再び3

どうやら移動中に畳んでくれたらしい彼女の脱げた服を樋口から受け取れば、彼女は職場に戻るとそちらの方に向かったのでそのまま別れた。小さくなった名前の手を握りながら俺達は仕事場に戻ると、俺の部下達が労いの言葉を掛けてくるのだが、その言葉は最後まで続く事は無く、全員が名前と俺の顔を見比べている。それなりの人数が居た為に、警戒した名前は少し空いた距離を詰めて俺に寄り添ってきた。緩みそうな顔をなんとか引き締めながら、部下達に名前が小さくなった事を説明すれば「隠し子かと思った」と何処からか聞こえてきた。おいちょっと待て、こんなでかい餓鬼産むならこいつと15で結婚したって事に…ンン”ッ、とりあえずその発言は目を瞑り、報告を終わらせた俺は服を着せるべく彼女を連れて仮眠室へと向かった。
紙袋から丁寧に服を出すと、どうやって入れたのか分からない程に溢れ出てくる。いや本当どうやって入れたんだろうか。片付ける時絶対大変だ。とりあえず彼女が元々着ていたスーツを紙袋に入れ、丁寧に畳まれた首領の服をテーブルの上に並べて1枚手に取り広げてみた
「どうだ?」
「フリフリいっぱいだからやだ」
「これは?」
「やだ」
「こっちは?」
「んー…ちょっとやだ」
「これ」
「絶対嫌」
フリルのついた服は彼女の好みに合わないようで、常に顰めっ面で服を見ている。「こんなんとか可愛いんじゃねえか?」彼女の前にしゃがんで、フリルの控えめな青を基調とした服を彼女の身体に当ててみるが、お気に召さないようで「やだ」とそっぽを向かれた。フリルがいっぱいあしらわれた西洋風の可愛らしい見た目をしている服が好みの首領と、基本的に動きやすいシンプルな物を好む彼女。物の見事に好みが正反対なので、彼女がお気に召すものはこの中には無さそうな気がする。こりゃ買いに行く方が早いか?と他の服を物色すれば、ふとフリルが付いてなさそうな白を基調としたシンプルなワンピースが目に入った。これなら彼女も着れるのではないかとそれを彼女の身体に当てて「これはどうだ?」と問う。テーブルに並んでる他の服と今当てている服を交互に見てはうんうん悩んだ後、彼女は「これにする」とワンピースを手に取ってくれた。「服が着れたら呼んでくれ」と仮眠室から出て壁にもたれ掛かりながら待つこと数分。カチャリとドアが開き、控えめに顔を覗かせる彼女の表情は困惑の色を滲ませていた。
「あの…」
「どうした?」
「背中にあるチャック、閉めれなくて…ちび君お願いしていい?」
「…おー、ほら、後ろ向け」
「んっ」
「ほらよ」
「ありがと」
チャックを閉めれば、邪魔だからと前に持ってきた長い髪を後ろに靡かせ、少し恥ずかしそうに頬を染めながら「なんだか変なの」と笑う彼女の頭を両手でグシャグシャ撫でる。「もう、髪の毛グシャグシャになっちゃう」と満更でも無い様子で、俺も笑みを浮かべた。

そういや彼女の靴を調達しないといけないな、と思って紙袋を確認したら深い青色をしたサンダルが1足だけ底に入れられていた。彼女がシンプルな服を好むのを予測していたのか、そのワンピースによく似合っており、彼女も「両足揃って靴がある」と喜んでいた。こいつの喜びの沸点がとても低い事に頭が痛むが、まあ悲しい顔よりかは断然良い。服を着せるという任務が完了した俺は、なんとか使わない服を紙袋に丁寧に入れてから彼女の手を取り仕事場に戻る。
「仕事あるからあんまり動くんじゃねえぞ」
「もう、子供扱いしないでよ」
「いや餓鬼だろ」
「ちび君も子供じゃない」
「これでも22だぞ俺…」
彼女の中での俺はどれだけ子供なのだろうか。基準が全く分からないが仕事場に戻って彼女が使ってる駒付きの椅子を俺が使ってるデスクに移動させ、そこに座らせる。足をプラプラさせて辺りを見回す彼女を横目で見ながら、あまり得意でない書類整理を始める。いつも彼女に頼んでるツケが回ってきたのだろうか。頭を抱えながら進めていくと、彼女が声を掛けてきた。
「ねえ、その漢字おかしくない?」
「あ?…あー、こっちか?」
「うん、後ここの文脈もなんか違和感」
「んなの適当で良いンだよ」
「駄目だよ、それでなくても日本語まだ難しいんでしょ?ここでちゃんと直さないと!」
「いや俺めちゃくちゃ喋ってるよな?」
いや本当こいつの中の俺の基準どうなってんだ?彼女の言うままに報告書を直していく。確かに彼女が指摘した通りに打てば、少し読みやすくなった。つーか年下の、しかも餓鬼に文章を指摘されるってどうなんだ、今までほぼ丸投げしていた書類整理だが、これからはこいつに指摘されないようにちょっと頑張ろうと決心した。