再び5

買い与えた本をギュッと胸の前で抱いて鼻歌でも歌い出すんじゃないかと言う程浮かれている彼女を微笑ましく見ながら、自宅に車を走らせる。そういや今日の晩飯何をしようか、彼女がご所望の味噌汁の具材は何を入れよう、確か家に王道である豆腐とワカメは入ってるだろうしそれにしよう、後は適当に野菜でも炒めて米炊けば良いか。明日は名前の食べたい物にしよう。頭の中で献立を考えてる内に自宅に到着し、彼女を家に迎え入れた。
本を胸に抱えながら辺りを見回し警戒する彼女に、まずは手を洗わせてから部屋の説明をしていく。俺以外の人が居ない事を確認させて、肩の力を抜く彼女の頭を撫でながらリビングに向かわせる。俺は部屋着に着替えてからリビングに向かい、晩ご飯の準備をする。
「何かお手伝い出来る?」
「あーじゃあこれ頼む」
何でも手伝うぞと表情が物語っていたので、せっかくだし何かやらせてみるかととりあえず簡単な物を頼む。台所は彼女にしては少し高いので、小さな脚立を用意して肩を並べて料理をする。自分がやるべき事をしながら彼女の手際を見ているが、特に怪我をしそうな危うい場面に直面する事は無い。「手伝いした事あるのか?」と問えば「それなりにある」と返事が来た。こりゃ頼もしいじゃねえか。
「ちび君料理出来るの?」
「まあそれなりにな。」
「誰かに教えて貰ったの?」
「お前に教わった」
「あ、そうなんだ」
たまに会話を交えて、特に怪我も無く和やかに料理を作り終えた。テーブルに料理を並べて椅子に座り手を合わせれば、お腹が空いていたのか彼女は口いっぱいにご飯を詰め込んだ。まるでリスみたいに食べる彼女に「ゆっくり食べろよ」と口の横についたご飯粒を取って食べる。成り行きで味噌汁を手にした彼女に、少し緊張した。なぜなら、味噌汁は俺のお手製だからだ。こいつの口に合えば良いのだが、不安が混じりながら彼女が味噌汁を飲む姿をじっと見る。
「ど、どうだ?」
「おいし…」
「そうか、良かった」
「あったかいね」
「そうだな。あったかいな」
顔を綻ばせる彼女に、心が温かくなりながらつい俺の表情も緩む。彼女が幸せそうで何よりだ、こちらも幸せな気分になる。次は何をして喜ばせてやろうかと企みながら明日の飯は何が良いかリサーチした。

やはり元は家に居ただけあって、俺のように電化製品に驚く事は無い。飯の最中にテレビに興味を示すかと思い電源を付けたのだが、ニュース番組しか確認せず、バラエティの番組には然程興味が無いのか俺の手伝いを申し出る始末だ。「洗い物するよ」と意気揚々に申し出てくれたのは嬉しいのだが、食洗機があるので手洗い不要だ。そう言えば「食洗機の中にお皿を入れる」とテキパキこなしていったのだが、すぐに手持ち無沙汰になり、他に何か無いかと言われる。元々よく働く奴だとは思っていたが、それは小さい頃から変わっていないようで、少しは休めと彼女の身体を抱き上げてソファにどかりと座った。彼女は俺の膝の上で「まだ何かあるでしょ」と言って膝から降りようとしているが、俺が彼女の腹に腕を回しているので降りようにも降りれず、「もー!」と叫びながら足をバタバタ振っていた。「ったくちょっと位休憩しろ」と言うも、彼女は「今しないと忘れるでしょ」と言って聞きやしない。まあまあ頑固な彼女にこれ以上言っても休んで貰えないだろうし、彼女の言う事は一理あるので彼女に風呂の掃除を任せ、俺は洗濯物と首領に貰った彼女の衣服を片付けていった。

「ちび君、お風呂入るよー」
「おー」
浴槽にお湯が入ったらしいので俺の腕を引っ張る彼女に連れられながら脱衣所に入る。「チャック開けて」と髪を前に持って背中を向ける彼女に、しゃがんで彼女の背中についてるチャックを降ろせば、そのまま彼女は振り返って「ささ、ちび君お洋服脱ぐんだよ」と言って俺の服を脱がしにかかってきた。ここでふと思う、何故一緒に入る前提なんだ…?何の違和感も無く一緒に入ろうとしていたが、うん。駄目だろ。うん。
「待て、シャワーの使い方分かるんだよな?」
「え?うん」
「なら1人で入れ。俺は後から入る」
「駄目だよ、そう言ってお風呂入らないつもりでしょ、ちび君お水嫌いだもんね」
「さすがにこの歳でそれはねえよ」
「つべこべ言わないで脱いで、はいバンザイ!」
「いやいや待て待ておい聞けよ」
俺が着ているTシャツを脱がしてこようと服を引っ張ってくる彼女を止める。「また駄々こねて」と言わんばかりの顔をする彼女を先に入らせる為に立ち上がって脱衣所から出ようとするが、下着諸共ズボンを引っぺがしてくる彼女に、我が道を行く俺の幼少期を思い出し、それを手懐けていたこいつの方が1枚上手だわなと顔を覆い隠した。