不安

中也の捜索と荒覇吐について調査を決行してから数日。荒覇吐については粗方の噂が集まっていた。荒覇吐の大爆発は、私が今の擂鉢街が出来た大爆発を見た8年前のものが最古のものだろう。それからここ2週間の間に目撃情報が爆発的に増えており、羊の中でもそれを目撃したという人も居た。一方、中也の捜索は難航しており、何処を彷徨いても彼の目立つ髪色が全く見つからないのだ。マフィアの拠点がある場所の近くや羊の拠点の周囲は彷徨かないようにしているのだろうか、やはり中也はポートマフィアについてしまったのだろうか。あまりにも見つからないので、羊の中でも裏切りが濃厚だと噂されるようになった。
そんな中、白瀬と柚杏のペアがやっと中也をゲームセンターで見つけたらしく、少しだけ話をしたのだと打ち明けた。どういった経緯で出会ったのか、中也とした会話を全て洗いざらい話し終えると、皆は中也に対する不信感や不安が積み上がり、組織内で中也に対する今後の意見が割れた。
「やっぱあいつはポートマフィアに屈したんだよ!」
「異能力を持つ中也がマフィアに屈したなら私達もう終わりじゃない!?」
「じゃあどうするんだよ!」
「さすがに安直すぎない?中也が裏切るとは考えにくいけど」
「何言ってんだよ名前!どう考えても怪しいだろ!?」
「まさか中也と一緒に居たから看過された訳じゃ無いでしょうね!?」
「そんな訳無いでしょ、何でそうなるの?」
「じゃあ何でお前は中也を庇うんだ?」
「長いこと一緒に居たからだよ。彼は私達の事を考えて行動してくれてる、だから今回もきっと…」
「なら何で中也はちゃんとした説明してくれないの?」
「そ、れは…何か考えがあるんじゃない?ポートマフィアを出し抜く為とか」
「お前さっきの話聞いてたか?出し抜く為に動いてる訳じゃないって白瀬が説明しただろうが!」
彼を庇うのは私だけだった。なんとか彼の不信感を拭わせようとするも、私の必死さに「何で名前はそんなに必死なの?」と言われ、口を噤んだ。確かに、周りから見たら裏切り者の可能性がある人間を庇う私は怪しいのだろう。何も言い返せずいると、私を除く皆が中也の今後を話し合い、私がなんとか中也の疑いを晴らそうと「中也を探しに行く」と一言伝え、疑心で渦巻く息苦しい拠点から離れた。
中也を探しに行くという目的もあるが、今は1人で考え事をしたかった。きっと中也は裏切らない、先程の白瀬の説明を思い出しながら気持ちの整理を付ける為に外を歩いていると、一人で辺りを見渡しながら歩く中也がこちらに足を進めてきた。どうやら私には気づいていないようで、普段通りに見える彼に駆け寄ると、気づいたのか彼と目がバチリと合い、そのまま目を逸らされた。
「中也!」
「…おう」
「無事で良かった…心配したんだよ、本当に」
「っ…何も、伝えて無くて悪かった」
「んーん、中也が無事なら良いよ。所で、何をしてるの?」
「あー、犯人探し」
「犯人探し?私も手伝うよ。特徴は?」
「否、これは俺とあいつの問題だ。お前の手を借りずに探してぇ」
「あいつ…?」
「…」
「…そっか、」
「じゃあ行くわ」
私が彼の前に立つと、彼は私の顔を見ようともせずそっぽを向く。ちょっと前までは、目線を合わせて会話しないと少し拗ねてしまって、正面に立てばそっぽを向く彼の視線をなんとか合わせて会話し、機嫌を取っていたのに。懐いてくれていた可愛い弟のようだったのに、その面影が感じられず凄く寂しくなる。変化はそれだけではない。これまでは、何かしら相談や問題があれば評議会を始める前に私に相談してきてくれた。それも、ほんのちょっとした事でもだ。だからいつものように、犯人捜しに手こずってるような彼を手伝おうと聞きだそうとするも、それは彼が拒んで失敗に終わった。誰と勝負をしているのだろうか、相手も理由も分からないが、彼の信念があるのだろう。彼の疑いを晴らそうと探して見つけたはずなのに、そんな彼の反応1つ1つが不安を煽る。そのまま私と会話を続けるつもりは無いと言いたげな様子で、足早にこの場から去ろうとする彼の服の裾を掴んだ。
「あ、待って!」
「…どうした」
「中也は、私を裏切らないよね…?」
「裏切る訳ねぇだろ、俺が、お前を」
「…そっか、安心した。」
クイ、と引っ張ってその場に中也を引き留め、最後に1つ質問をする。喉がカラカラに乾き、言葉が詰まりながらも発言し、じっと彼の目を見つめながら返事を待つ。今まで1度も目を合わす事の無かった彼は、私の肩をガッと掴み何かを押し殺すような、そんな険しい表情で私の目を見つめ返す。彼は本当に裏切るつもりは無いのだろう、その瞳の奥には決して嘘偽りは無く、ほっと胸を撫で下ろした。
「引き留めちゃってごめんね、犯人捜し頑張って!」そのまま私を見つめて動こうとしない彼より、先に出来るだけ元気な笑みを作って未だ私の肩に力を込めてくる彼の両手を優しく解き、私からその場を去った。昔は外に1人で行く時は涙を浮かべながら拠点の前でじっと見送ってくれたなぁと、少し期待を込めて後ろを振り向いたが、もうその場に彼の姿は無かった。