昼。
妙齢の使用人と比較的若い使用人2人と共に廊下の掃除を受け持っていた。一族が食事に行ってる間にさっさと砂埃や塵を片付けてしまおうという魂胆である。
「レオナ様、魔法史の筆記試験で1位を取ったらしいわ」
「まあ。そう。でも、彼のユニーク魔法って…あんなの使いこなせても…ねぇ?」
「聞かれたらどうするの…!」
「今はお食事中よ。居ないわよこんな所。ほんと、何でも砂に変えてしまうユニーク魔法だなんて皮肉も良い所よねぇ?」
「は、はぁ…」
ここの使用人は他者の評価を落として噂を流すような、女性らしい使用人が多い。妙齢の使用人が特にそうであり、何故かレオナ様に対しての当たりが強いように窺える。雇い主の息子だと言うのに、何故そこまで言えるのだろうか?聞かれたらたまったものではないし、良くて解雇、悪くて処刑されるだろうに。
…そこまで酷い世界のでは無いのかもしれないのか?彼女らが話し込んでる間、私は掃き掃除に集中する。
妙齢の彼女は結構長く務めている人である。なんせ今の王様の1つ前から居ると聞いた。上の者に逆らってはいけないという風潮は何処も変わらず、ただ私は反論など出来ないまま彼女達の止まってる手の分素早く動かしていく。
「貴女もそう思いません?」
「へ?」
「あら、聞いていなかったの?失礼な人ね」
「勤務中にお話しながら手を動かす事の出来る程の余裕が新人には無いものでして」
手を動かす、という所は強調しつつ皮肉を皮肉で返してやれば、相手の笑顔が引き攣った。話を聞かされていたもう1人の使用人は、自分がターゲットになった途端「これで逃げれる」と言わんばかりに別の箇所の掃除を始めた。そんな彼女に視線を送れば、こちらに気づいた彼女は肩を震わせて視線を逸らし、我関せずと見向きもしなくなった。
「で、お話というのは?勤務中に手を止めてまで話しかけるという事は、余程重要な案件だと推察しますが。」
「…何でも無いわよ。」
「そうでしたか。それは失礼致しました」
これ位の反論はして良いだろう。別に間違った事は言っていないし。彼女は怒りや恥で少し顔を赤くしながら、掃除を再開した。

よっこいせ。集めた塵を捨てに行こうと運んでいた時であった。
「そ、そこの!お前!」
「…?おや、レオナ様。いかがなさいました?」
「…ッ、!」
口をモゴモゴさせている。何か言いたい事があるのかもしれないが、考えが纏まっていないのか言葉が出ないのだろう。別に急いでもいないし彼の視線に合わせて屈み、彼が伝えようとする言葉を待つ。
「お前は…その、えっと…」
「はい」
「い、いや…何でも無い。」
「そうでしたか。…ああ、そういえば、レオナ様」
何か言おうとした彼は、伝える事をやめてしまった。別に無理して聞き出す事でも無いだろう、くるりと方向を変えて去って行こうとする彼を見て、先程使用人が話していた言葉を思い出した。
「…何だ」
「試験で1位を取られたとお聞きしました。おめでとうございます」
「な、」
「引き留めてしまい申し訳御座いません。それでは」
学校や他の使用人から賞賛の嵐であろうが、知っているにも関わらず言わないのも気分が悪い。
よっこいせ、再度塵の入った袋を抱え直し、私はその場を去った。

今日の訓練も死ぬかと思った。半分獣である他の使用人とは違って、ただの人間にとっては相当ハードだ。
しかも、昼の掃除でやっかみを買ってしまったせいかいつも以上にネチネチと文句を垂れてくる妙齢の使用人のせいで、いつも以上にやる事が増えてしまった。
全ての業務が終了した夜。
水浴びをして、部屋に戻る。後は寝るだけだ、うんと体を伸ばしながら廊下を歩いていると、レオナ様がこちらに向かって歩いていた。夜の散歩でもしているのだろうか?あの年代を考えれば、引きこもっているより余程健康的だ。
ただ、彼は必要最低限の衣服しか身に纏っていない、あれでは体が冷えてしまうだろう。風邪を引かれたものならば目撃したのに何故何も着せなかったのだと怒られるのは自分だ。業務が終了したというのに、使用人は彼らの行動1つで無償残業しないといけない。はー、ったく面倒くさい。
「レオナ様。夜は冷えますよ、何かお召し物でも」
「要らん。必要無い」
「風邪を引かれても困ります。せめてこちらでも羽織っておいて下さい」
砂漠地帯と言えど、夜は意外に冷える。今まで私が着ていたものであるが何も無いよりかは良いだろう、支給された上着を彼の肩にかけるが、サイズが大きいようで結構スッポリ収まってしまった。
「お先に失礼します。おやすみなさい」
「…おやすみ」
ちゃんと上着を着る彼を確認し、私は部屋に戻った。