万屋の話2

「おお、おお!凄い!凄いな主!人がいっぱいだ!あ、何だあれは!?」
「シロさん待って、ちょっと、迷子になるでしょうが待ってってば!」
長い刃生を生きてはいるものの、このような所には来た事が無い!刀剣男士も審神者も多くて華やかだ!それに、今まで霊体だった故にただ見ていただけだったのに、今では身体を持つ事が出来て行きたい所に行ける上自分自身が体験出来ると来た!あれもこれもと人の間を縫って進んでは気になる店の商品をざっと目視で確認する。これは髪飾りだろうか?主に似合いそうだ、ああこれも主に似合いそうだ、小瓶に入っている赤い液体は爪紅だろうか?爪紅にも色々な種類があるのだなぁ、こりゃ驚いた!だが彼女は爪紅を塗るような性格でも無いだろう。手に持っていた白い色をした液体の小瓶を棚に戻し、次の店へと移動する。ふと目についた帽子店に入ってみれば、その目の前の台車には赤い文字で「せえる」と書かれた紙と共に何種類かの帽子や被り物が入っていた。せえるという意味がよく分からないが、とりあえず目についた1番手前にある被り物を掴む。
「主!見てくれこれ、馬の顔がある、ぞ…主?」
馬の顔をした被り物を主に見せびらかそうと後ろを振り返ってみれば、そこに居たと思っていた主は居なかった。周囲を確認しても主の姿は無く、俺は1人取り残されてしまった。
「全く主は、こりゃ迷子か?仕方無いなぁ」
そう呟く鶴丸国永であったが、明らかに迷子なのは鶴丸の方であった。

「主ー、あるじー!何処行ったんだー!」
この人間や刀剣男士が集う道を歩いてはあの愛しい愛しい主を探す。ここ一帯には居ないのだろうか声を上げて呼んでみても全く姿を見せる事は無い。霊力の繋がりで探そうとしたのだが、この場には色々な霊力が入り混じって逆に少し酔ってしまったので断念し目視だけで確認していく。せめて審神者や刀剣男士が居ない所であればすぐに察知出来るだろうが、こうも広い土地で何処に居るか検討も付かない所に居られると探しようがない。新しい場所であれば尚更だ。
「あるじー」
人間1人位なら入れそうな小道や屋根、店に置かれてる蓋のある土鍋の中を探しても主の姿が見つかる事は無い。全く何処に行ったのであろうか、並んでいる店が変わって茶寮街の所まで歩いては見目新しい食べ物に目が惹きつけられる。何だこのくれえぷ、というものは。宝石のように赤い苺や白と黒の何かと皮のようなもので包まれている。なんだか良い香りがするし主に強請って…嗚呼、今は主を探しているのだった。
「うーん、どうしたもんかねぇ」
先程からすれ違う付喪神が俺を見ては足を止める。審神者の手を引いて脱兎の如く逃げ出す輩も居るもんだ、全く失礼だとは思わないか。嗚呼、そういやここに居る付喪神は分霊だったな。その影響だろうか、主の目撃情報を聞こうとしてもその前に逃げられてしまうので全く情報が集まらない。
「…あれは、」
俺は大急ぎでそちらに足を運んだ

へし切長谷部視点ーーー
今日も今日とて主の役に立てるよう近侍として隣に立つ。
欲しい資源があると言って万屋までの護衛を任命して下さった。荷物持ちは任せて下さい主。隣を歩きながら主を狙う不届者が居ないか警戒しながら歩いてる時だった。
「あれ、迷子?どうしたのこんな所で1人?」
「えっと…シロを探してまして」
「シロ?」
主が目の前で辺りを見回していた女子に話しかけた。主はお優しい殿方だ、わざわざ手を焼かないでも良いだろうに。この長谷部、感銘を受けました…!その女子には護衛の刀剣男士は周囲に居ないようで、その刀剣男士を探しているのだろう。シロというのはあだ名か?それにしてもこの女子、厭な気配がする。
「あっ鶴丸国永です。全身真っ白の神様」
「あー成る程。鶴丸は好奇心旺盛だから迷子になりやすいんだよなぁ…」
「はい。今実感しました。」
「探すの手伝うよ」
「あるじ、」
根拠は無いが関わっては駄目だと俺の危機感が警告を出す。それでも主はその女子と話を進めており、もう引き返す訳にもいかなそうな雰囲気でこの違和感の正体を突き止めるべく女子を凝視する。
「主」
「あ、シロ!もう何処に行ってたの!?探したんだよ」
「いやあすまんすまん」
「見つかった?良かったよ」
「ありがとうございます、助かりました」
「いや僕は何も、」
「行くぞ主」
「ちょい待って」
何も感情が乗ってない言葉にぞくりとした。俺の背後から来たであろうその刀剣男士は何も気配を感じなかった、その場に支配する厭な空気、否殺気が立ち込め思わず刀に手を掛ける。その男士を視界に入れて気が付いた。俺は一生掛かっても勝てることは無いと。
なんせ、その刀剣男士は本霊だからだ。敵うはず無いのである。厭な気配はこれかと合点がいき、何も気づいていない主の後ろをただ着いていった。