図書室に戻って来た。
「やはり、無い。」
世界地図も、有史以来もどの本を探しても横浜の地は無かった。
「貴方、本当にそこから来たんですか?嘘をついてるんじゃないでしょうね?」
「ぶっ潰すぞ」
失礼なヤツだ、私は嘘なんか吐いて居ないのに。少し殺気混じりで返事をすれば、学園長が少し狼狽えた。
「こ、こうなってくると貴方が何らかのトラブルで別の惑星…あるいは異世界から招集された可能性が出てきましたね。」
「異世界…」
「貴方、ここへ来るときに持っていたものなどは?」
衣服…あれ、レオナ様を追いかけたラフな格好からここに来た時の衣服に戻っている。ああ、妙に視界が半分しか無いと思っていたのはフードを被っていたからか。それにしても、衣装チェンジだなんてどういう事だろうか?
「見るからに手ぶらですけど。」
折り畳み式ナイフや忍びナイフ、自動式拳銃、毒針。見えない所に隠していた武器を全て取り出してみる。
「財布や通信機器はありません。」
「そ、それは…?い、いえいえ!何でもありません。それにしても困りましたね。魔法を使えない者をこの学園に置いておく訳にはいかない。」
ナイフを少しチラつかせる。
「し、しかし!保護者に連絡もつかない無一文の若者を放り出すには教育者として非常に胸が痛みます。私優しいので。」
いや、今のは優しさではなく私の脅しで考えを改めたのでは?
「う〜ん。そうだ!学園内に今は使われていない建物があります。」
「はあ」
「昔、寮として使われていた建物なので掃除すれば寝泊まり位は出来る筈です。そこであれば、しばらく宿として貸し出して差し上げましょう!」
「どうも」
「その間に貴方が元いた場所に帰れる方法を探るのです。あ〜なんて優しいんでしょう、私!教育者の鏡ですね。」
少なくともあの狸のように外へ放り出される事は無いようだ。
キングスカラー一族に居た時よりこちらの方が確実に探せる機会が増えそうだ。
「では善は急げです。寮へ向かいましょう。少し古いですが、趣のある建物ですよ。」
使われてない、掃除すれば寝泊まり”位”は出来る、趣のある建物…
あ、嫌な予感。
場所は移動し、その建物の外。
「きったな…」
「さあ中へどうぞ。」
埃が被ってキラキラ輝き、椅子や机はなぎ倒され、蜘蛛の巣が所構わず張り巡らされ…部屋の中は荒れに荒れていた。
野宿よりかはマシかと思われるが、正直言ってどちらも然程変わらない気がする。風が無い分こちらの方が…?いや…うーん。
「ここであればとりあえず雨風は凌げるはずです。私は調べ物に戻りますので適当に過ごしていてください。学園内はウロウロしないように!では!」
「…掃除しよ」
寝る…いや座る為にもまずは掃除しないと。座れば衣服に埃が付着する程にとても汚いのだ。部屋の中を物色し、箒を見つけて掃く。
上の方から塵を落としていきたいが、いかんせん私の身長は女性の平均である。天井から落ちてきそうだがまずは届く範囲だけでもやっていこう。
「…ん?雨だ」
「ぎえー!急にひでえ雨だゾ!」
「ん?」
先程聞いた声がまた聞こえたので、私は部屋から出て廊下を覗いてみた。
ぼんやり2つの青い炎。あれは多分…狸の耳だろうか。その炎は明かりのついているこの部屋まで近づいて来ている。
「ちょっと外に放り出したくらいで、オレ様が入学を諦めると思ったら大間違いなんだゾ!」
「警備員さーん狸がここにいまーす」
もっかい放り投げてやろう。濡れ毛玉をこんな部屋に置いてたら埃が地面に引っ付いてしまう。
「こここここらー!!!オマエ!ちょっとオレ様の事情を聞いてやろうとかそういうの無いんか!?」
「いや別に。」
「ニンゲンの風上にもおけないヤローだゾ!」
「放り投げるぞ」
「話くらい聞くんだゾ!な!?な!?」
「…どうして学校に入りたいの」
あまりにも必死な様子だったので、とりあえず話位は振ってやる事にした。
「単純な話なんだゾ!オレ様が大魔法士になるべくして生を受けた天才だからなんだゾ!」
あんま真剣に取り合って聞くものでもなさそうだ、掃除しよ。
「に”ゃッ!つめてっ!天井から雨漏りしてやがるんだゾ!」
「え?ああほんとだ」
「ふぎゃっ!また水が降ってきた!オレ様のチャームポイントの耳の炎が消えちまう〜!」
「何カ所雨漏りしてるんだろう。」
バケツを取りに行かないと、床が腐ってしまう。そこから虫でも沸いてしまったら大変だ、バケツは何処にあるのだろう?
「こんな雨漏り、魔法でパパーっと直しちまえばいいんだゾ。…って、オマエ魔法使えねえのか。ププーッ!使えねえヤツだゾ!」
こいつ三枚下ろしにして食ってやろうか。
とりあえず三枚下ろしにするのは後だ、バケツを探しに明かりの灯っていない廊下に出た。
歩けば床がギイギイ音を鳴らす。相当ボロい寮だな、台風が直撃したらひとたまりも無いのではないか?ツカツカ足を進めてバケツを探していると、前から3体浮いている霊が居た。
「おや」
「ひひひひひ…イッヒヒヒヒ…」
「何だこいつら」
騒いでる霊の声を聞いたのだろうか、グリムが私の所まで来た。
「何を大騒ぎしてん…ギャーーーーーーー!!!おおお、お化けええええええ!!!!!」
「ここに住んでた奴らは俺達を怖がってみーんな出ていっちまった。」
「俺たちずっと新しいゴースト仲間を探してたんだ。お前さん、どうだい?」
うーん、今まで私が手を掛けてきた人間の魂が現世に残っているなら、ここは大賑わいになるんじゃないか?知らないけど。
「うううっ、ううーーーっ!大魔法士グリム様はお化けなんか怖くないんだゾ!ふんな”〜〜〜っ!!!」
青い炎が幽霊を攻撃する。かと思いきや、全くの的外れな方に伸びる炎は、幽霊にかすりもしない。
「ああ、火を出す時、目を閉じてるのか。そりゃ当たらない訳だ」
「うるせーっ!オレ様に指図するんじゃねーんだゾ!」
「うーん。追い払ったら学園長もここに置いてくれるんじゃない?」
その前に三枚下ろしにされる未来の方が先であろが。
「オマエら、たくさんいて卑怯だゾ〜!」
「はぁ…私が合図してあげるから、その通りに炎出して。左!」
「あっ当たった。」
クソチョロいし、意外に使えるなこの狸。