6-3.胸の奥に芽生えたもの
涙が止まらない透子を前にして、虎杖は完全に思考を失っていた。
どうすればいい。
何を言えばいい。
頭ではぐるぐる考えているのに、身体の方が先に動いた。
「……っ」
気づいた時には、腕を伸ばしていた。
細い肩を引き寄せる。
強くしすぎないように、でも離れないように、ぎこちなく抱き締める。
「……っ、わ……」
透子の身体が一瞬、びくりと強張った。
次の瞬間、堪えていたものが完全に決壊する。
嗚咽が、胸元に押し付けられる。
制服越しに、涙が滲んでくる感触と体の震えが伝わってきた。
「ごめん……ほんと、ごめん……」
何度も、同じ言葉を繰り返す。
それしか出てこなかった。
心臓の音が、やけにうるさい。
自分のものなのか、透子のものなのかもわからない。
でも、腕を離すという選択肢はどこにもなかった。
「……もう、絶対泣かせたりしねぇからさ……」
誰に言い訳するでもなく、虎杖は、ほとんど独り言みたいに呟いた。
それは約束というより、誓いに近かった。
透子の涙が、制服を濡らしていく範囲を広げていく。
その重さを、虎杖は逃げずに受け止めながら、心のどこかではっきりと思っていた。
――この子を守らなきゃ。
理由はまだ、うまく言葉にできない。
けれど、その感情だけはもう誤魔化せなかった。
ただ、はっきりしてることが一つだけあった。
――もう二度と、この子が泣く原因にだけはなりたくない。
その思いが、まだ名前もついていない感情として、虎杖悠仁の胸に確かに芽生え始めていた。