初期刀として本丸に就任して貰った。
元々盗難されたせいで霊力の均衡が若干崩れてしまったのか、ここ10年程前から鶴丸国永の鍛刀・合戦場で見つかる数が徐々に減っていき、刀剣男士として就任した数ヶ月では新人が見ても分かる程には激減したのだ。
元々希少価値の高い刀であり、巷でいうレア太刀という部類に入る刀であった。いわゆる難民製造機というもので初期のの方は出た人間は優れていると演練で見せびらかしては色々一悶着あったようで、それは数は減っているものの未だに絶えることは無い。その鶴丸国永が、本丸に就任した途端に報告される数があからさまに減ったのである。
合戦場で見つかる事は度々あるようで、この数ヶ月でも報告が上がっているしそんなに問題は無いだろう。ただ、鍛刀の方が全く報告が上がらなくなったのだ。
鍛刀というのは、審神者の霊力に惹きつけられた本霊が分霊を作り出し、その本丸に送り出す仕組みである。惹きつけられる刀は完全にランダムだ、ただ神域に居た本霊がその本丸の近くに居ただとか、興味本位で行ってみるだとか聞いた事がある。その真意は自分が本霊に聞いた事ではないので定かでは無いのだが。
ちなみに、合戦場で見つかる刀剣男士というのは事前に合戦場に赴いてる分霊であるらしい。それも本霊の意識下で降ろしているらしいので還ってきた感覚はあれど降りていった感覚は無いとかなんとか。詳細については割愛する。
本霊が就任した事もあり、何か違和感や問題が無いからここ数ヶ月で合戦場から見つかった鶴丸国永とコンタクトをなんとか取らせて貰っているのだが、その記憶保持は盗難被害にあった頃までであってそれ以降の10年位までの記憶は全く所有していないときた。これは不味いのでは無いだろうか。
結論を言えばこの10年程、推測するにあの審神者と現世で出会ってから分霊が降りてきていないのだ、となればそれまでに降りてきた鶴丸国永という限りのある数しか合戦場に居ないのである。幸いレア太刀なので見つかる数は元々少ない為か、未だに審神者内では話題になっていない。それでも近い将来顕現数が0になるのは目に見えているし、気づかれるのも時間の問題な気がしてならない。否、恐らく既に一部の刀剣男士には気づかれているだろう、なんせ口止めする前に白鶴という審神者は演練に赴いたのだ。あの、鶴丸国永を、引き連れて。
これからもっと大忙しになるだろう、役人達は気が遠くなりながら鶴丸国永についての報告書を書き上げた。