不信感

「とりあえずどうする?あいつら助けてやんねえと」
「そうだよね、まず作戦練り直そ!名前、なんか考えてよ」
「いや、突破は恐らく難しいんじゃないかな」
「何でだよ!相手がポートマフィアで怖気づいちまったのか!?」
「そうだよ!羊の教訓は「手を出されたら百倍返し」なんだから!」
「その百倍返してくれる唯一の人間が、今この場所に居ない状況でどう百倍返しするの?」
「…」
「で、でも中也が俺らを裏切るはずが無いだろ!」
「うん、中也は私達を裏切らない。でも昨日から帰ってきても居ない。中也も捕まったのかは分からないけど、ともかく私達で反撃するには練度が足りない」
「何か方法無いの?」
「人質になったあの子達を開放出来るか出来ないかの賭けしか出来ないよ。確実とも言えないし、そもそも私達が捕まる可能性の方が高いと思う」
「打つ手無し、か」
だから言ったのだ、行かない方が良いと。それでも起こってしまった事は覆す事が出来ない。先程見た限りでは、恐らく人質として使われてるようだが、いつ殺されるかも分からない。何なら、この瞬間にも殺されている可能性だってある。待て、そもそもポートマフィアは誰に対して人質を取っているのだろうか?拠点に居る子達を招集させて確認させた携帯には連絡が未だに入っていないようだし、マフィア側からすればこちらの反撃で、1人損害を出している為にまだ警戒して連絡をしてないのだろうか。早い所対処をした方が良いのだが、相手は手練れのポートマフィア、対してこちらはただ銃を持って強いと錯覚してるだけの、命中率もそう高くない子供が何か出来るはずも無く。とりあえず中也が帰ってくるまでは現状維持を続けないといけないだろう。ともかく、中也を探して見つけるのが先決だ。まずい展開になってきた、彼らから中也を切り捨てるような事態になれば…早く軌道修正しないと危うくなる。
「とりあえず、中也を探そう。今私達に出来る事はこれ位だと思うから」
「そうだな…昨日から帰ってきてないとなればあいつも人質として攫われた可能性だってあるし」
「そうとなれば皆で手分けして探そっ!」
「待って、1人じゃ危険だから2、3人以上で動こう」
「それもそうだな、おーい皆集合!」
「皆で中也を探しに行こ!誰か意見ある!?」
特に否定的な意見も無く、中也を探しに行く事が決定した。とりあえず貧民街で野たれ死んでないか探そうという事となり、最大3人のペアで探しに行く事になった。

「ねえ、名前…中也何処に行っちゃったんだろう…」
「分からないよ」
「もしかして、中也が私達の事裏切ったのかな…」
「莫迦言わないでよ、もう。中也がそんな事するワケ無いでしょ?」
「そ、そうだよね…でもぉ」
「何処で暇潰ししてたのか早く中也の事探して聞いてみよ、ね?」
「う、うん…」
不安そうに顔を歪ませ辺りをしきりに見渡す気の弱い彼女とペアになった私は、元気付けようと笑みを浮かべながら返事をする。中也が1日帰ってこない事なんか今まで無かったので行方不明になってる事に対して、元々不安症だった彼女の心は爆発してるようで、しきりに「大丈夫だよね」「帰ってくるよね」と零す彼女に「大丈夫だよ」「帰ってくるよ」と出来るだけ明るい口調で返事をする。手を握って一緒に行動すれば少し落ち着きを取り戻したようで、見つけたら一発腹に決めると物騒な約束してクスクス笑い合いながら歩いていると、ふと話し声が聞こえた。
「羊の王のなんだっけ、あのチビ。俺見たぜ、すんげえ爆発の直後によ、気ィ失ったそいつを厚着した奴が担いでどっか連れてった」
「おいおいまじかよ」
「厚着って言えば、ポートマフィアの奴じゃねえか?」
「ポートマフィアの傘下に入ったとかいう噂って本当だったのか?」
「さあ?知らね。でも羊の奴らじゃねえ包帯の餓鬼と一緒に歩いてたし、もしかするかもだな」
頭から冷水を掛けられたような、頭から足のつま先までスッと熱が奪われた感覚に陥った。喉が妙に乾き、頭の中は真っ白で、身体は氷漬けにされたようにびくともしない。それは彼女も同じようで、先程まで笑い合ってたのに今では泣きそうな顔になっている。きっと私も同じような表情をしている事だろう。
嘘だ、ありえない、中也が裏切るはずなんて無い、きっと彼はポートマフィアに攫われて人質に取られてるだけだ。じゃあ何で中也はこちらに連絡をしてこないのか?否、通信機器は全て没収されてる可能性だってある、きっと晶達が人質に取ったのはマフィアが中也を使う為だ、きっとそうだ。傘下になんか入ってない、中也は私達を裏切るはずなんか、裏切る、はずなんか。
本当に、中也が羊を裏切らないと言えるのか?
「名前…」
「…一旦、戻ろ」
「うん…」
この後どうやって戻ったのか分からないが、いつの間にか拠点に辿り着いていた。未だに頭の整理が付かないままぼんやり座っていれば、隣でグズグズ泣いている彼女と心ここに在らずという私の反応に、皆がどうしたとワラワラ集まってきた。返事する気力の無い私を見て事情を聞くのは困難だと思ったのか、隣で泣いてる彼女に皆は問い詰め、嗚咽で言葉が詰まりながらも説明していた。
「中也が…?」
「え、嘘でしょ」
「そんなはずないよ!きっと何かの間違いだよ!」
「きっと、きっと人質に取られてるんだよ!」
皆が皆、中也が裏切るはずが無いと口を揃える。皆もきっと混乱しており、中也が裏切らないと信じたかったのだ。それでも皆の心にしこりは残る。最近の彼は調べ物をしていると1人での行動が目立つようになっていた事を思い出す。自分で言うのも何だが、何でもかんでも私に聞いてくるべったりだった中也が、だ。たまに私達も手伝う、というよりこういう噂は無かったかと聞かれた事はあったが、そこまで本腰を入れて噂を確認しに行く事も無かった。ただ、噂好きの彼らはこういう事があったとちょっとした会話をする程度である。皆がその中也の姿を見ているので、疑心や不安を持つのは想像につく。少なくとも私だってそういう感情を持っているのだから、周りは尚更そうだろう。今だって皆険しい顔をしながら、誰も言葉を発する事は無く口を噤んでいる。シン、と静まりかえった空気を払拭するべく、白瀬が「そんな噂立てる奴全員ぶっ潰そうぜ」と立ち上がり、皆もちらほら同意して中也の捜索を続行、噂を立てる人を潰しに回り、彼が調べていた「アラハバキ」について本格的に調査をする事が決定した。