6-1.急転直下の出来事
交流会の開始直前。
張り詰めた空気を破るように、場違いなほど軽い足取りが割り込んできた。
「おまたー!!」
聞き慣れた声に、数人が一斉に振り返る。
五条悟だった。
大きなキャリーワゴンを、ゴロゴロと音を立てながら引いている。
簡素な作りのワゴンだったが、蓋だけが妙に厳重だった。
「先生、それ何ですか」
伏黒が眉をひそめる。
「ん? 皆にプレゼントだよ」
悪びれもせず、五条はワゴンを東京校の1年の面々の前に置いた。
透子は、そのワゴンから目を離せずにいた。
理由はわからない。
ただ、胸の奥がざわつく気配がある。
止める間もなく、五条が蓋に手をかける。
意味のわからない不安が、喉の奥に詰まった。
次の瞬間。
「故人の虎杖悠仁君でぇーっす!!」
「はい! おっぱっぴー!!」
間抜けなほど元気な声が、静まり返った場に投げ込まれた。
同時に、蓋が跳ね上がる。
ワゴンの中から、ひょいと顔を出した人物を見て、世界が一拍遅れて止まった。
「……え?」
誰かの声。
それが誰のものか、透子にはわからなかった。
見間違いだと思った。
幻覚だとも思った。
だって――死んだと聞かされていたのに。
五条が楽しそうに肩をすくめる。
場の空気を読まない笑顔のまま、遅れてきた京都校の楽巖寺学長と話をしている。
ざわめきが、遅れて押し寄せる。
伏黒は、珍しく言葉を失っていた。
釘崎は口を開けたまま、固まっている。
けれど、透子の耳には、何も届かなかった。
虎杖が、ワゴンから完全に出てくる。
土の上に、しっかりと足をつけて立つ。
生きている。
呼吸している。
目の前に、確かに存在している。
――生きている。
その事実がゆっくりと、しかし致命的な重さで胸に落ちてきた。
膝が、わずかに震える。
「……あ」
声にならない音が、喉から漏れた。
理解が追いつくより先に、張り詰めていたものが音を立てて崩れ始める。
虎杖が、透子の方を見た。
「時雨?」
名前を呼ばれたその瞬間、透子の視界が一気に滲んだ。