呪具の受け取りと検品は、窓の仕事だ。
書類上の手続きと、現物の確認。
それだけなら、本来リョウ一人でも問題ない。
ただ今回は、少しだけ事情が違った。
「……本当に、五条さんまで来なくても大丈夫だったんですけど」
人通りの多い通りを歩きながら、リョウがそう言う。
「一応、呪具だよ? 運搬ルートも人混み通るし、念のため」
五条はそう言って、周囲を軽く見渡す。
六眼で見るまでもなく、危険らしい危険はない。
それでも、わざわざ同行してきた理由は、それだけじゃない。
――一人で行かせる選択肢が、最初からなかっただけだ。
リョウは、それ以上は何も言わずに頷いた。
受け取り先の店は、繁華街の一角にある小さな専門店だった。
裏の倉庫で呪具を確認し、書類と照合する。
何も問題なし。
「……以上で、大丈夫です。ありがとうございました」
店を出たところで、リョウは小さく息をついた。
「思ったより、あっさり終わりましたね」
「そもそも、危険度低いやつだし」
五条はそう言いながら、自然に彼女の横に並ぶ。
「じゃあ、高専戻る?」
「……あ」
リョウは一瞬だけ、言葉に詰まった。
「どうしたの」
「いえ、その……せっかくここまで来たので……」
少しだけ視線を泳がせてから、続ける。
「……少し、寄り道してもいいですか?」
五条は、ほんの一瞬だけ彼女の顔を見てから、すぐに口元を緩めた。
「いいよ。どうせ今日は、これで仕事終わりでしょ」
「はい」
繁華街の通りは、平日の夕方でもそれなりに人が多い。
店先の看板、呼び込みの声、行き交う人の流れ。
リョウは無意識のうちに、人を避けるように歩いている。
気づくと、ほんの少しだけ五条の後ろに下がっていた。
五条は、歩調を緩める。
「リョウ」
「はい?」
振り向いた瞬間、リョウの手首を軽く掴んで、そのまま引き寄せる。
「……え?」
驚く彼女を気にせず、今度は指先を絡めて、しっかりと握る。
――恋人繋ぎだ。
「迷子防止に」
「……五条さん」
抗議の声は小さい。
「人多いでしょ。はぐれるの面倒だし」
言いながら、指に少しだけ力を込める。
離すつもりがないことを、遠慮なく伝える握り方。
リョウの指先が、わずかに強張ってから、ゆっくりと力を返してくる。
「……」
顔が赤い。
けれど、振りほどこうとはしない。
呪力の揺れもない。
むしろ、少し落ち着いたくらいだ。
「ほら、行くよ」
五条は、そのまま彼女の手を引いて歩き出す。
人混みの中で、彼女の体温が、やけに近い。
――仕事の延長、の顔はもうしてないな。
そう思いながら、五条は、指を絡めたまま、ゆっくりと繁華街の中へ進んでいった。