再び7

彼女が小さくなってから3日が経過した時、名前が小さくなってしまった情報が少しだけ集まったと首領から招集命令が掛かった。少し嫌がる名前を連れて足早に首領の部屋に向かえば、姐さんも共に居た。
「そちらに掛け給え」
「失礼します」
「名前ちゃんはこっちね!」
「…ここが良いです」
「つれないなぁ…紅葉君、報告を」
首領が1番近い席に座れと促すのだが、彼女は俺の隣の席に座る。可愛いじゃねえか。
彼女がこうなった原因はやはり先日殺した異能力者のものらしく、どうやら奴の血液を媒体にしたウイルス性の異能の可能性が高いようだ。そいつを殺した時に血液を浴びたせいで俺の体内に入り込んだ異能力が発動し、俺の身体は小さくなった。その後、彼女との接触によって異能が移り、無事俺は戻って彼女が代わりに小さくなったのではという見解だ。
「何か、接触した心当たりはあるかえ?」
「あります」
俺が戻った直前にしたキスしかねえ。どういう接触をしたのかという質問はとりあえず濁したが、察しの良い首領や姐さんは気づいてそうだ。いやでも小さくなった俺がした事だし、彼女自身あまり気にしてなかったようなので大目に見て欲しい。
異能力者が死んでいるのにまだ発動している事など疑問に残るが、戻り方自体はまだ判明していない為、もしかしたら時間制限や何かしら引き金があるのかもしれない。
俺の時は捜査が難航していたのに対し、名前が小さくなったとなれば2日でここまで順調に進んでる事に泣いてなんかない。決して泣いてなんか無い。首領は俺から彼女に視線を向けた。
「名前ちゃん、体調の変化はあるかい?」
「ありません」
「何か変わった事は?」
「ありません」
「そう警戒しなくて良いのに…」
「のう名前、和服に興味は無いかのう?」
「ありません」
やはり大人に警戒しているのだろうテーブルの下で俺の服の裾を持ちながら、険しい顔でそう答える彼女に、完全に緩みきってしまった俺の頬を隠す為に片手で覆い隠す。警戒されている2人はメソメソしているこの異様な雰囲気が漂う中、それをぶち壊したのは首領だった。
「名前ちゃん…じゃあこれ着てみない!?」
「厭です」
「じゃあこれ!これはどうだろう!今回は名前ちゃんに似合うと思って丹精込めて選んできたのだよ!ささ、ちょっと着るだけだから!」
「何を言っておるんじゃ、名前は和服の方が似合うに決まっておろう?そんなフリフリした物着ておれば、繊維で肌が痒くなってしまうわ」
「…ちび君」
「お話中申し訳御座いません首領、仕事が残っているので、俺達はこれで」
「何言ってるんだい紅葉君。名前ちゃんにはね、絶対、洋服の方が似合う。」
「お主の目は節穴かえ?幼児体型だからこそ和服の方が良う似合う。肌も白く髪も長い。結い上げれば別嬪さんじゃ」
話がヒートアップして収集が付かなそうなので、聞いてもいないだおーろうが一声掛けながら名前の手を握ってそのまま首領の部屋を後にした。

仕事場に戻ってからは、先日買い与えた本を読んでいる彼女を横目に、明日は休みだし彼女を何処に連れて行こうか思考を巡らす。彼女は特に行きたい所は無いと言いそうだし、パーッと遊園地とかにでも連れ出してみようか。「ちび君、手が止まってるよ」考える事に集中しすぎて適当に返事しながら止まってる手を動かす。俺の監視役は今日も今日とて厳しい。
「はぁ…」
「手が止まる回数増えてるよ。休憩してくる?」
「おー…」
少し息抜きでもしようと身体を反らして伸びをする。その時に漏らした声に「ちび君おっさんみたい」と言われて心が痛い。言っとくけどお前も同じ歳だからな、つーかまだそんな歳じゃねえわ。そのまま本を読もうとする彼女から本を取り上げ抱き上げる。
「私は良いよ…」
「ちったあ身体動かせ」
「ちび君大きくなっても私にべったりだね」
「おーそうだな」
「ちゃんと自立しないと駄目だよ」
「へーへー」
「もう、聞いてる?」
就寝時、彼女が小さく零した願いを言ったことを覚えていないらしい。まあ、言ったら言ったで恥ずかしがってこちらに寄って来なくなりそうなのでその事は胸にしまっておく。彼女を降ろして手を繋ぎながら、適当にブラブラ歩きながら会話を楽しむ。
「明日休みなんだけどよ、何処か行きたい所あるか?」
「ちゃんとお休みしないと…」
「書類整理で鈍っちまって明日は身体動かしたい気分なんだよ。どっか付き合えや」
「…前から気になってたんだけどね…水族館、とか」
「おう、じゃあ水族館な。何で気になってんだ?」
「お寿司になる前の姿が気になる」
「待て、そうやって楽しむとこじゃねえぞ」
なんか観点がズレてる彼女の思考に笑いながら、自販機で買ったオレンジジュースを彼女に渡して休憩室の椅子で寛ぐ。楽しみなのか地に着かない足をプラプラ動かしてジュースを飲む彼女の頭を撫でる。少しして「あ、そういえば」と俺の方に向き直ってどうしたのかとコーヒーを口に含みながら耳を傾けた。
「接触って何したの?」
「ブッ」
「うわ汚い…」
いきなり何聞きやがるんだこいつ。ビックリして気管に入ったじゃねえか。ゲホゲホ咳をして息を整えていると、背中を叩いてくれ、幾分か楽になったので彼女に向き直る
「い、きなり何聞きやがるんだ!?」
「疑問に思ったから」
「何でも良いだろが」
「きーにーなーる−」
「おい膝の上乗ってくんなって」
俺の膝の上によじ登ってくる彼女が落ち無いように背中に手を回す。変な所頑固なので、教えて欲しいと身体を左右に振って粘る彼女に、子供っぽくて可愛いじゃねえかと頭を撫でる。「教えて」「嫌だ」「教えて」「無理」「教えて!」「嫌だ」何度か同じ掛け合いをしながら、膨れっ面になっていく彼女の頬を突いて遊ぶ。尚更眉間の皺が深くなるのを見てクツクツ笑っていれば、至近距離から爆発音が聞こえ煙が立ち籠める。襲撃か?彼女の身体を抱き、瞬時に戦闘態勢に入る。敵は何処だ、周囲を警戒しながら移動しようと彼女の身体を抱き上げようとするが、ふと重さに違和感を感じた。
「あ、戻った」
「は?」
「ちび君、お世話ありがとね」
「は?」
視界が晴れて見えた光景は、元の姿に戻っている彼女の姿であった。どうやら感染系かつ一定の時間で元に戻る系統の異能力だったらしい。首領の服が嫌だと自分自身の服を織り込んで着用してる彼女は、俺の膝の上から降りて織り込んだ服を直している。未だに状況を把握出来ていない俺は、ぽかーんと彼女をただ眺める事しか出来なかった。

ここ数日で定着してしまったのか、元の姿に戻っても彼女は一定期間「ちび君」呼びのままであった。