ーーー何で俺は第二王子なんだ?

ーーー何で数年遅く生まれただけでこんな目に遭う?

ーーー第一王子を称えるための口実にされ、誰も褒めてくれる人は居ない。

ーーーだれか、だれか…

ーーー俺の事も、ちゃんと見て

………

……



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「ん…?こ、こは…」
目を覚まし、腹筋を利用して上半身を起き上げる。目が悪くなりそうな程燦々と太陽の光が入り込んで思わず目を覆い、眩しさに慣れるのを待った。
幼い子供の悲痛な叫びが遠くの方で聞こえたような気がしたが、ある程度慣れた目で周囲を確認するとこの場には自分1人しか居なかった。
いや、それだけでは無い。先程居た人気の少ない夜の街では無かったのだ。朝まで寝ぼけて居たという訳では無い、この場所自体が違う。
元の世界は高層ビルが建っているので周囲を見ても建物ばかり、大多数の人間は行き交い、地面はコンクリートで敷き詰められていたが、ここはどうだ?辺り一帯は開けており、砂に囲まれている。どこを見ても、だ。
砂を掬い上げると、サラサラと手中からこぼれ落ちた。あまりにリアルな感触に、夢の中では無いのだと思い知らされる。
まるで砂漠地帯のようだ。自分はそういった場所には行った事が無く、知識しか無かったが本当に何も無いとは。服に付着した砂を立ち上がりながらパタパタはらう。
「異能力ーW聖者の行進W」
シン…何も起こる事は無い。
私の生きて居た世界では、”異能力”という一般人には持ち得ない異質な力があった。何の力を持たぬ普通の人達には都市伝説として扱われており、表沙汰には公表されていない隠された力。
重力を操って他者や自分を浮かせたり、数秒先の未来が見えたりー簡単に言えば超能力である。
私の異能力W聖者の行進Wは、自分自身や身に付けている物を瞬時に他の場所に転移する事が出来る。例えるなら、手に持っているナイフを目先の相手の喉元に一瞬で突きつける事が可能だ。
ただ、移動したい場所を具体的に把握しなければ発動せず、海や山といったざっくりとした所ならば国すらも超えて飛ばされる可能性もあるのが玉に瑕だが、扱いが慣れたらこれ程楽なものは無い異能力だ。
それが発動しないとなると、この場所と元の世界が繋がっていない、もしくは異能力が使えない状況下、という訳だ。
考えられるなら後者だ。何故か?ここに来る前、私が狙っていた人物に問題がある。
首領が排除しろといったその人物は、異能力者である。
その人物の異能力は、異能自体を人の身から分離させて結晶化させる。
自分の体から異能が離れてしまえば使えない上、結晶が擬人化して持ち主を殺すという習性がある。
つまり、私は意識を失う前にまんまと敵の罠に嵌って異能に殺され、異能力が戻って来ないままこの場に降り立った可能性があるのだ。
死んだ人間は蘇らない。もし死んでいた場合、私が元の世界に戻れる可能性は、無い。
ただ、まだ私が死んだと断言出来る判断材料も無い。もしかしたら私を呼んだ仲間の手によって助けられているかもしれないし、間一髪生きていたならば戻れるかもしれない。
1つ言うなら、この砂漠で死んでしまえばそれこそ元の世界に戻れないという事だけだ。
さて、異能力を持たぬただの小娘に何が出来るのやら。
ジリジリ照りつける太陽と、その熱を吸って熱くなる地面に、干上がる前に何処か行かないといけないと私は何も見えない砂漠を彷徨う事となった。