再び2

「首領、失礼します」
「それで、話というのは…その子の事かね?」
「はい、こいつは名前です。」
首領の部屋に入る前に事前に話があると言ったものの、突如訪れた俺と樋口を少し驚いた顔をしながらも迎え入れてくれた首領の部屋には、姐さんも一緒に居た。どうやら何か話の最中だったようで、中断してしまった申し訳無さもありながらも、俺の手を力強く握りしめ身体に引っ付く名前を少し前に出す。困惑したような顔をしながら「ちび君」と小さな声で呟き、俺の顔をじっと見る彼女の頭を撫でながら手を少し強く握り返す。
「ほう、お主の次は名前かえ?」
「名前君が小さくなってしまったという事か…なんと愛らしい…」
「お主はそればかりじゃのう…」
「お忙しい時に申し訳御座いません、樋口が一部始終を見ていましたので、報告をと連れて来ました」
「成程、お洋服が無いのなら、私がエリスちゃんに買い与えて着てくれなかったお洋服をあげよう。」
「聞いておるのかえ?報告だと言っておろう?」
「名前君、いや、名前ちゃん、このお洋服、着てみない?」
「…」
「おや、人見知りさんかな?」
ニコニコ鼻の下を伸ばしながら、何処から出したかも分からない赤を基調としたフリルたっぷりのワンピースを取り出す首領に、完全に警戒しきった名前は、俺の後ろに隠れてグイグイ押してくる。ニコニコ笑みを浮かべながら名前の顔を見ようと俺の前にしゃがんでは必死に左右に揺れ動く首領と、それを見ながら笑みを浮かべ「警戒しておろう」と優雅に椅子に座りながら、特に助けも出そうとしないどころか「和装が似合うかのう」と呟く姐さんに、とりあえず話を聞いて貰おうと咳払いをして、言葉を発した
「申し訳御座いません。この時の名前は、成人した人間に対して基本的に敵意を持ってまして…」
「それは大問題だ。紅葉君、今持っている全ての任務を凍結、すぐ原因を突き止めてくれ」
「こんな愛らしい子を愛でる権利も無いとは…今すぐ全部隊を動かす準備をせねば…」
先程まで笑みを浮かべていた2人はすぐに真顔になる。切り替え早すぎな上俺の時と動きの早さが違うんじゃないか?と思ったが、口に出せば俺が危ないので口を噤む。姐さんが首領の部屋から足早に立ち去り、首領は椅子の方に足を向け、離れたのを確認した名前は俺を押すのをやめた。こいつが力一杯押した所で特にびくとも無いのだが、こいつは全力だったのか顔を真っ赤にしている。そのまま横に移動し、俺のコートを握る彼女の手を取ればキュッと握ってくる。はーったく可愛い。本当可愛い。
「報告します、休憩室で名前と会話をしていた時、突如音も無くこの姿になっていました。」
「成程、以前中也君も同じ状況になった訳だが、さて…」
「敵異能力者含め全滅させたはずです」
「そうだね、ならば別の要因か、はたまた感染系か。正直期待は出来ないが、紅葉君の結果を待とう。」
「そ、うですね。姐さんの連絡を待ちます。」
「戻るまでの間は中也君が彼女の世話を頼みたい。任務は…そうだね、名前ちゃんは会話が成立するようだし、状況次第という所だね。」
「分かりました。」
「所で、彼女、お洋服が無いようだね。うん、これは問題だ。大問題だ。このお洋服、きっと名前ちゃんに似合うよ!ささっこれ持って行って!」
「あ、有難う御座います」
またしても何処から持ってきたのか分からない紙袋にパンパンに詰められた服を受け取り、首領の部屋を後にした。

「…」
「どうした?」
「あ、あのさ…」
「おう」
「あのおじさんの下で働いてるの…?私が…?んぐっ」
「名前、ちょっと静かにしろ。いいな」
どん引きした顔をする彼女が、監視下であるエレベーターでそう発言するので慌てて口を塞ぐ。「んー!んー!」唸りながら俺の手をなんとか取ろうと抵抗する彼女に、「悪い」と口を抑えている手を離す。ぷっくり頬を膨らませて怒る彼女を宥める。「もう、何するの!」プスプス怒る彼女の頭を撫で落ち着かせていれば、やがて紙袋に入ってる服に興味を持ったのかそちらをじっと見ていた。
「気になるか?」
「売ればお金になりそうだなって」
「あー…今は売らずとも金はある。問題ねえ。」
「そうなの…?」
「嗚呼。」
「なんだか不思議、あんなどん底に居たのに」
「…後でこの服着るぞ」
「さっきみたいなフリフリはやだ」
「おー、後で見ような」
「うん」
憂いを帯びた表情をする彼女に居たたまれなくなり、話を少し逸らす。ったく餓鬼がする表情じゃねえぞ。ワシワシ頭を撫でれば「髪の毛グシャグシャになっちゃう」と少し笑みを浮かべながら俺の撫でてる手首を握る彼女に、少しでも幸せな記憶が増えれば良いと願うばかりだった。