11-2.はじめてのデート(後編)

通りの角を曲がったところにある、小さなカフェに入った。
木目調の内装で、窓際の席にはやわらかい光が差し込んでいる。
昼前ということもあって、店内はほどよく静かだった。

「……ここ、でいいか?」
「うん。落ち着いてて、いいね」

そう言いながら席に着いたものの、二人とも、どこかそわそわしている。
メニューを開いても、文字が頭に入ってこない。

「……何にする?」
「え、あ……えっと……」

同時に声が重なって、また黙る。

「……」
「……」

さっきまで普通に話していたはずなのに、ナンパの一件以来、変に意識してしまって、空気の置き場がわからなくなっていた。
結局、二人とも同じような飲み物を頼んで、ようやく一息つく。

「……その……」

虎杖が、ストローを指でいじりながら言う。

「さっきの……ほんと、ごめんな。俺がちょっと目、離したから」
「ううん。虎杖がすぐ来てくれたし……」

そう言ってから、少しだけ言葉に詰まる。
胸の奥が、まだ、さっきのことで落ち着かない。

――言うなら、今かも。

透子は、膝の上で指を握りしめて、小さく息を吸った。

「……あのね」
「ん?」
「……さっきの」

一瞬、視線が揺れる。

「……かっこよかった」

虎杖が、ぴしっと固まった。

「……え?」
「その……」

透子は、少しだけ視線を逸らしながら続ける。

「急に前に出てきて……当たり前みたいに……」
「……」
「……すごく、頼もしかった」

そこまで言って、ようやく虎杖の方を見る。
虎杖の顔は、みるみるうちに赤くなっていた。

「い、いや……!」

慌てたように、ぶんぶんと首を振る。

「別に、そんな……普通だろ!」
「……でも」
「普通だから! 普通!」

耳まで真っ赤だ。

「……だって、時雨、俺の……大事な人だし……」

小さくそう付け足して、視線を逸らす。
透子の胸が、きゅっと鳴った。

「……うん」

それだけで、なんだか十分だった。
少しの沈黙が落ちる。
でも、さっきまでの気まずさとは違って、
今度の沈黙は、どこかあたたかい。
窓の外を歩く人たちをぼんやり眺めながら、透子は思う。

――こういう時間も、いいな。

「……なあ」

虎杖が、少しだけ言いにくそうに口を開く。

「今日……楽しいか?」
「……うん。すごく」
「そっか……よかった」

ほっとしたように笑う、その顔を見て、また胸が少しだけ熱くなる。
カップを持つ指先が、テーブルの上で少しだけ近づいているのに気づいて、
透子は、そっと自分の手を置いた。
触れるか、触れないか。
ほんの数センチの距離。
結局、触れないまま、でも、そのまま、二人とも動かなかった。

「……次、どこ行く?」
「……本屋、寄ってもいい?」
「おう。いいぞ」

そう言って、二人で立ち上がる。
店を出るとき、肩が、また少しだけ近かった。
まだ手は繋げない。
でも。

――少しずつで、いい。

そんなふうに思いながら、透子は、隣を歩く虎杖を見上げた。
虎杖は、気づいたのか気づいていないのか、少しだけ照れた顔で前を向いたままだった。