使用人に与えられた昼休憩。
食事が終わって後数十分はあるだろうこの休みは部屋にでも籠もろうと歩いていた時、レオナ様が心ここに在らずと言わんばかりにぼうっと遠くの方を見ていた。
わざわざ私の部屋の近くで、だ。
余談であるがここ数日、私は彼を見ない日は無い。掃除をしている時や訓練時、私が周囲を確認しないだろうという時はほぼ必ず現れる。ご丁寧に私の死角で小さい体をこれでもかと言う程小さくし、誰にも見つからないよう身を隠して。
私は視野が広い為彼の事を認知していたしわざわざ隠れてる彼に目配せもしていないので、彼は多分私が気づかれて居ないと思っていつ筈だ。気づいてると察知したならこんな馬鹿な真似をしないだろう。
監視しているのか?何のために?…何か私に言いたい事があるのかもしれない。彼の持つ諦めを理解していないのでまだ何も行動を起こしていないし、懐かれるような事はしていない筈だが…こればっかりは彼に聞かないと分からないだろう。
とりあえず、これから昼休みに行う予定を全て無になる気配を察知して、頭をガシガシ掻きながら私は彼の隣に座る。
「どうかなさいましたか、レオナ様」
「!…」
気配を出していたのに気づかなかったのだろうか?声を掛けられ驚いた表情を浮かべてこちらを見る彼は、やがて平常を取り戻して先程と同じ方を見つめている。
「今日は暑いですね」
「…ここはいつも暑いだろ」
「まあ…夜は意外に冷え込むので最初は少し驚きました」
「ふん」
お互い何も言う事は無い。うーん、ここは1人にさせた方が良かったのかもしれない。もう少ししたら休憩時間でもちらつかせて部屋に戻ろう。
「お前は」
「はい?」
「…お前は、俺のユニーク魔法を知っているんだろう」
「ゆにーく…ああ、砂に変える力ですっけ」
この世界では、私達で言う異能力を”ユニーク魔法”と呼ぶらしい。思いも寄らぬ元の世界との共通点に最初は驚いたものだ。
「怖くないのか」
「ん?」
「こんな、干上がらせるだけの能力…」
「うーん。そうですねぇ…例えば、ここにとても禍々しい箱があったとします」
「は?」
今まで何処か拗ねていた表情を浮かべていたレオナ様が、子供らしい表情を浮かべている。まあ私が可笑しな事を言っているので仕方無いかもしれないが、もう少しだけ話を聞いて欲しい。
「それは強力な魔法で、触れた者を呪い殺してしまう箱です!わあ、怖い。誰も触れようとはしません」
「何言ってんだ?お前」
「そんな中、レオナ様が現れました。触れるだけで砂に変える魔法です。彼はその箱に触れました!えーっと、魔法の名前何でしたっけ?」
「き、王者の咆哮キングス・ロアー…」
どん引きの表情である。私はそんな事も気にせず、淡々と無表情で語り口調のまま身振りを大きくして即興の物語を言葉にしていく。
「きんぐすろあー!あら不思議!呪いの箱は砂に変わり、レオナ様は怪我1つ無く無事ではありませんか!」
「頭おかしくなったか?」
「私が言いたいのは、物は考えようという事です。貴方が忌み嫌うその魔法も、時によっては人々を救う魔法になるかもしれない。」
「…」
「便利で正義の力だと思える魔法も、使いようにとっては悪にでもなれる。力というのはそういったものだと思います」
「…ふ、」
「?」
「あっはっははは!面白いな、お前!」
大きな口を開けてゲラゲラ笑うレオナ様。彼の笑った顔は初めて見た、子供っぽい顔も出来るんじゃないか。
「変な奴だとはよく言われますが、面白いは2度目ですね」
そう、その内1回は元の世界で言われたんだった。その事を思い出し、腹を抱え足をジタバタさせ笑う彼の隣で物思いに耽る。ヒイヒイ言いながら目に浮かべる涙を拭い、彼は私に笑みを向けた。
「ここの世界の事、俺が教えてやる」
「はい?」
「世間知らずの草食動物にこの俺様が教えてやるって言ってんだ、感謝しやがれ」
「はあ。有り難うございます。」
そういやそんな事を言っていたな。あれは1人で出て行く彼の付き人として同行する為にそれっぽい事を言っとけば丸め込めると思って居ただけで、別に必要以上に知ろうとは思って居ない。
…まあ、少しでも、彼の憂いは晴れたのだろうか。それならば良いのだが。
この後、30分も遅れてしれっと訓練に参加した私は当然見つかり、物凄く怒られた。