変化

「ねえ、中也見てない?」
「いや、見てないぞ。何か用か?」
「まあ、ちょっとね」
「そうか。見かけたら名前が呼んでたって言っとくわ」
「うん、有難う。助かる」
あれから私は15歳になった。この組織も昔に比べ体制が大きく変化した。まず1番分かりやすいのはリーダー的存在が出来た事だろう。今までは皆が対等な存在であり、たまに作戦を考える時などは私が筆頭で色々助言などはしていたが、発言権が高いというだけでリーダーと言われればそうでもなく、その日を生きるのに必死だった私達は特に必要でも無かった為話題にも上がらなかった。私が評議会というものを作ってから最終的な決定権を持つ人間を作るという流れになり、今では13人の多数決で決める事が多くなった。それに加え、中也という異能力を持った圧倒的強者が来てからは、対等な存在という均衡が崩れ、ここのリーダーになるなら中也しか居ないよなという話題が持ち上がってからは展開が早かった。彼はもっと適任者が居ると渋ったが、この世界は弱肉強食、1番強い者がリーダーの方が良いという多方面からの支持により、中也の方が先に折れた。それからは中也が力を振るう事も増え、横浜の一等地に拠点を構えれる程に着々と力を付け、人数の規模も広がり、生活用品は勿論娯楽アイテムも整えれる程には充実していた。ただ、これは誰かが働いて手に入れた金で入手したのではなく、他人から盗んで得たものなのだが。
その頃には周りから「羊」という通称名を付けられ、貧民街を彷徨けば周囲から「羊だ」と囁かれる。何故羊と呼ばれだしたのか?それは全く以て検討が付かない。羊飼いの比喩なのだろうか?異能力という人と離れた力を神と捉え、何も持ってない子達をぞろぞろ引き連れてるから羊と呼ばれたのだろうか?まあ確かに言い得て妙だが。結構長い間そう呼ばれてる為、その通称が私達の中でも定着し、自分達も羊だと名乗る事となった。何故周囲から見ても羊だと分かるのか?それは羊の構成員という証として、共通して羊のロゴが描いてある青い色をした帯を付けるようになったので、周りから見ても一目で理解されるのだ。羊のモチーフのロゴを作るとなった当初、必要性を聞いた所格好良いからだと言われて困惑したが、格好付けな中也を筆頭に他の皆がロゴマークを考えていつの間にか帯は勿論の事、服にもその象徴を付ける事になった。いつの間にか話が勝手に進み、何処で発注したのか分からないが、ロゴが印刷された帯や服が大量に拠点に運びこまれた時、受け取った私はダンボールの箱を開けて目が点になった。私1人だけ取り残されてる感が否めないが、時間が経過するにつれそれも慣れた。ちなみに、中也が見繕った私用の服は受け取ってから1度も着ていない。私の好む服と中也の感性が違うからである。
まあ、色んな所に自ら嬉々として羊のロゴを入れた服を発注した中也は、元々羊の話題が尽きなかったのに一気に話題性が高くなり、ロゴやら帯やらで尚更注目されるにつれて周りから「羊の王」と呼ばれる事が多くなった。自分の行動が自分の首を絞めている事になっている事に気づいてない中也は、それはそれは不快なようで、呼ばれる度に機嫌を悪くし、相手は重力に押し潰される。名を轟かせてしまえばあまり力を持たない下っ端の奴らが手を出してくる事は少なくなったが、長年争い続けていたポートマフィアだけは本腰を入れてきており、こちらの100倍返しをする信念で規模を大きくしてしまったのか、争いが絶えず起こるようになり私達の居るの貧民街は抗争地帯となっていた。
そんな中、昨日から中也の姿が見当たらないのだ。
元々彼のお世話係で、付きっきりで言葉を教えていた私は、彼にとっては親や姉に近い存在なのだろうか何かあれば基本私に聞いてくるしそのまま一緒に行動する事もザラだ。特に何も聞く事が無かろうが、私が白瀬や他の子と会話してる時や少し外に出ようとする時、何をしてるんだと近づいて来る。いや、これはカルガモの親子と言った方が良いだろうか。私の居る所に大体中也有りという程度には一緒に居る事が多かった。それだけは今も昔も変わらない。
彼が居る事が当たり前になっていた私にとって、1日でも会話をしなかった事がここ年単位で無かった為、今の状況がなんだか少し寂しい。思春期に入り子が親から離れていく感覚なのだろうか、思春期の子供を持つ親の気持ちが今ならよく理解出来そうだ。
彼は今何処で何をしているのだろう、正直言って1番強い彼の異能力が無ければここもすぐに壊滅するだろう。以前までの貧民街の人間と小規模の抗争をしていた時は別段問題無かったが、今ではポートマフィアなどの武装集団に襲撃されては私達に勝ち目が無い。それ程彼の異能に依存しているのだ。あまり宜しく無い傾向だが、これしか今の私達に出来る最大限の抵抗であり、打開策がそれ以外思いつかなかった。それに、中也の性格上頼っていた方が裏切る事も無いだろう。個々も力を付けるようにしてはいるが、それでも彼を失えばこちらは大損害だ。とりあえず外に探しに行こうかと考えた矢先、会議をする為評議会のメンバーが招集された。その内の1人に入っている私も例外は無く、近くに居た評議会のメンバーの1人に腕を引っ張られて輪の中に入った。

「おいおいどうするよこれ」
「さ、流石に不味くない…?」
「とりあえず私達も見つかったら終わりだよ、一旦退こう」
「お、おう分かった」
羊の王として中也が狙われてるのは勿論だが、顔が知られている私達も狙われてる事は例外はなく、川向こうの向上通りに高値で売れる酒を盗みに行く事になった私達の一部が捕まったのだ。
先程の会議というのは、中也が居ない今の状況でこれからどう動くかという事と、資金が減ってきてる事を危惧し、ここに盗みに行くか否かの会議が議題であった。中也が居ない事を悟らせない為にも普段通りに動き、盗みに行く方が良いという誰かの意見に他のメンバーが肯定を示している中、私だけが否定的な意見であった。確かに今は資金が減ってきているのは間違い無いが、現時点ではまだ問題無さそうだし急ぐ事も無いと私は抗議したのだが、評議会のメンバーは誰も聞く耳は持ってくれず、中也の居ない12人の多数決で負けてしまって今に至る。銃を武装してる敵に対してこちらは丸腰、中也も姿を見せない状況下では大胆に動けば格好の餌食だ。
抗争の真っ只中でに行くべきでは無いと反論しが、それでも資金があれば移動が出来る、と私の制止を振り切って行く事を決めた子達が心配で着いてきたものの、一部はマフィアに捕まり、私達一部は物影に隠れ難を逃れた。ただ、まだポートマフィアの人間が辺りを彷徨いており、これから私はどう動けばいいかを考えつつ、身を低くしながら捕まってない彼らを率いて拠点に戻った。