「ふな”〜〜〜ッ!!!」
グリムが叫ぶと勢い良く出る炎。幽霊達は叫びながら尻尾を巻いて逃げた。
「あ、あれ?勝っ…た?ハヒ、ヒィ…こ、怖かっ…いや、ぜんぜん怖くなかったんだゾ!」
さっきまで泣きべそかいてた癖に、何を言っているんだか。
コツ、コツ。第三者の足音が聞こえ、思わず戦闘態勢に入る。
「こんばんは〜優しい私が夕食をお持ちしましたよ。」
ああ何だ、学園長か。反射的に喉元を掻き切るところだった。いやあ危ない危ない。
学園長はグリムを見て吠えていた。
「フン!オレ様がお化け退治してやったんだゾ!感謝しろ!」
「あんただけの手柄じゃない」
「ん?どういう事です?」
私が指示をし、グリムの炎で3体の幽霊を退治した事を説明した。
「そういえば、この寮には悪戯好きのゴーストが住み着き、生徒たちが寄りつかなくなって無人寮になっていたのを忘れていました。しかし、ふぅむ…」
取り付けてもいない約束のツナ缶を寄越せとグリムが1人でキャンキャン吠えているのを無視し、何か考えている学園長の顔をじっと見つめる。
「ゴースト退治、もう1度見せて貰えます?」
「は?幽霊は全員倒しましたが」
「ゴースト役は私がします。私に勝てたらツナ缶を差し上げましょう。私、優しいので。では変身薬をごっくん!」
変な仮面とハットはそのままに、ふよふよ浮く幽霊に変身した学園長。グリムは面倒くさいとぶー垂れているので、ツナ缶をちらつかせば漸くやる気を出した。
「なんと…まさかモンスターを従わせることが出来る人がいるなんて。ふぅむ…実は入学式騒動の時から私の教育者のカンが言っているんですよねぇ。ナマエさんには調教師や猛獣使い的な素質があるのではないか、と。」
なんだその勘。しかも嫌にざっくりすぎる素質だな。まあ否定はしないが。
魔法の無い私は、どうしてもこの場所から浮いてしまう。ならばその素質とやらを利用してこの狸の調教師としてこの学校内を動きやすくすれば良いのでは無いだろうか。
「このたぬ…グリムも一緒にここに置いてやる事は出来ませんか?」
「なんですって?モンスターを?」
「オマエ…」
この狸に借りを作ってやるのも悪くは無い。これで上手くいけば勝手に取り付けられたツナ缶も免除出来るし色々都合が良い。
「仕方ありませんね。いいでしょう。しかし、闇の鏡に選ばれなかった…しかもモンスターの入学を許可する訳にはいきません。」
よし、上手くいったようだ。
「ナマエさんについても、元の世界へ戻るまでただ居候をさせるわけにはいかない。貴方の魂を呼び寄せてしまったことに関しては闇の鏡を所有する学園に責任の一端はある。」
勝手に連れてきたのはそっちだ、責任しか無いだろう。何で私にも責任被せてんだ。
「当面の宿についてはここを無料でご提供します。ですが、衣食住については自分で支払っていただかなければなりません。手ぶらの貴方が差し出せるものと言ったら…ふふ、そうだ。こうしましょう。」
まあ暗殺道具はそのまま残っているので、実際は手ぶらでは無いのだが。学園側からしても別に必要の無いものだろうし、遠慮したのだろうか。
「学内整備などの雑用をこなしてもらいます。掃除の腕はなかなかのようですしひとまず2人1組で雑用係はいかがです?そうすれば特別に学内に滞在することを許可して差し上げます。」
「元の世界に帰る為の情報集めや学習のために図書館の利用も許可しましょう。」
「へえ、それは良い。」
雑用の内容にもよるだろうが、案外破格の対応ではないだろうか?雑用として生徒よりもあちこち動き回れるし怪しまれない。
…こうなるならこの狸を学園に置いておく事を言わなくても良かったのでは?こいつの性格的にすぐにばっくれそうだし、損得勘定で計算すれば確実に損だ。
「ただし、仕事が終わってから、ですよ。」
「はいはい」
生徒になりたいと苦言を申すグリムに、外に放り投げると学園長。いいぞ学園長、もっと言え。
「ふな”っ!?わ、わかった!やればいいんだろ、やれば!」
チッ…
「分かりました。」
「明日からナイトレイブンカレッジの雑用係として励むように!」
さっさとこの学園からおさらば出来ますように。
朝。
「お前さんたち、今日は学園の掃除をしないといけないんじゃなかったっけ?」
ゴーストの言葉で目が覚めた。最悪な目覚めである。昨日奴らを追い出した筈だったのに、凝りもせずに戻って来てしまったようだ。グリムを起こせばこのモンスター、朝から元気なようで炎を幽霊達にお見舞いしてる。かく言う私は身支度をしていた。
元の衣服には顔の半分をスッポリ覆うフードが着いている。暗殺時代に顔を見られないようにする為の名残で被る。
「おはようございます、2人とも。よく眠れましたか?」
寝転べば底の抜けたベット、目覚めのゴースト。不満を学園長にぶつけるグリムを無視して学園長とちょっとした会話をする。
「本日のお仕事についてお話があります。」
寝室から談話室に移動する。
「今日のお仕事は学園内の清掃です。と言っても学園内は広い。魔法無しで全てを掃除し終える事は無理でしょう。ですので、本日は正面から図書館までのメインストリートの清掃をお願いします。」
グリムをしっかり見張れと釘を刺され、やる気の無い返事をすれば彼は帰って行った。
魔法を使いたいと言うグリムを放置し、私は学校に向かった。